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Cafe de Moca

ごくごくたまに更新致します。
前は小説を書いていましたが今はV6・岡田准一のファンブログにしようと考えております。

ですが、たまにしか更新しないので悪しからず。
小説更新始めました。



(注:この作品は、若干のR-18を含んでおります。直接的表現はありませんが、苦手と感じた場合、すぐに読むのを止めて下さい。作者は一切の責任を負いませんので、ご了承ください。)


















俺は今まで蝶だった。
甘い香りのする《花》から《花》へとフラフラと彷徨う蝶。一人の女性を愛することが出来ない。飽きたら次…また飽きたら次の花へと飛んでいく。
けど、その中でも一際目立つ花があった。
その花に…恋をした。

その花には旦那と子どもがいて…そう世間でいう禁断の恋・不倫だった。
絶対犯してはいけない禁忌の筈なのに…花は甘い香りを発して俺を引き付けた。けど…最初は遊びだった。
「ねぇ…旦那と上手くいってないならさ、俺と遊ばない?」
行きつけのバーに傷ついた羽根を休ませに来たのに。自らまた傷つくことをしてしまう。だが、花は花で俺の誘いに乗ってきた。
「ねぇ…准くんはいつも…こんなことをしているの?」
「あぁ…俺は普通の恋は飽きたからね。今は…人妻にしか興味ないよ。」
そういって、どちらかからは分からないが絡み合う指先。そして、白い雪のような肌に赤い花が散り咲く。
自分の家の部屋にあるベッドよりも大きいベッドの上で妖しく光り輝く花。俺が蜜を吸うことで、花は美しい《華》へと変わる。
シーツに付くシワや、鼻につく彼女の残り香。そして、甘ったるい程の彼女の声。全てが俺を…絡めとっていく。
「…子どものくせに。」
確かに。まだ俺は、飲酒も喫煙も許されていない18歳の高校生だ。けど、この関係を続けていくうちにだんだん分かってきた。その言葉は…この情事を終わりにする合図。これを聞くと、俺は蝶から卒業を控える1人の高校生に、華は一人の旦那と子どもを持つ女性へと変わる。だが、いつもはしない軽めの口付けをして2人は手早く服を着た。
シワシワになってしまっている、水色のワイシャツには少々「あぁ…マズイ…脱ぎ捨てなきゃよかった…。」と後悔はしているが、ブレザーを着てしまえばバレることは無いだろう。そんなことより、今俺の心を支配しているのは…
「…離れたく…ないな…」
「ダメよ、貴方はまだ学生なんだから。…また逢いましょう…」
次があるのか。そんな期待を胸に一夜を明かした部屋を後にした。部屋代は最初は俺が払っていたが、密会を交わすうちいつの日か彼女が払うようになっていた。
「…そんなの…大人になってからでいいわよ。どうせ旦那の金なんだから。」
彼女がそう言っているという事もあり、甘えているのだが。
建物を出た俺は携帯の電源を入れた。邪魔をされないため、情事中は電源を落とすようにしている。時間は朝6時を回った頃だった。
学校に向かうには早すぎる時間のため、1度家に帰ってシャワーを浴びるため家に向かって歩き出した。
情事後にシャワーは浴びるが、部屋に置いてあるものは匂いがキツい。いつも、シャワーは家で浴びるようにしている。
ソッと玄関のロックを開けて自分の部屋に向かう。ブレザーを脱いで適当にベッドの上に脱ぎ捨てる。そして、パンツだけを持って浴室に向かった。そして、シャワーの温度をあげて熱いお湯を浴びる。身体に染み付いた彼女の香水の香りが消えるまで、ボディソープで身体が赤くなるまで身体を擦る。
シャンプーを使って汗でパサパサになった髪を洗う。匂いが消えた頃にタオルで水滴を拭き取る。
この時、俺はやっと蝶から人間へと戻る。部屋に戻り、匂いが付いてしまったブレザーにも消臭スプレーをして時計をみる。…7時半。軽く髪にワックスをつけて梳かす。
完璧なセットで洗面所から出ると母さんが立っていた。
「准一、昨日どこにいってたの。」
いつもこれが緊張する。こんなことしているが、母さんに迷惑は掛けたくない。
「よ…快彦の家。…多分…今日も泊まることになるから。」
「井ノ原さん家にも迷惑になるから、程々にしなさいよ。」
母さんは俺のことに関心がない。普通の家ならこうしてすぐに離してくれることは無いだろう。
「行ってきます」
そういって再度カバンを持って家を出た。
さっき通った道をヘッドホンをしてゆっくりと歩く。

そう、今日の夜また俺は蝶となる。
少しだけの人間の姿…退屈な…退屈な時間。
『また逢いましょう』
彼女の…俺の知らない姿の彼女の声が頭に響く。
「またって…いつのことだよ…。」
フッと微笑って退屈な時間を過ごす。


                                                                      fin.




