バーナード・マラマッドの短編『死を悼む人々』読了。

 

アパートの大家との対立や、自身の過去の選択による孤独と悔恨が描かれる中、突然訪れる「死を悼む人々(モーナーズ)」の存在を通じて、人間の苦悩や赦しが静かに描き出される作品(Googleより) 

 

一口では言えない味わいを持つ作品である。

一生の内で、後悔のひとつもない人間など、果たしているだろうか。

その意味で、人間は誰しもがケスラーのように孤独に生きていて、ふとした瞬間にそれが洪水のように溢れ出してくるのだろう。

ケスラーにとってはアパートからの立ち退きという命令がそれだっただけだ。

家族を捨てること、あるいは家族/社会から捨てられること。

その痛みを知っている人間だけが、何かを語ることができるのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

アディーチェの『イジェアウェレへ フェミニスト宣言 15の提案』読了。

 

 

アディーチェが、娘を生んだ幼馴染の女性に「娘をフェミニストに育てるにはどうしたらいい?」と質問され、回答として書いた手紙が元になったもの。

15の提案が為されているが、どれにも共通しているのは、彼女(イジェアウェレの娘)を、黒人として、でも、女性として、でもなく、一個の人間として育てること、それだろう。

ジェンダーを巡る議論には様々な構成要素が俎上に上げられる。

人種、国籍、文化、社会的慣例、歴史、生物学、疑似科学……そのどれもが、一個のジェンダー(アイデンティティー)を持つ一個の人間に覆いかぶさっている。

そのどれともうまく折り合いをつけていくための、ひとつのヒントとなるのが本書だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べていくための仕事にひと休みして 私はTVをつけた

眠らぬ旅のあれこれを 生れた街で癒そうと試みていた

 

明日にはこの街に雪がちらつくだろうと 季節はずれの天気予報が流れていた

明けきった5時半の空に目を細めて チャンネルを変えた

 

中継という文字 そして私の瞳に爆風が噴きつけて来た

長い間に見慣れてしまっていた白く平たい石造りの建物から

朱色の炎と石くれが噴きあがる瞬間だった

ゆらゆらと熱のかげろうはあがり

やがて白い煙から土色の煙となって建物から噴き出していた

 

昨日までと今日は違うものなのだと

人はふいに思い知らされるのだね

 

蟻のように黒い人影が走り込む 身を潜める 這い進む 撃ち放つ

どうせTVの中のことだと考えることもできず 考えないわけにもいかず

ただ私は誰が何を伝えようとしているのか

それだけに耳を傾けた それだけに耳を傾けた

 

大きな救急車が扉を広く開けて待ち構え続けている

担架に乗り 肩にかつがれ 白い姿の人々が運び出される

 

日本人が助けられましたと 興奮したリポート

ディレクターの声もエンジニアの声もいり混じっている

人質が手を振っています元気そうです笑顔ですとリポートは続けられている

その時ひとかたまりの黒い姿の人々が担架を囲んで飛び出して来る

 

リポーターは日本人が手を振っていますとだけ語り続ける

担架の上には黒く煤けた兵士

腕は担架からぶら下がり 足首がグラグラと揺れる

兵士の胸元に赤いしみが広がる

兵士の肩に彼の銃が ためらいがちに仲間によって載せられる

担架はそれきり全速力でいずこかへと運び出されてゆく

 

日本人が元気に手を振っていますとリポーターは興奮して伝え続ける

黒いアリのようなあの一人の兵士のことはひと言も触れない ひと言も触れない

 

日本人の家族たちを喜ばせるためのリポートは 切れることなく続く

しかしあの兵士にも父も母も妻も子もあるのではなかったろうか

蟻のように真っ黒に煤けた彼にも 真っ黒に煤けた彼にも

 

あの国の人たちの正しさを ここにいる私は測り知れない

あの国の戦いの正しさを ここにいる私は測り知れない

 

しかし見知らぬ日本人の無事を喜ぶ心がある人たちが何故

助け出してくれた見知らぬ人には心を払うことがないのだろう

 

この国は危い

何度でも同じあやまちを繰り返すだろう 平和を望むと言いながらも

日本と名のついていないものにならば いくらだって冷たくなれるのだろう

 

慌てた時に 人は正体を顕わすね

 

あの国の中で事件は終わり

私の中ではこの国への怖れが 黒い炎を噴きあげはじめた

 

4.2.3.…… 4.2.3.……

日本人の人質は全員が無事

4.2.3.…… 4.2.3.……

 

 

 

内容紹介

Mr.Childrenらもカバーする名曲「糸」、空前の大ヒットとなった「空と君とのあいだに」「地上の星」「ヘッドライト・テールライト」など、その国民的歌手の地位を不動のものとした1987年から2003年に発表した作品の詞を網羅した歌集を愛蔵文庫版で。

内容紹介(「BOOK」データベースより)

独特の魅力をたたえた楽曲が支持され、4つの年代でシングルチャート1位を獲得している唯一の女性アーティスト・中島みゆき。「空と君のあいだに」「地上の星」などの大ヒット曲から、コンサート「夜会」での発表曲まで含めた全229曲を収録した歌詞集第2弾。