ドーナツ裁判 | fuyusunのfree time

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長唄などの邦楽をこよなく愛する看護師のfuyusunです。
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高齢者施設入所中の方が、おやつの時間に急変。一か月後に低酸素脳症で亡くなられた。

嚥下に問題のない方はドーナツ。嚥下に問題のある方はゼリーが提供。亡くなられた方はドーナツが提供された。

現場には介護士が二名。准看護師が一名。介護士一名はトイレ介助に追われ、介護士一名と准看護師でおやつの提供を行っていた。

准看護師は、その亡くなられた方の隣で、自己摂取できない利用者にゼリーを食べさせていたそうだ。

そこへトイレ介助を終えた介護士が准看護師の隣で急変しているのを発見。その時に准看護師もようやくとなりにいた人の急変に気が付く。そして、すぐに救命処置が行われたが、意識が回復する事なく救急病院に搬送。意識回復せずその方は一か月後死亡された。

そして、准看護師が業務過失致死に問われて裁判となった。一審では有罪となり罰金刑が科せられたが、無罪を主張して控訴。最高裁で先日無罪を勝ち取ったというニュースを見た。

この亡くなられた方は何が原因で亡くなったのでしょうか?状況的には、ドーナツを詰まらせて窒息したと考えられる。

しかし、隣にいた准看護師が食べ物を詰まらせて苦しんでいるのを気が付かないであろうか?不思議である。

看取った医師が不審死として、その方が亡くなった時に頭部のCTを撮ったそうだ。しかし、残念な事に解剖はしなかったらしい。その所見では、窒息死特有の脳の浮腫が認められず、幾つかの脳梗塞が発見された。しかし、亡くなられた後なので脳梗塞が起因で亡くなったかは不明。

たぶん、おやつのドーナツを食べていて・・・。という状況からボタンの掛け違いが起きて、「窒息」と思い込まれた感じがする。・・・よく分からないけれど。

急変した際に吸引をした。・・・だから、ドーナツを詰まらせた?!いやいや、その状況下だったら、私もまず「詰まらせた」と思って吸引すると思う。しかし、同時に何が起きて呼吸を止めたのか、意識を失わせたのかアセスメントをしていく。吸引は救命行為であり、またアセスメントの上で原因を削除していく行為でもある。

たぶん、時間が経っての訴訟だったのかも知れない。

医師が、CTの結果を家族に「窒息に伴う特有な脳浮腫の所見もなく、窒息が原因とは考え難い」ときちっと説明していれば、もしかしたらこの准看護師が責任を問われる事はなかったかも知れない。

実は、この利用者さんは一週間前くらいに「おやつは固形ではなくてゼリーにしよう」という介護士間で取り決めをしていたらしい。

准看護師はその取り決めを知らずに、ドーナツを提供してしまったらしい。あるある話である。

病院の場合は看護師間の共通認識が介護士に伝わっていなくて事故が起きたりしてしまう。つまり、どこの病院でも施設でもありそうな話である。

この施設では准看護師がその情報を得るシステムとなっていないので仕方がないと弁護側の主張が採用された。

いやいや、私はこの部分は納得がいかない。看護師、准看護師はリスクを予期し注意し安全確保する義務がある。

ドーナツやパンは、口腔内の唾液を吸い取ってしまうため、嚥下がし難くなってつまらせる事がある。いつも大丈夫だから大丈夫という事は子どもとお年寄りには皆無と考えた方が良い。私的には、情報収集する義務を怠り、アセスメント不足からリスクを予期する義務を怠り、注意義務を怠った。つまり、業務上の過失を問われても仕方がないと考える。

ただ、その方の死因を巡っての訴訟となるとうーん・・・難しいなと思う。ただ、すぐ隣に座っていて、急変に気が付かなかったというのもいただけない。

 

看護、介護の現場で、患者さんや利用者の方々のQOLを高めるような援助は危険が伴う。だから、再三の注意が必要なのである。

個人に責任を問うようになると、やがて現場から安全性だけが優先されて、サービスを受ける側のQOL・・・つまり生活の質が悪くなっても仕方がないとなってしまう可能性がある。患者さんや利用者の方々が主体となるサービスが、スタッフの保身しか考えられないサービスの提供となってしまう可能性がある。

自分で立って歩いてトイレに行ける人に対して、転倒のリスクを考え自分で勝手に歩かないように車いすに縛り付けたり、センサーで動きを感知して「ダメじゃない!勝手に動いて」とスピーチロックという言葉の抑制で相手を縛り付けるようになる。

社会は、そうなってしまう事を懸念して、この看護師の無罪を求め40万部の署名を集めて最高裁に提出したらしい。

「そうだよね」と思いつつ、やっぱり、この准看護師さんの過失もあるよなぁとちょっと複雑気分。このモヤモヤした気分をまとめたくて記事を書いた次第です。