僕には好きな人がいる。
幼稚園に通っていた時から、小学校とずっと一緒だった。
その人とは7年という長い片思いが実り、付き合うことができた。そんな幸せな春。
彼女と食事していた時に俺は倒れた。
最初はただ風邪をこじらせただけだと思っていた。
「余命は…あと3ヶ月です。」
神様は…残酷なプレゼントを俺に渡したんだ。

「僕と付き合ってくれませんか?」
大学をもうすぐ卒業する3月の上旬に彼女に告白をした。
相手は幼なじみ。中学が学区の関係上別になり、それきりだったが高校に入学した際に同じクラスに彼女の名前を見つけた。
「久しぶり。」
「あれ、健くん!同じ高校だったの?」
「僕もさっき知ったんだよ。なんだよ、ココに来るなら連絡くれればいいのに。」
そう笑いながらいうと、少し複雑そうな顔をしていた。
「もしかして…彼氏?」
「あ………うん、彼氏。」
その時、ツキンと胸が痛くなった。
「そ…そっか。そりゃ、幼なじみでも携帯に他の男の名前あったら嫌だよなー!…幸せにね?」
「…うん。…あ、健くん!」
同じ中学の奴らのところに行こうとした時、呼び止められ振り向くと、彼女が僕を見ていた。
「…彼氏いても、普通に話しかけていいから…。」
そう言われたことが嬉しくて、笑顔で頷いた。だが、彼女の口から彼氏という単語を聞くと胸が苦しかった。
「そ?じゃあ…遠慮なく!」
そういって、今度こそ彼女の前から逃げた。
好きな子はいる。けど、告白はしないし、彼女も作らない。何かをしていればこの決心は揺らいでしまいそうだったので、部活に打ち込んだ。
入った部活は2年が1人しかいない廃部寸前のダンス部だった。肩書きだけでも廃部からは助けようと思って入った。部員は
全員で6人。まぁ、活動しているのは僕と森田先輩(ついでに、ダンスの腕は誰よりもうまい!)の2人だけだけど。
「健くん、帰ろ?」
「あー、うん。いいよー」
彼女は暇だと僕を指名して一緒に帰った。
「ねぇ、付き合ってる彼氏はいいの?」
学校から少し離れたところでふと聞いた。彼女はピクンと肩を震わせた。
「…い…いの。」
「そっか。…いやぁ、付き合ってる人、年上なんでしょ?何人か知り合いいるからいいけどさ…一緒に帰ってくることが知られてさ、喧嘩売られるとか嫌だから。」
「だ…大丈夫!健くんに手を出したら、女子が黙ってないよ!」
その言葉にドキッとした。
女子が黙ってない…?それは…
「健くんダンス部に入ったでしょ?そこの先輩で、森田先輩って…」
「あぁ、剛?あいつ上手いよね!」
「…知ってる?森田先輩って、健くんが入るまで1匹狼みたいで、あまり感情が無かったんだって。でもね、 健くんが入ってから楽しそうに笑うことが増えたんだって。学校の女子は2人が並んでる姿見るだけで騒いでるよ?」
「へぇ…そうだったんだ。知らなかったなぁ…」
騒ぐ騒がれることは嫌いではない。寧ろ嬉しい。けど、何かが物足りない。その物足りない理由はわかっている。…彼女が振り向いてくれないからだ。
「ほら、健くん彼女いないでしょ?その中に彼女になる人いるかもよ?!」
僕の気持ちを知らない彼女はサラリと言った。だが、その言葉にイラッとしてしまった。
「…軽々しくそんな事言わないでくれる?」
「健…くん……?」
彼女に初めてこんな感情を出した。でも、止まらなかった。
「僕さ、好きな奴いんだよ。でも、相手には彼氏がいる。だから告白もしねぇし、付き合わない。だってそいつ以上に魅力的な女いねぇから。…騒いでる女達の中から?…ふざけないでくれる?」
「ごめ…、」
ポロりと彼女の目から涙が零れた。泣かせてしまった。流石に焦り、カバンの中をガサガサと漁ってタオルを取り出す。
「はい。…ごめん、泣かせるつもりじゃ…」
「ん…ありがとう。」
部活で使っているものなので、少々汗が染み込んで臭いのは許して欲しい。
「…っ、僕コンビニでなんか買ってくるね!」
そう言ってカバンを置き、財布をもってコンビニに走った。何がいいかを考え、結局まだ売っている肉まんを二つと新発売のマークが付いていたジャスミン茶を買った。
「お待た…せ…」
そこで見てしまったんだ。
…3年生で知らない人はいない…赤い髪の坂本先輩と彼女がキスをしているところを。
なんでいるの…?そう考え動揺してしまった。
「…坂本先輩…だったんだ。」
全くと言って不釣り合いな2人。だが、僕よりは似合っていると思う。思わずのうちに2人を見つめてしまった。
その時、彼女が坂本先輩の胸を押した。俯いて唇を擦っている。付き合って…るのか?そうは見えない。…だって、彼女は嫌がっているように見えたから。彼女は、自分のカバンと僕のカバンを引っ掴みこっちに向かって走ってきた。
「ちょ…!」
思わずすれ違い掛けた彼女の手首をつかんだ。遠心力で彼女の体は僕の方を向いた。大きな彼女の瞳からは先ほどとは比べ物にならない、大粒の涙が溢れていた。
「健く…」
僕はとんでもない暴挙にでた。泣いている彼女を抱きしめた。
「嫌だったら突っぱねて。」
優しく彼女を包み込みあやすように背中をトントンと叩いた。肩口が彼女の涙によって濡れていった。暫くトントンと背中を叩いていると腕の中で彼女がモゾッと動いた。
「ごめん…ごめんね…」
「謝らなくていいよ。なんも悪いことしてないし。」
ゆっくりと彼女の体を離す。真っ赤に染まった彼女の瞳が僕を映した。
「健くん…聞いて欲しいことがあるの。」
そう言った彼女は落ち着ける自分の部屋に来て欲しいと誘ってくれた。彼女の部屋に入るのは何年ぶりだろうか。
「上がって」
久しぶりで少し緊張していたが、家には誰もいないようで少し安心した。
「なんか飲み物とってくるから先に上行ってて?」
そういわれたので、遠慮せずに階段を上った。そして正面のドアを開ける。そして、昔とあまり変わらない部屋があった。
「…よかった。」
そう呟いた時に部屋のドアがノックされた。
「ごめんね、お待たせ。」
そういって、お盆の上に乗っているお茶を僕の前に置いた。
「で?聞いて欲しいことってなに?」
彼女の体が僅かに震えた。普通じゃない。そう思った僕は彼女に優しく問いかけた。
「何があったの?」
「私…坂本先輩と別れたい…っ、」
僕が見た中で数少ない大粒の涙を流しながら彼女は悲痛な叫びを僕に話してくれた。
「中学の時…声掛けられて付き合ったんだけど…先輩…私のことストーキングしてるの…。さっきも…俺と帰るのは断って違う男と…って「僕が守る」
そう言うと彼女は驚いた顔をした。
「…俺が守る。ヤンキーさん相手でどうにか出来るか分かんないけど…でも、できる限り…俺は一緒にいるから。」
そう宣言した次の日から俺はずっと彼女と一緒にいた。
殴りたければ殴ればいいし、平和になればそれでいいと思った。

