「不機嫌なジーン」~遺伝子に感情はありません!~ | あざみの効用

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「不機嫌なジーン」のあんまりにもひどい内容に唖然。脚本家は間違いなくドーキンスの「利己的な遺伝子」読んでいません。人も生物である以上行動の究極要因としてジーンの影響を否定することはできないが、それは決して決定論ではありません。ドーキンス自身がその他の人に影響を与えるものとしてミーム(文化的要因)を想定しています。もしも読んでコレだとするならば、その程度の知性しかもちあわせないあなたの遺伝子は(以下自主規制)。

遺伝子決定論はむしろ動物行動学を批判する側が利用しているところです。同じように動物行動学の知見を安易にヒトに利用する竹内久美子 についてはただのエッセイストだしあんまりのとんでもぶりに検証する気すら失いますが、著名なところでは正高信男検証としては後藤和智さま記事 がありますのでご一読のほどを。


一時カウンセリングブームが湧き上がったときと同じ匂いがします。何でもかんでもトラウマやら心的外傷後ストレス障害やらフラッシュバックやらの聞きかじったそれっぽい専門用語を散りばめると高尚な物語(個人のアイデンティティ探しとしても)ができたような気持ちになります。

もちろんドラマとして安易に楽しめるように脚色することは仕方の無いことと思います。がその結果世間に撒き散らされる誤った知識に基づく偏見等についてはどのように考えているのでしょう?

<弊害例>

精神分析ブーム(←既に心理学の範疇として精神分析をまともに論議する人はいません。もはや文学の領域です)の結果、アメリカでは「偽りの記憶」に基づく訴訟が乱発されました。それはこの記事 でも引用した認知学者のロフタス氏が明らかにしたところです。

その詳細は、催眠療法でよみがえったとされる記憶は医学的に曖昧な部分が多く、「偽りの記憶症候群」つまり「実際に起きていない事柄を自分が体験したものと強く信じ、またそれを信じない人を拒絶する」状態に、陥る事があるというものです。アメリカの裁判例は催眠療法を受けた結果、過去に父親から性的虐待を受けた記憶が蘇り(←正確にはそのような記憶が捏造された)、今の自分の境遇はそのせいだとして損害賠償を求めるというばかばかしい類のものです。

安易な遺伝子決定論は人間の多様性、可塑性に対する冒涜です。もちろん影響は及ぼしますが、そこから決定までは論理の飛躍にも程があり全く意味が異なります。そのような誤った知識が蔓延した結果、ナチス、北欧、そして日本でも断種がおこなわれたという歴史を知らないのでしょうか?

動物行動学、進化心理学、進化生物学等の分野で着々と積み上げられている一連の研究成果が貶められることは我慢なりません。

進化研究と社会 に参考文献やトピックがまとまっているので参考にしてください。