えんじゅです。
久しぶりに珠玉の映画を見ました。
『フローズン・リバー』という映画です。

フローズン・リバー [DVD]/メリッサ・レオ,ミスティ・アップハム,チャーリー・マクダーモット
¥4,935
Amazon.co.jp




カナダとの国境に接するアメリカ・ニューヨーク州最北端の村。
近隣には先住民モホーク族の保留地があり、

住民の多くがトレーラーハウス住まいの、
経済的にも決して恵まれてるとは言えない極寒の地域です。

1ドルショップ(日本で言う100円ショップですね)で

パートとして働くレイは二児の母親。
ギャンブル中毒の夫が新しいトレーラーハウス購入のための

資金を持ち逃げしてしまったために、
古くなったトレーラーハウスでなんとかやりくりしながら

生活しているのですが、生活は苦しく、

15歳になる高校生の長男T.J.までが働くことを提案する始末。

レイは仕事の合間に夫を捜し回りますが、夫は見つからず、

やっと保留地のビンゴ会場で見つけた夫の車も、
モホークの女性ライラが道端に乗り捨ててあったのを

勝手に持ってきたものだったことが分かります。

途方にくれるレイでしたが、その後のライラとの

ちょっとしたやりとり(いざこざ)から、

ライラの仕事を手伝うことで新居を買う資金を稼ぐことになります。


その仕事とは、凍りついた国境の川の上を渡って、

対岸のカナダ側の保留地からアジア出身の労働者たちを

密かに連れてくること――つまり不法移民の密入国の

手助けをすることでした…。


最近、昨年の中間選挙や来年の大統領選もあって注目されてる

アメリカの移民問題。

先日の下院議員襲撃事件でも背景のひとつとされてましたが、

現在主にマスコミの注目を浴びてるのはメキシコ側、

つまりヒスパニック系不法移民の問題だと思いますが、

ヒスパニック系に限らず、アメリカには伝統的にこの移民の問題が、

その政治や社会に深い影を落としていると思います。


いわゆる太平洋戦争の遠因にもなった日系移民の排斥や、

1920~30年代に大きな騒ぎとなった

「サッコとヴァンゼッティ事件」など、

アメリカでは幾度となく移民排斥の動きが

一種のナショナリズムに近い形で噴出してきました。


最近のヒスパニック系を初めとする移民の入国管理の厳重化も、

そうした流れの中に位置づけられると思いますが、

中国の蛇頭(実際この映画で名前が出てきます)を初めとした

アジアや東欧、カリブ諸国などからのブローカーを介した

不法移民もまた、結構大きな問題となってるようです。


もともとアメリカは移民の国で、

いわゆるアメリカン・ドリームを実現するためにやってきた移民も

大勢いたようですが、

その実態は悲惨で、寒さと飢えの中で人知れず死んでいく者も、

決して少なくはなかったようです。


「独立精神」といえば聞こえはいいですが、

個人に徹底した自己責任の原則を押し付けることの限界を、

アメリカ社会は教えてくれると思います。

(他にもマイケル・ムーア監督の『シッコ』などが参考になります)

シッコ [DVD]/マイケル・ムーア
¥3,990
Amazon.co.jp


ひるがえって日本を見てみれば、

少子高齢化による移民制度導入の必要性が

論壇などでは真剣に議論されています。

またフィリピンや東南アジア諸国との協定では

彼の地の介護士志望の人たちを受け入れることが決まり、

すでに多くの人たちが日本に来て勉強しています。


現在の日本の民主党がマニフェストで主張する

外国人参政権の付与も、

そうした時代背景を基にしたものだと思いますが、

欧米にしろアジアにしろ、

経済がある程度の規模まで発展してしまうと、

どうしても縮小傾向というものは出てきてしまうもので、

実際イギリスやフランス、ドイツなどでも、

労働力(特に低賃金の)の主力は徐々に移民層に

シフトしているそうです。


レイのような、いわゆるホワイト・トラッシュ(白人貧困層)も、

そうした時代、経済状況の下に生まれてきた時代の産物で、

だからこそ生活保護や皆保険といった社会保障が

いかに大切かということを痛感します。


初めはうまくいっていたレイとライラの仕事でしたが、

クリスマスの夜に運んだパキスタン人女性のバッグを

「危険物かもしれないしじゃまだから」という理由で

川の真ん中に置いてきた(女性の子どもがいました)ことから

歯車が狂いだします。

そして悲劇的な結末を迎えてしまうのですが、

唯一救いなのが、レイとその息子たち、そしてライラとの間に、

人種や貧富の問題を超えた、ひとつの絆が生まれることでしょうか。


蛇足ですが、この映画はロバート・レッドフォードの主催する

インディペンデント映画の登竜門サンダンス映画祭で

グランプリを獲ったほか、ストックホルム国際映画祭でも

グランプリを獲るなど数々の賞を獲ったというだけあって、

自然光での撮影を基本とした画面(え)は実にきれいで、

俳優の演技や話の筋にも無理や淀みがなく、

映画として、本当にすばらしい出来だと思いました。


監督のコートニー・ハントさんの、

初監督作品とは思えない手腕には、

心底脱帽しました(;^_^A