けど、そんな日々は長くは続かなかった。
「…おい、三宅。」
「…坂本先輩…」
「面かせや」
連れてこられたのは、ベタにも校舎裏。そこには、ダンス部の先輩·剛もいた。
「健…っ!」
「うるせぇよ。」
剛の腹部を嘲笑いながら蹴る坂本先輩。それに、剛は必死に耐えていた。
「ごぉ…!」
「お前らさ、人の女を唆して…マジふざけんなよ…?」
「唆してなんか…ねぇよ…っ、」
剛が立ち上がる。剛に駆け寄ろうとしたが、鋭く剛が僕を睨んだ。
「健は関係ねぇよ…。俺が…あんたの彼女を唆した。」
そういうと、坂本先輩は舌打ちをして手を振り上げた。…何かを持ってる。それが石だと確認出来たときには既に体が動いていた。
「ッ、健?!」
痛いと思ったと思ったとき剛が俺の名前を呼んだ。僕…殴られたの?
「きゃぁぁ!」
悲鳴が頭に響き頭を押さえる。その時生ぬるい何かが手を濡らした。それは、血だった。
悲鳴のもとは体育で体育館にいた生徒のものだろう。その悲鳴で先生が駆けつけてくれ、病院へ連絡までしてくれた。
「大丈夫か?!」
「坂本先輩が……」
「分かった。」
先生がタオルを持ってきてくれて、頭に当てているが、段々タオルが赤く染まる。かなり深くまで切ったのかな?など考えてしまう。
その間剛は何もしゃべらなかった。
「先生、救急車来ました!」
そのまま僕は救急車に乗せられ病院へと向かった。同乗してくれた剛はずっと俯いていた。一応後輩である僕に怪我を負わせてしまったことに責任を感じているのだろう。
「剛、大丈夫だよ。」
「健…ごめん。本当は俺が…」
微笑んで剛の目を見ると、薄らと剛は泣いていた。
「大丈夫。」
病院で治療をしてもらい、7針縫うことになった。だが、僕の心配は剛だった。
「剛…ごめんね、僕のこと…」
「いや、それはいいんだけど…その…大丈夫…か?」
頭に痛々しく巻かれた包帯。それにふと目線を向ける。
「うん、大丈夫だよ。…にしても…許せない。あいつ…」
「健、辞めておけ。今回の傷害事件であいつは何らかの処分は受けるよ。それでもなんかあったら警察に行けよ?」
そういって歩き出す。彼女をこのまま放っておくことは出来ない。いずれは彼女にも危害が加えられてしまうかもしれない。その前に彼女を助ける、そう自分に言い聞かせた。

