えんじゅです。
僕の好きなフォークシンガー高田渡さんの歌に、
『鮪に鰯』という曲があります。



沖縄出身の現代詩人・山之口獏さんの詩に
そのまま曲をつけたもので、
1954年アメリカ軍が太平洋上のビキニ環礁で水爆実験を行った際に、
第5福竜丸をはじめ被爆した遠洋マグロ漁船が運んできたマグロが
いわゆる「原爆マグロ」として問題になったことを、
一種皮肉った?ものです。

当時の日本はまだ高度成長期以前で
マグロなど到底手が出ないという家庭が多く、
主人が鰯の頭についた火鉢の炭を「ビキニの灰」と言って
奥さんにたしなめられるという光景が、
われわれの日常とメディアの伝える「現実」との対比を
見事に表現してると思います。

ビキニ環礁(現・マーシャル共和国領内)では1946~1958年まで、
水爆を含め実に67回もの核実験がアメリカ軍によって行われました。
周辺地域の放射能汚染によって、
住民は今でも被曝の後遺症に苦しんでいるそうです。

http://www.morizumi-pj.com/bikini/bikini.html

核の恐ろしさは、言うまでもなく、それが遺伝子に異常をもたらす、
ということです。
広島、長崎でもそうですが、後遺症は子や孫にも引き継がれ、
がんやその他の(遺伝子異常による)障害などの発生率が増加します。
またそうした疾病による絶望感や将来への不安感から
自殺率の上昇などが見られることも、チェルノヴイリでの調査などから
明らかになっています。

http://www.antiatom.org/GSKY/jp/Hbksh/j_cherno.htm

その一方で、そうした核を扱う側の政治や、
大企業を中心とした経済は、そうした「現実」とは対照的な捉え方を
していました。

一連の水爆実験は「キャッスル作戦」というコード名がつけられ、
そのうち第5福竜丸が被曝した際の作戦は「ブラボー作戦」と
呼ばれましたし、広島・長崎に落とされた原爆は、
それぞれ「リトルボーイ」とか「ファットマン」という名前がついていて、
「ファットマン」には「KISS FOR HIROHITO」という文字が
書かれていたと言われています。
また水着の「ビキニ」も、その形がこの水爆実験級の衝撃がある、
ということで名づけられたものです。

そうした姿勢は非難されてしかるべきものだとは思いますが、
日常を過ごすわれわれの側も、こうした核の問題を
正確に認識していたわけではありませんでした。
火鉢の炭を「ビキニの灰」と言って主人は奥さんにたしなめられますが、
実はわれわれ自身が核の恐怖(被曝の危険性)に曝された
「鮪なのであって地球の上ではみな鮪」だったわけです。
そのことを忘れたとき、ただ「生活のため」と言って、
原発を導入するという誤りを犯してしまったのではないでしょうか。

そうしたことを考えると、僕なんかはなんだか黒澤明さんの映画
『生きものの記録』を思い出してしまいます。

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