3つ目の命 ー 5 ― | 父像~ふぞう~

父像~ふぞう~

著者 立華夢取(たちばな・むしゅ)

 分娩室を出た俺は、電話を掛けるために産婦人科の外に出た。

待合室にコートを置いたままだった事もあり、外は凍えるほど寒い。

近くの家には、昨日までのクリスマスを演出した装飾電球の光が、チカチカと幸せな光を灯していた。


 狛江のマンションでは、真貴子の出産に合わせて上京した義母が待っていた。


「もしもし。あっ、お義母さんですか?いま、無事に産まれました。男の子です。」


 あの日以来、義母の方から桐生家の様子を訊いてくる事はない。

恐らく、真貴子とは何らかの話をしているのだろうが、義母とて真貴子の敬愛する祖母の実娘だ。

過去ではなく、父親として生きようとする俺の今に期待しているのだろう。


「そうかいっ。真貴子も赤ちゃんも元気かい?」


「えぇ、二人とも元気ですよ。大丈夫です。」


「こっちは、和貴も真理もいい子にしてるから。そうかい、そうかい。無事に産まれて良かった。本当に良かったよ。」


 安心した義母の喜ぶ声が嬉しかった。


 野口氏が口癖のように言っていた、親孝行をした気分を味わった気がした。


 6日後、洋平と名づけられた我が子を胸に抱き、真貴子は退院した。

義母は、和貴と真理に別れを惜しまれながら柏崎に戻って行った。


 9歳になって間もない長男・和貴、2歳7ヶ月の長女・真理、大役を終えた真貴子、そして俺という家族に、新たに次男・洋平が加わった。


 沈もうとしている”DV”の2文字。


俺はこの5人が、いつまでも家族でいられると思った。


俺が、諦めなければ・・・。




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