「…え?今日も休み?」
「うん…体調崩したんだって。」
昨日と今日、彼女は学校を休んでいた。流石に不安なので彼女の家へと向かった。ドキドキしながらインターホンを押す。
「はー……あら、健くん。久しぶりね。」
「あの…」
「あの子ね、学校に行きたくないって…」
「上がってもいいですか?」
笑顔で頷いてくれたので会釈して彼女の部屋へと向かった。彼女の部屋の前で深呼吸をし、ゆっくりとノックをする。
「………誰」
「僕。…健だよ」
名乗ると中からは彼女が飛び出してきた。慌ててキャッチし、元気だったことに安心した。
「ごめんね、すぐに気づいてやれなくて。」
「…ううん。」
「先輩ね、捕まったよ。だから…もう大丈夫だよ。」
そういって彼女の震える背中をさする。
「ぅ… ふ…ごめんね…」
多分、彼女がこうして話してくれるのは僕にとっては嬉しいことなんだろう。俺しかいない場所で涙を流してくれるなんて。ふと、彼女の涙にドキッとした。
「…ごめん。」
我に帰り、彼女を離す。2人の間に流れる沈黙。不安気に僕を見つめる大きな双眼。
「健…くん…?」
「ごめん、今日は…もう帰るね。」
「ちょ…っ、」
彼女に引き止められないように、僕は階段を駆け下りた。彼女のお母さんにお礼を言って家を出る。後ろを向くが、彼女は追ってこなかった。
「健くん!!」
その時、上から彼女の声が降ってきた。立ち止まって見上げると眩しかったが、本のすこし…彼女の顔が見えた。
「…来てくれてありがとう。」
それに僕は首を傾けて微笑った。
「…また明日。」
そういって、僕は彼女の家を後にした。

次の日、いつも通りに起きて家を出ると門の傍に見知ったポニーテールがユラユラと揺れていることに気がついた。急いで門を開けると、ポニーテール…彼女が僕を見た。
「あ、健くんおはよ。」
眩しいほどの笑顔を向ける彼女。
だが、正直にいうとその笑顔に戸惑った。
「また明日って…健くんが言ってくれたから。」
そういって、ふふっと笑う彼女。
「…もう…いいの?」
「うん、もう大丈夫。…行こう?遅刻しちゃう。」
その言葉に、慌てて自転車を出した。そして、あまり使わない後ろの荷物台を綺麗に拭く。
「…乗って。」
「え…でも…」
「いいから!遅刻するよ!」
その言葉に彼女は後ろに乗った。けど、1つ問題が発生した。
「ねぇ、なんでそんだけしか掴まないの?」
「え…あ…の…だって…」
僕は時計をみてため息をつく。このままでは間に合わない。
「もうどうだっていいから掴まって!」
半ばムリヤリ腰に手を回させてペダルを漕ぎ始める。
ぼくのうちからは坂を下ってすぐのところにある高校。一気にそこまで下る。
「掴まってよぉ?いっく…ぞー!」
ノーブレーキで坂を下る。そのスピードに驚いて彼女も僕の腰にしっかりと掴まる。
それが嬉しかったってことは秘密。
予鈴と共に校内に滑り込んで、なんとか遅刻は免れた。
「よかったね、遅刻しなくて…」
そういって彼女は笑いながら下駄箱を開けた。その時、彼女の顔を顰められた。何が起きたのか慌てて駆け寄る。ポタリポタリと床に落ちていく赤い血。
「…ったぁ…、」
「だ…大丈夫?!」
「刃物入ってた…うわー…ざっくり切ったよ…」
慌てて僕はカバンの中から部活用のタオルをとった。そして、慣れない手つきで彼女の手に巻き付ける。
「ちょっと我慢ね。」
そのまま彼女を連れて保健室に駆け込んだ。幸いかなり切っていたものの、深くは切れていないということで、包帯でグルグルにはなったものの、本人は気にしていないようだった。
そのままクラスに向かっている時、学年カラーの青い上履きを履いた3年生の女子が歩いてきた。
「あれー?マサと別れてすぐにもう彼氏ー?」
「違っ…!」
「気にすんな。」
そう言って、彼女を連れて教室に入っていった。 クラスでも彼女はいろんな噂が立っているらしく、僕以外誰も近づかなかった。まぁ、それが嬉しいっていうのもあったけど。
「健ー…あ、」
いつものレッスン着に着替えて鞄を持ち、教室を出ようとした時、剛が呼びに来た。剛の姿をみてキャーキャーという声に剛は少し迷惑そうだ。…まぁ、いつものことだが。
「練習行くぞ。」
彼女をみてぺこりと頭を下げる。
「あ、ねぇ剛。彼女も連れて行っていいかな? 」
「…いいよ。今大変なんだろ」
「すいません…。」
「別に、気にしないよ。」
そういって、いつもの練習場所にむかった。
だが、そこには朝彼女に悪口をいった3年の女がいた。
「あれー?まだくっついてんの?」
「ぎゃはは!けんくんもさ、そんな浮気女守ることねぇのに!」
「優しいからねー、健くんは。」
「てめぇら…」
剛がキレかけたとき、それを僕が止める。泣きそうになっている彼女を横目に僕は女達に向かって言い放った。
「俺はみんなが思ってるほど優しくないよ。特に、彼女を泣かせるようなことされて黙ってられない。彼女は俺とは何ともない。ただ、俺が彼女を守りたいって思ったから一緒にいるだけだ。…剛、場所変えよう。」
彼女の腕を引いて鞄をもって屋上にいく。そこから彼女と(剛もいるけど)見た夕日は綺麗だった。
それから暫くして、彼女の悪口はなくなり僕達は高校を卒業した。目指すものが同じだった僕達は同じ大学へと進学した。もちろんずっと一緒。
「あー!やっばい!主要教科落としたー!」
「あはは、だって一夜漬けでしょ?あの教科で一夜漬けは無理だって。」
4年になったいまでも、彼女は俺に優しくしてくれる。単位を落とした時もレポート作成に協力してくれる。…傍から見たら何も出来ない男だけど、だけどそんな彼女のことがどんどん好きになっていった。
「…ねぇ、剛…」
「んだよ、俺は知らねぇかんな。」
ついでに、剛は同じ大学の体育教育学部に通っている。3人は学食でいつもランチをとっている。
「健くん、次空きだけどどうする?」
「んー…取り敢えず、レッスンしたいなぁ…」
「健くん。レポート課題全部終わるまでダメって言ったでしょ?」
「はいはい…」
彼女は俺と付き合う以前の問題で剛はおかんって影では呼んでいるほどだ。
「じゃあ…援助技術、手伝って?」
「自分でやれや」うひゃひゃと笑って毒を吐く剛。キッと剛を睨むがあんまり意味がないのは承知済みで。
「ほら、手伝ってあげるからさ。ね?」
渋々、自分のパソコンを取り出す。その時、ツキンと頭に痛みが走った。
「ッあ…」
バシャッとテーブルの上にあったコーヒーが入った紙コップを倒す。だけど、そんなのはお構い無しに頭を抱える。割れそうなくらい痛い…。
「おい、健!」
剛がすぐに声をかけてくれた。
倒れそうになる僕を細い腕で支えてくれる。
「大丈夫?!健くん…」
「う、うん…大丈夫…」
「本当か?顔色が…」
剛にも心配されていた。けど、僕はカバンの中から頭痛薬を取り出して水を一気に煽った。
「大丈夫。ただの頭痛でしょ。」
そう言って僕は微笑った。

