イチゴブームなのか、イチゴマニアのイチゴ品種の分析をSNSで良く見かけますが、その品種ができた背景を深掘りしようとするものもあったりして、元育成者からしたら、興味深いものも見かけるけど、的外れな評論もけっこう多数目にするよね。

相曾さんのかなこまち。5月30日まで販売してました。
これは、おそらくは農家や市場の人とは良く話しているけど、作り手である育種の現場の人の話を聞いてないからだろうな〜🤔 と思いますね。
論文に書かれている情報というのは、おそらく1/10も育成の意図が書かれていない訳で、致し方ないと思うこともあります。
一方で、県内の野菜ソムリエさんとかは、理屈はともあれ、主にその県でできた品種そのものを愛好してくれている方もいまして、愛を感じるから、ボク的にはありがたいばかりです🙏
ボクはいろんな種類(サトイモ、タマネギ、カラシナ2品種、トマト3品種、イチゴ)の品種育成を手掛けていたけど、品種育成とは何か?と言ったら、ズバリ『育種目標を設定して、目標に近づけること』ですよね。
それなしで、育種親を選抜して、交配はできないわけです。
なぜなら、どんな品目でも品種はあって、多いものだと数百、数千あるわけで、例えば100品種から2つ選んで正逆交雑して得られる組み合わせ数は
(A×B と B×A を別扱い)で組み合わせると 9,900 通りになります。
組み合わせ数だけでもこれだけあるのですが、交配育種の場合は、遺伝現象のうち、連鎖と組み換えを主に利用するので、最低でも1組み合わせで1000個体の実生を作ります。
そうなると、例えば100個体から品種を育成しようとしたら、9,900,000個体も選抜しなければならなくなります
それは、圃場の広さや選抜的にも絶対にムリなので、いくつかの形質の改良に絞り込むわけです。
その時に大切なのが、育成された品種の受益者がどのような品種を求めているのか? また、その品種を選ぶために必要な親品種がいくつ必要か?ということになります。
それが1番大切なんで、食味がどうのこうのは、総合形質の中の1つの形質なんだよね。そこが重要な視点です。
イチゴ産業の特徴としては、そこそこの品質、例えば早生性、収量性、形状の安定性、そして章姫以降では糖度8以上あれば良く、遠隔地が商圏である九州産地などはそれに日持ち性と輸送性が求められる。
一方で、近在産地で県内で生産・消費されるような三重県とかは日持ち性や輸送性はどうでも良くて、長らく章姫が主要品種でした。あんなに多収で炭疽病に強い三重県のかおり野のシェアが6割超えたのはつい最近のことです。
かなこまちの育成の場合は、最後に紹介するとして、ボクが直接お話させてもらった育種家のお話を少し紹介します。
まず、ボクがお話させてもらったのは、千葉県の成川昇さんだけど、彼は1種の天才で、育種においても、栽培法についてもパイオニアだったのは間違いない。
今、イチゴもF1品種が様々出てるけど、その構想の元は成川さんです。三重県や農研機構は種子繁殖性イチゴを自慢してるけど、そりゃオリジナルではないよね。
成川さんには、麗紅のことをお聞きしたんだけど、話の99%は自慢話で、育成直後は県外から毎日大型バスで視察に来たとか話されてた🤣
しかし、ちょこっとだけ教えてくれたのは、育種手法として確率を上げるためにself crossしてから使うとかだよね。麗紅は母親 福羽、父親 はるのかだけど、福羽は自殖個体です。
麗紅は、あまり長い間リーディングバラエティではなかったけど、その後の育種親としての貢献度からすれば、金字塔と言って良いです。農家も、恐ろしく収量が取れる品種だったと言ってました。
その後、東日本の品種育成は栃木県が脚光を浴びるんだけど、それは女峰を育成したことに尽きます。
実は女峰は、大変な難産で、はるのかとダナーから作って選抜した実生にダナーを戻し交雑したんだけど、品質は良く、早生であるものの収量性が悪くて暗礁に乗り上げてしまったんだよね。
