分娩室を出た俺は、電話を掛けるために産婦人科の外に出た。
待合室にコートを置いたままだった事もあり、外は凍えるほど寒い。
近くの家には、昨日までのクリスマスを演出した装飾電球の光が、チカチカと幸せな光を灯していた。
狛江のマンションでは、真貴子の出産に合わせて上京した義母が待っていた。
「もしもし。あっ、お義母さんですか?いま、無事に産まれました。男の子です。」
あの日以来、義母の方から桐生家の様子を訊いてくる事はない。
恐らく、真貴子とは何らかの話をしているのだろうが、義母とて真貴子の敬愛する祖母の実娘だ。
過去ではなく、父親として生きようとする俺の今に期待しているのだろう。
「そうかいっ。真貴子も赤ちゃんも元気かい?」
「えぇ、二人とも元気ですよ。大丈夫です。」
「こっちは、和貴も真理もいい子にしてるから。そうかい、そうかい。無事に産まれて良かった。本当に良かったよ。」
安心した義母の喜ぶ声が嬉しかった。
野口氏が口癖のように言っていた、親孝行をした気分を味わった気がした。
6日後、洋平と名づけられた我が子を胸に抱き、真貴子は退院した。
義母は、和貴と真理に別れを惜しまれながら柏崎に戻って行った。
9歳になって間もない長男・和貴、2歳7ヶ月の長女・真理、大役を終えた真貴子、そして俺という家族に、新たに次男・洋平が加わった。
沈もうとしている”DV”の2文字。
俺はこの5人が、いつまでも家族でいられると思った。
俺が、諦めなければ・・・。