僕が彼女とご飯行きたいと決めたのは、就職も決まった3月だった。
「ね、ねぇ!…今度…さ、ご飯でも行かない?」
少し驚いた顔で彼女は頷いてくれた。彼女との初デート。剛に無理を言って2人で洋服を買いに行った。(連れ回した)
「健、お前…本当に今日行くのか?」
「だって…お店も予約しちゃったし…あのお店、予約取るのが困難なんだよ…」
朝から体調不良を訴え、剛のうちで怠そうに横になっている僕。
せっかくの日なのに、なんでこうなるんだろう…と考えながら、微熱で熱いこの身体を冷やしていた。
約束の時間は18:00、それまでにどうにかしなければ…。そう思い続け、時間の間際にはなんとか平熱にまで下がる。
「気をつけろよ?」
「剛もね?戸締まりするんだよ。」
「お前じゃねぇんだから」
剛の家を出て、僕は待ち合わせの場所に着く。時間は待ち合わせの5分前。
待ち合わせ場所に指定した噴水の縁に腰掛けて待っていると、小走りで走ってくる白いワンピースに薄いピンクのカーディガンを羽織った彼女が現れた。
「ごめん、お待たせ!」
「待ってないよ、大丈夫。」
そんなベタな会話をして、予約しているお店へと急いだ。
「予約していた三宅です。」
「三宅様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
夜景が綺麗に見える窓側の席。彼女が喜んでくれると予約したお店。
「凄いね、綺麗…」
ここで僕は彼女に告白をする。緊張で心臓が暴れだす。
「今日ね、ここに誘ったのは…ある話がしたかったからなんだ。」
「話?」
「そう。…ずっと、高校の時から…あなたばかりを見ていました。好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
そんな言葉に彼女は目を閉じた。考えてるときの仕草だ。一緒にいるようになってから彼女の癖はどんどん覚えて行った。
「…はい。」
彼女の口からポツリと呟かれたその言葉に顔を勢いよく上げた。
「本当に…?本当に…いいの?」
「なぁにー?健くんが言ったんでしょ?」
「そう、だけど…本当に?」
「もちろん、健くんがいい。」
そういってフワリと微笑んだ。そんな彼女を抱きしめようと立ち上がったその時。今までにないくらいの痛みが僕を襲った。
「ッあ…!ッく…」
ふと目の前が真っ暗になり、僕は意識を失った。