それで、事態を打開したのは、赤木博さんでした。
赤木さんが凄いのは、晩生の麗紅をかけて早生の女峰を引き出すという離れ業をしたことだよね。
ボクは何回か推進会議で赤木さんとは話しているけど、お互いに酔っ払っていて、あんまり話の内容は覚えてないんだけど、覚えているのは、育種学の先生というよりは、栽培技術に卓越していて、その品種に内在する特性を見抜くことにあったね。
だから、話していても栽培の話が多かった。それは、ボクにも強く影響が残りました。
その後も栃木県はとちおとめという金字塔を打ち立てたんですが、あれは主には石原さんの業績だよね。同じ育成者の栃木さんとは割とお互いよく知って教えてもらいました。
なぜ女峰から新品種とちおとめを育成せねばならなかったのかと言うと、本当のことを言えば、女峰の栽培後半の小玉化とか食味の低下とかAIに聞くと出てくるけど、半分本当、半分ウソだよね。
女峰の出始めは、これを凌ぐ品種はおそらく出ないと思われるくらいの完璧な品種だったけど、不受精とか、小玉化が約10年後から出始めた。この現象の原因はウイルスフリー化のためのメリクロンで変異を増発させた結果と思われましたね。
それで、ごくわずかの農家が隠し持っていた最初のランナー増殖株が『男の女峰』として、陰で流通したというのもありました。
1番歯がゆい思いをしたのは赤木さんだろうね。
当時、メリクロンは夢の技術で、体細胞変異は問題にならないと偉い先生は言ってたけど、ダナーが品種崩壊したのは、おそらくメリクロン変異と言われているし、結局、時間が証明した感じですね。
今でも、そういうのを反省も踏まえてしっかり原種管理しているのが、静岡県と栃木県です。おそらく愛知県もしっかりしていると思いますが。
とちおとめ育成のエピソードはあまり聞けなかったけど、栽培にクセがあって、けっこう品質収量を維持するのは難しいけど、正直な話、まだ完全にとちおとめを凌駕する品種は出てないよね。
他にも、スカイベリーで苦労した育成者のうち2人はお互いに良く知ってます。あまりに苦労していたから、話は公にできないけど。
他に愛知県のブリーダーとは良く親交させてもらってた。あかねっこを育成した斎藤弥生子さんはお互いにお話させていただいて、イチゴの話は少ししかしなかったけど、とにかく博学な方で、すごくリスペクトしてました。彼女を通じて、成川さん以来のイチゴ育成の系譜を教えていただいた。
同じくゆめのかを育成したBさんには、ゆめのか育成の極意をお聞かせいただいたけど、すげ~なと思ったのは、「とちおとめみたいな品種にはしないのが目標だった」と言う話。彼には哲学があって、それで長崎県など多くの産地の農家に商材を提供したのは大変な業績だと思う。
他にも三重県でサンチーゴやかおり野を作ったMさんは、ちょっと悪友みたいな間柄なんで、あまりイチゴ育成の話はしなかったけど、推進会議とかでは顔合わせるごとに色々話しました。彼も1種の天才です。彼はほとんど論文で業績残しているから、読んでもらえば分かるけど、選抜でたくさん食べてる感じじゃなかった。
静岡県の章姫を作った萩原章弘さんも一度お話しました。平成8年頃ですね。根掘り葉掘り聞いたけど、内容はナイショ🤣
ただ、ヒントを言えば、赤木博さんと同様に栽培の名人で、かつ優良株を見分ける眼力が凄かった。だから、栽培技術や栽培技能を無視して傑出した品種が出るわけがないのね。
栽培試験もろくに経験させないで、いきなり品種改良をやらせるアホな県が増えてるけど、それはムリな話です。
紅ほっぺを育成した主な人は竹内隆さんだけど、育成者になってるFさんにも沢山教えを請いた。
静岡県が凄いのは、昔から静宝シリーズの育成を含めて、人材育成を常に切れないようにしていること。
それと比べると、ちょっとなぁ
