■今日は朝から調子が悪かった。
なんとなく寒気がするし、とめどなく咳が出るし、間違いなく熱がある。
これは恐らく風邪だろう。久しぶりにやってきた。
風邪はこじらせると危ない。甘く見てはいけない。故に休むのが正解。
…と、トントン拍子で自分を納得させられたら大変ラクなのだが、
会社を丸1日休んでしまうことで溜まる仕事の事を考えると、そうもいかない。
さらに、顔も出さずに休む事は、常に仮病を疑われるものだ。
■仮病は難しい。
演技力もさることながら、そのタイミングにもセンスが求められる。
やたらと乱発するのは論外として、たまに使う場合にも注意が必要だ。
なぜなら、仮病のすぐ後で本当に体調を崩した場合、休むに休めない。それは地獄だ。
そして人は仮病を恨む。仮病なんて使わなければよかった、と。仮病もいい迷惑である。
つまり仮病は、「しばらくは健康そうだな…」という予測のもとで抜く、伝家の宝刀なのだ。
その切れ味は抜群、全ての予定を切り伏せて、夢のような「快眠」を得ることができる。
体調管理の重要性が叫ばれる昨今、仮病を自由自在に使いこなす技術は必須といえよう。
我々の仮病技術の向上が、社会問題にもなっている過労死を防ぐ希望の光なのだ。
■そのような経緯から、今日は仮病を使わずに出社し、午後から帰ることにした。
本当に風邪をひいているのだから、状態を見てもらえば流石に帰してもらえるだろう。
少しでも午前中に仕事を終わらせれば、明日の負担もそれほど増えずに済む。
さらに、明日になれば「大丈夫?まだあまり無理しないでね」と心配してもらえるのだ。
…完璧だッ!イッツパーフェクトッ!
何が仮病だ、ニセモノ風情が本物の病気に勝てるわけが無いのだ。身の程を知れ。
会社の玄関に到着すると、帰宅後のお昼寝を想像してニヤけてきた。
まだだ、喜ぶのはまだ早い…。まずはこの体調の悪さをさりげなくアピールし、
「あれ?体調悪いの?」と食いついてきてからが勝負だ。
なに、案ずることなかれ。俺は病気だ。
そうだよ病気は万能なんだ、味噌っかすの仮病とは違う。
演技など必要ない、ただ姿をあらわして咳のひとつもしてやれば、それで終わり。
他の人に移したら大変なのだ。帰ることが正しいのだ。
ガチャ
俺 「ゲホッ……おはようご……ゲホッ……ございます…」
上司 「………ん……」
俺 「………あれ?どうしたんですか?」
上司 「いや、なんか朝から体調悪くてね……ゴホッゴホッ」
俺 「マジですか…薬とか飲んだほうがいいんじゃないですか」
上司 「一応飲んできたんだけど、変わらないな…ゴホッ」
俺 「うーん、困りましたね」
上司 「……風邪かなぁ。皆に移したら悪いし、病院寄って帰るか……仕方ない」
俺 「あー……なんかあったらメールしますね」
上司 「頼むわー。他のみんなによろしく言っといて」
俺 「了解です。お大事に」
ガチャ
俺 「…………………………あれ?」