目が覚めるとそこには真っ白な天井があった。鼻につくのは病院特有の薬品の匂い。
「健くん…」
「健、大丈夫か?わかるか?」
頭がぼぅっとしながらジッと彼女を見つめた。
「私、先生呼んでくるね。」
そういって出ていってしまう彼女を目で追った。声が出ないので呼び止めることをも出来ない。
「健、あいつと食事してる時に倒れたこと、覚えてるか?」
コクリと頷くと剛は近くのパイプ椅子に座った。
「どうした、ずっと頭痛いって言うのが気になってたけど…」
自分にも何が起こったのかわからない。
暫くすると、彼女が先生を連れて戻ってきた。
「三宅さん、大丈夫ですか?」
声が上手く出ずに、僕は剛を見つめた。言いたいことを分かってくれたのか、それを伝えてくれた。
「健の身体に…何が起こっているんですか?」
先生は、僕を見た。その真剣な表情にビクッと肩を震わせる僕。
「…健くん、最近ずっと頭が重かったり痛かったりしないか?」
「え…?…あ、はい。頭はずっと…痛いです。」
先生は黙り込んでしまう。部屋に訪れるのは静寂だった。それが、彼女と僕と剛の不安を掻き立てた。
「…健くん、少し検査をさせて欲しい。」
「え…?」
その口調でずっと抱いてきた、ただの風邪ではない事は悟った。
「わかりました。」
そのまま俺は、検査をすることになった。
2人には帰っていいと伝えたが帰る気は無いらしく、2人で椅子に座って待っていた。
「健くん!」
「どうだった?」
「結果は後だってさ。」
そう言ってベッドに座り込む僕。2人の目が心配しているということがよく分かってしまう。
「…大丈夫だって。」
そう言って微笑った。暫く僕達は部屋で話していた。そこに、先ほどの先生が入ってきた。聞きたくない。その思いが強く、気を遣って部屋を出ようとする彼女の服を掴んでしまった。
「あ…ごめん、」
パッと離すが、2人は顔を見合わせてそのまま椅子に座り直した。
「お友達も…いいのかな?」
「俺達はどんなのだって受け入れます。…な?」
「はい。健くんのためになるなら。」
その2人の返しに、先生は少し口角を上げて頷いた。
「わかった。ただし!…生半可な覚悟は出ていってもらうよ。」
2人は僕の手を握った。大丈夫。そんな言葉が聞こえて来そうだった。
「健くん、君は…今年の桜は見られる。だが…夏の日差しは浴びることは出来ないだろう。」
そう言われたとき、キュッと彼女が握る手が強くなった。彼女を見ると、必死に泣くのを我慢しているようだった。
「そうですか、」
自然に言葉が出てきた。涙も出てこない。それは残酷過ぎる…余命宣告だった。
「…詳しく…どのくらいなんですか?」
そんなことも聞いてしまう…でも、聞いておかなければ…そう思っていた。だから聞いたんだ。
「何もしなければ…あと、3ヶ月だよ。」
その時、見てしまったんだ。滅多に泣かない剛が流した涙を。
「ありがとうございます。」
先生は今後のことを決めておいてとだけを残し、部屋から出て行った。それと共に、剛が泣き崩れた。それに釣られてか、彼女も静かに涙を流した。

僕が死ぬ。

ここまで悲しんでくれる人がいたなんて…。堪えていた涙がこぼれ落ちた。1つ、2つ、と履いているグレーのスウェット(多分、病院が貸してくれた。)にシミが出来ていた。
「これからは…来れる時に絶対くるから。」
「私も。」
2人とも涙と鼻水でひどい顔をしていた。