と思うのは、埼玉県で、むかしはキュウリの大家で稲山さんとか凄い人が何人もいたけど、研究者を異動でブチブチにした上で、「ろくな品種が出ていない」と煽ってたらしいから、本当にしょうもないです。
ボクはあまりんは美味しいけど評価はしないのは、とちおとめの2/3しか収量がなくて、中休みもするし、品種としては普通は育成しない品種です。
確かに、一部は千疋屋とか、横浜水信とか高級店のディスプレイを飾る品種も必要だけど、それでどのくらい収益が上がるのか? パック4〜8個 1,200円からの価格に消費者がどれだけ付いていけるのか未知数だよね。あれは、採用した農家が偉いんです。
かおりんにしても、べにたまにしても、味にしか目に入らないような評価を目にして、今後こういう育種が持て囃されることになったら、低収量で農家を泣かせることになります。それは賛成できないね。
いちごさんの育成者ともお友達ですけど、醒めた目線で農家が暮らしていく糧のための品種を作ってます。その辺はさすがだなぁ🙏って思う。
それで、かなこまちの話。
早生、大果、開花連続性、整形果、多収。できれば紅ほっぺより硬く、できれば高糖度で酸味もバランス良く入る良食味のもの……というのが育種目標です。
できれば早生性は出始めを12月10日にしたかった。だけど都合良く交配株になかったから妥協したんだけど、今年、相曾農園さんが実証したように、12月20日から穫れます。
なぜ、年明け出荷になってしまうかというと、思ったより栄養成長性が強くて、窒素多めだとランナーばかりで花芽が遅れてしまうためです。
ただし、早生というほどではないと言われたらその通りですね🙏
ただ、どの品種でも秋の高温で、11月のイチゴは正直美味しくないです。やっぱり早くても12月から穫れ始めるのが、ボクは良いと思う。
あと、神奈川県の事情を言えば、あまり早生でも市場に捨てに行く形になってしまう。だったら多くの農園で開園する1月初旬にピークで良いと思うんだよね。
大果について。かなこまちは果房あたり果実数は少ないが、なるべく2L、3Lに揃うようにした。これは千葉県の石川さんから教わった選抜技術だよね。
イチゴは大きいと値段も高くできるから、これは成功した方だと思います。
開花の連続性は大変重要な性質で、女峰が何が凄いかと言うといつも果実が成ってること。
かなこまちは、果実にシンク能があって、果実がなり始めるとあまり樹は大きくならないけど、バランスをとって花芽は割と順調に出ます。親の紅ほっぺと比べると、やよいひめに近い形質ですね。
整形は、ボクが作ってた時は形が良かったんだけど、養液栽培だと長くなったりする。また、イチゴには蜜腺がないけど、かなこまちは最初のハチの寄り付きが遅いので、蜜源に圃場の遠目のところに菜の花とか入れるとあまり不受精も起きなかった。この辺も試験結果で解決しておけば良かったね。
紅ほっぺより硬い果実というのは、機械で測るとできてるんだけど、衝撃に弱いのは確かなんで、もう少し硬い個体が選べると良かった。
ただ、なかなか硬い個体は出現率低くて、ボクの後の人が選んだとしても難しかっただろう。
糖度と酸度は、定期的に主要品種と比べて選んだから間違いないし、収量も果房ごとに調査したから間違いないです。
春先の味については、3月末までしか自分で選抜できなかったんだけど、暖候期の食味保持は草勢の変化が少ないこととほぼ同じなんで、だいたい想像できました。
ちなみに、紅ほっぺもさちのかも暖候期は味が落ちて、とちおとめとやよいひめが比較的に味が保持できるので、生育の様子は毎日観察してましたね。
ただ、食べていただけではないんだよね🤣
そういう形質は多面発現していることが多いから、ちゃんと育種学を学ばないと遠回りすることになります。
どんな品種の育成でも、理想を追求はしますが、一方で妥協の産物でもあるんで……ボクは、ユーザーである農家が生きる糧にしてくれたら、それが1番光栄です。
評論家の言説はどうでもいいかな😀