そこからは過酷だった。
少しでも治る確率があるならと、投薬による抗がん剤治療で髪は抜け落ちた。脱色したり、ヘアスタイルを変えたりするのが好きだったが、どんどん抜け落ちていく髪にショックを隠せなかった。
「健くん、」
彼女が来てくれた時、一度だけ醜い姿を見せてしまった時もあった。看護師に背中を摩られ吐き続けている時に彼女が来てくれたらしい。
その次の日は待っても彼女は来なかった。
「よぉ、健。」
そういって、手ぶらでくる剛。
清々しいほどなにも持っていない。唯一ジーパンのポケットから最近新しくしたという携帯が出てくるくらいだ。
「いいなぁ…その携帯…」
「買ってきてやろうか?」
「本当…?じゃあ………名義は森田で。」
そんな冗談もまだ言えていた。だが、そんな元気でいられる時間もだんだんと減ってきた。胃がムカムカし、目の前がグルグルと回っているような気がする。呼吸もするのが苦しくなっていく。
弱って来ている自分。それを2人に見せたくなかった。どちらかでも来てくれている時は基本笑顔で。大切な2人にには決して弱いところは見せたくなかった。
それとは反対に、起き上がることが出来なくなる身体。朦朧としてしまい、ベッドで寝ていることが普通の生活になったころ。剛が御見舞に来てくれた。
「健、久しぶり。ごめんな、ずっと来れなくて。」
僕は僅かに首を横に振った。声なんてもう長い間出していない。
「健、今から外いかね?」
それには驚いたが、外の光は久しぶりのことだ。たまにはいいだろう。そう思って頷くと剛は笑ってくれた。
「ごめんな、」
そういって、剛は軽々と僕を抱えて車椅子に乗せた。
「あ、そだ。はい、これ。」
そういって、小さめの紙袋を剛が僕に突きつけた。
「欲しいって…いってたろ…?」
そういって僕の膝に紙袋を乗せた。中を覗くと小型の箱。それにはラッピングも包装もしていない…見慣れた箱だった。
「…携帯、新しいの欲しいっていってたろ?…やるよ。名義は俺だから。どうせ…ネットは出来ないとおもうけど。…ここ病院だし。…メモとかさ、お前、と話せないと何考えてるんだかわかんねぇし…。設定も全部して、充電もしてあっから。」
電源を入れるとロック画面に目が釘付けになった。
懐かしい…高校の時の写真。
僕が真ん中で3人でピースしている…幸せだった時。僕はすぐにロックを開けてメモを開いた。両手で携帯を操作して打ち込んだものを剛に見せた。
『なんで僕なの?』
それには、剛も…視線を逸らした。
『…なんで、僕が死なないといけないの?』
「死ぬなんて簡単に言うんじゃねぇ!!」
剛が怒る。ボロボロと涙を流して。剛は僕が入院してから涙脆くなった。…思い返すと、剛を泣かせたのは僕だ。
「…ごめん、怒鳴って。」
ゆっくりと車椅子を押してくれる剛。少し前までは普通に自分で操っていた車椅子も、力が入らなくなってからはめっきり剛に任せている。
「どうだ健。雨のあとだからじめっとしてるけど。」
『久しぶり、外なんて。気持ちいいよ。』
ふと、その時最近来てくれなかった彼女の姿を目が捉えた。
「健くん、なかなか来れなくてごめんね。」
『ううん、忙しかったんでしょ?お疲れ様。』
そう打って微笑んだ。それから暫く2人の愚痴を聞いたり、思い出話をしたりした。
「あ…こんな時間。…剛くん、私戻るね。」
「…忙しそうだな、またな。」
「うん、健くん。またくるね?」
忙しそうに帰って行く彼女を見送り、剛と僕も病室に戻った。
「っくし…!」
僕がくしゃみをすると、剛がすぐに近寄って来てくれた。
「大丈夫か?ごめんな、長時間外なんて。」
その言葉に微笑んで首を振る。少し頭がぼぅっとしてくる。
「…健?」
意識までフワフワしてきて、剛の姿がうまく捉える事が出来なかった。まるでのぼせたようだった。
「先生!先生!!」
剛の声が遠くで聞こえる。すぐに、剛がティッシュを何枚も重ねて僕の鼻に当てた。もしかして、鼻血?ボーッとしながら剛の手にあるティッシュを見る。ティッシュが真っ赤に染まっていた。その時、ドロっとしたものが気管のほうに入っていった。思わずそれには咳をする。
「健ッ!!」
僕に掛けられていた布団に吐血をする。真っ赤に染まっている行く布団と着ているスウェット。
「健くん!!」
慌てて入ってきた先生によって酸素マスクをされる。酸素を取り込むための力も入らない。点滴をされ、僕の肩を叩きながら僕の名前を呼ぶ。だけど、それに返事は…出来なかった。声を発する気力がない。
その時、フワッと僕の体が浮いた。
「あれは…僕?」
真っ青な顔をしてベッドに横たわる僕は目が閉じられていて意識がないのが分かった。
「剛…」
そんな健の姿を間近でみて泣いている剛。
剛のせいじゃない。僕は最初からこんな運命だったんだ。
「俺、彼女に連絡してきます!!」
そう言って部屋を出ていった。枕元で光る携帯。
「メールかな…」
携帯のロックを外して見ると、やはりメールだった。
『健くんへ
後でまた行けるかもしれないから待っててね。』
彼女からだった。そのメールを保護し、メモ帳を呼び起こして、とある言葉を打ち込んだ。
バタバタと騒がしくなる廊下。それと共に重くなる僕の瞼がゆっくりと落ちていく。
「健ッ!!」
「健くん!ねぇ…!」
彼女が泣いている。でもその涙を拭ってあげることは出来ない。深い眠りに落ちる前、僕は先生の声を聞いた。
「生命維持装置を…止めてもいいですか?」
それは、僕の死を表すこと。必死に彼女は首を横に振った。けど、彼女は剛に抱きしめられた。
「健を…楽にさせて上げてください。」
剛のその一言で僕に付けられた管やマスクマンは全て外され、そして機械の電源を切られた。それをみた彼女は泣き崩れた。
「健、すげぇ頑張ったよ。だから…俺達が行くまで…おやすみ…」
剛の声、彼女が泣き叫ぶ声。全部聞こえてるよ。だから神様…2人に最後にこれだけ伝えさせて…。
僕の最後の力を振り絞って、枕元の携帯を床に向かって落とした。その音に剛が携帯を拾い上げた。
「な…なぉ!おい!!」
剛が彼女を呼んだ。…届け…。
「これ…健からのメッセージ…?」
「健…くん…ッ、!」

ごめんね、もう…本当に眠いや…。
次、目が覚めたら2人にまたあえるかな?…2人に会えたら色んな話聞きたいな…。僕が見ることが出来なかった世界とかの話。だから…それまで…ゆっくり寝てるね。

剛が彼女に見せた健の携帯の画面には、

《あいしてる》

の5文字だけが打たれていた。


                                                                    fin.


12月24日、世間がクリスマスという行事に浮き足立っている時、私は時計を見てンーと伸びをした。
「定時で上がらせて貰います。」
「はーい、お疲れ様。」
私は、彼氏である森田剛とデートの予定を入れていた。だが、今年のクリスマスは少し不安なクリスマスだった。数日前、クリスマスに仕事の予定が入っていた剛はもう少し近場の場所を待ち合わせ場所に選んだ。
だが、今年はサプライズとして剛とイルミネーションを見たかった。
「ね、私はここがいい。」
「ん、どこ?…バカ、ここ仕事場から遠いじゃねぇか。それにここ、混むぞ?だったら…こっちのほうがいいぞ」
「でも、私はここがいい。」
「寒ぃなかお前を待たせるわけには行かねぇだろ?」
「それでもここがいいんだもん」
わがままをいってるのは分かった。でも…どうしても、ここが良かった。
「……そうかよ。風邪引いても知らねぇからな。」
剛は着ていたジャケットを引っ掴んで乱暴に部屋を出ていった。
そんなことがあったあとで、ギクシャクしないかな…とすこし不安だった。
待ち合わせの時間は18:00。だが、剛は待ち合わせの時刻になっても姿を現さなかった。
連絡してみようと携帯を取り出すと、手の中で携帯がメール受信を知らせた。
『仕事伸びたから遅れる』
そんな数文字だったが、忙しいということは理解していたので『お仕事頑張ってね。』と打ち返した。
いつの間にか、周りにいた待ち合わせの女性は彼氏と共にイルミネーションの光に包まれて消えていった。時間が経つにつれて気温が低くなり、剛からもらったマフラーに口元を隠すようにして埋めた。
いつの間にか時刻は20:00を回った。剛はまだ姿を現さない。ーーー今日はもう帰ろう。合鍵を剛は持っているのでメールを入れておけば、私の部屋に帰ってきてくれるだろう。
そう思って携帯のロックを開けたとき、着信を知らせる曲が流れた。ハッとしてディスプレイを見たが、期待している人物ではなく、相方といったほうがいいメンバーの三宅くんの名前が表示されていた。
「充電なくなって三宅くんに携帯借りたのかな…?」
素早く応答を押して「もしもし?」と声を出した。
「三宅…くん?」
『剛が…剛が事故った!』
少し高めの声が僅かに震えていた。三宅くんはこんな冗談をいう人じゃない。顔から血が抜けていって、頭が真っ白になった。何も考えられなくなっていた。…事故?剛が事故に…?
「剛は…?無事なの…?」
震える声でやっと声になったのはこの言葉だった。
『わっかんないよ…結構ヒドい事故だったらしくて…』
その時、ガサガサと音がして、優しい声が聞こえた。
『もしもし?剛の彼女さん?初めまして長野です。…今どこにいる?待ち合わせの場所から離れてない?』
「は…離れてないです…」
長野さんは息を吐き出すと共に、「良かった…」と呟いた。
『じゃあ、今から迎えに行くね。剛が運ばれた病院に行くから。』
その言葉には、返事が出来なかった。
…私のせいだ。
仕事場から離れているココを待ち合わせにしたのは私のわがままだ。ケンカの原因もこの事だ。
「っ、みつけた…っ、」
ガシッと腕を掴まれてハッと振り返った。
だが、剛だと思った人物は剛ではなかった。
「長野…さ…」
「ごめんね、遅くなって。…わ、冷えてるじゃん。車、あそこに止めてあるから。乗ってて。」
そういって、車の後ろのドアを開けてくれた。そこには、三宅くんがいた。
「三宅くん…」
「さっきはごめんね、俺もパニクってた…」
まだ、動揺を隠せないでいる三宅くん。でも、無理して笑ってくれた。もし…永遠に剛が戻って来ないとしたら。考えたくないのに考えてしまう。
その時は…この笑顔でさえも失ってしまうのかもしれない。私のわがままで何人の人が傷つくのだろう。
「…自分で背負い込まないで。こんなことになったの自分のせいって思ってるでしょ?違うよ。」
「三宅く……」
「あいつ不死身だから!大丈夫だよ!」
そういって、三宅くんは笑顔を見せてくれた。それに少しでも安心して私も笑った。

「え…?」
だけど、その安心は儚くも崩れ去った。
白衣を着た先生が説明をしている。そんなこと…知らない…。ありえない。
「我々が駆けつけた時には、もう…既に…」
「嘘だぁッ!剛が…剛が俺を残して死ぬわけない!」
先生に掴みかかろうとするのを後ろから長野さんが止めている。
「剛…なんで…?」
一緒に食べたいねって…言ってたパンケーキも、見たかったイルミネーションも…なにもかもが消えていった。ぐるぐると頭の中を回っていたのは、剛の笑顔だった。
「こちらが…車の中から。」
デートの時は必ず持ってきてくれた初デートで私が剛に上げたカバン。それは、赤く染まっていた。ーーー剛の血によって。
「青信号で曲がったとき、凄いスピードで突っ込んできたトラックに運転席の方から追突されたみたいで…」
剛のかばんを受け取り抱き抱えその場に泣き崩れた。その時に実感した。もう…剛に逢えないと。謝ることが出来ないと。
「剛…っ、ごぉッ…!」
悔しかった。最後に…剛の笑顔が見れなかったことに。なのに、めぐるのは剛の笑顔だった。剛のカバンを強く握りしめた時、中からカタンと音を立てて転げ落ちるたものだった。
「なに…これ?」
三宅くんが拾い上げて、付いていたメッセージカードを広げた。
「…これ…」
ポツリと呟く三宅くん。のぞき込むと、そのには私の名前が書いてあった。白い布地にブルーのリボン。そして、凄く小さな箱。その箱をゆっくりと持ち上げた。
そこには…
「これ…ッ」
シルバーに輝く綺麗な指輪が付いていた。トップにはピンク色の石が付いている。
「剛…告白しようとしてたんだね。」
長野さんの優しい声で、そのケースを閉じて声を上げて泣いた。

剛、あなたには私の左手に光る指輪が見えていますか?
あの日、剛が私に伝えようとしたこと、分かりました。これから先、絶対にこの気持ちは変わることは無いです。
あのメッセージカードに書かれた''Marry me''の言葉…。私も同じ気持ちです。
大好きだよ。永遠に…

                                                                     fin.