Cafe de Moca

Cafe de Moca

ごくごくたまに更新致します。
前は小説を書いていましたが今はV6・岡田准一のファンブログにしようと考えております。

ですが、たまにしか更新しないので悪しからず。
小説更新始めました。

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死なんてずっと先の未来だと思っていたのに。それは…突然訪れた。
風邪?と思って受診した病院。なのに検査をするなんて。
その結果はすぐに出た。…なんともない。流石に体が昔から人より弱くてもただの風邪だろう。
「残念ですが…余命はあと…3ヶ月です。」
覚悟していなかったので衝撃が強かった。
「3…ヵ月…」
「言っておきますが、この数値は何もしなかった時の余命です。」
「………はい。」
この後どんな説明があったか…正直覚えていない。けど、まず思ったのは現在交際2年目を迎える彼女とのことだった。
「どうしたらいいんだよ…ッ!」
家に戻り、イライラしてクッションを投げた。どうしたらいいかわからない。
俺は考え続けた。携帯に着信があり、その音により俺の意識は戻された。携帯に表示されていたのは彼女の名前だった。それには指が勝手に通話を押していた。
「もしもし?」
『もしもし快くん?』
「ん、どした?」
『あのね、今日…会いたいなって…。…だめ…かな…?』
「夜?空いてるよ。…あ、長野くんから新しいお店教えて貰ったんだ。そこ行く?」
『行きたい!』
「わかった。じゃあ、予約しておくね?迎えにいくからさ、終わったら連絡して?」
そう言って通話をきった。…決意はした。後は彼女に打ち明けるだけだった。
長野くんから教えてもらったお店に予約の連絡をし、お気に入りのハンモックに寝転がり、新聞を読み始める。海外での出来事や最近日本で起こったこと。…朝の顔と呼ばれる全国放送で話すことは…やはり社会のことを理解しておかなければ出来ないことだ。
新聞を読み終えると、立ち上がって最近長野くんのロケのお土産の紅茶を淹れる。…とてもいい匂いだった。
「…おいしい。」
ふと脳裏に長野くんの顔が浮かび、少し鼻の奥がツンとした。ヤバイと思った時には既に遅く涙が零れていた。
「…ッ、ふ…」
なんで俺なんだ。なんで…。ずっとマイナスに考えてしまう。泣くな…耐えろ…。
でも涙は止まってくれなかった。次から次へと溢れてくる涙を袖で拭っていた。擦れて目元は真っ赤になってしまった。洗面所に行って冷たい水で顔を洗う。
「うわ…ッ、そろそろ迎えに行かなきゃ…!」
鏡でもう一度身なりを確認し、車の鍵を持って出た。彼女が勤める所まで車で20分。
だが、信号がたまたま青が続き、予定より早く付いてしまった。
車の中に流れるのはゆったりとしたバラード曲。彼女が好きだと言っていた曲だった。
シートを倒して彼女が来るまで寝ようと思ったその時、携帯がメールの受信を知らせた。ボックスを開くと、彼女からメールが届いていた。
『少し早く上がらせてもらっちゃった。もう下にいるかな?』
早く会いたい。そんな気持ちがわかるメールに冷静になりながら返信した。
『もう下にいるよ。急がないでいいからね。』
そう返信すると、寝ることを許されなかったシートを戻し、ミラーで髪をチェックした。
コンコンと窓をノックする音を聞いて、助手席の方を見た。そこには、彼女が立っていた。ロックを解除し、ドアを開ける。
「ごめんね、待った?」
「いや大丈夫だよ。楽しみだったし、」
「ならよかった!…ねぇ、長野さんに教えて貰ったお店ってどんなお店?」
「んー…まだ俺もいったことないんだけど、イタリアンって言ってたよ。」
本当にそうだ。たまに、「長野くんのイチオシのお店ってどこ?」と聞くとおろんなお店を紹介してくれる。今回は今からいくお店を紹介してくれた。
「凄い楽しみだなぁ…イタリアンかぁ…」
「ふふっ、今から何を食べようか迷ってる?早くない?」
「もう、うるさいなぁ」
和やかな空気が車内に流れる。ふと、家で考えていたことを思い出した。
ーーー俺は病気。いつか、隣に座っている彼女の前から…消える。
その時、後続車にクラクションを鳴らされて、ハッと我に帰った。慌ててアクセルを踏み車を発進させた。
「…快くん、大丈夫?」
「あ、あぁ、大丈夫!ちょっと考え事してただけだから。」
嘘はついていない。けど、ちょっとではない。
ポーンという軽快な音が鳴り、カーナビが目的地に着いたことを教えてくれた。左を見ると長野くんに見せてもらった写真と同じだった。エンジンを止め、急いで助手席に回り込んで彼女をエスコートした。彼女も恥ずかしそうにその手を取って車から降りた。
「凄いなぁ…ここ……高くない?」
「…そんなお財布事情をここで聞かないでよ、お嬢様」
そのまま手をつないで店の中に入っていく。スタッフの人が出てきてくれて、「2名様ですか?」と聞いてきた。それに俺は
「予約した井ノ原です。」
と答えた。予約表を確認したスタッフは、席に案内してくれた。その場所は、夜景が見えるとてもいい席だった。こんないいところを教えてくれた長野くんには、絶対にお礼をしなければ…ッと思った。
「快くん、快くんはどれにする?」
「がっつきすぎだって。落ち着いて。」
メニューを見てみると彼女が興奮するのも分かる。けど…目の前に座る彼女に目を向けて見ると、同じページを行ったり来たりしていた。
「もしかして、迷ってる?」
「…うん。こっちのハンバーグセットも美味しそうなんだけど…こっちのボロネーゼも…。」
「じゃあ、シェアしよっか。俺がこのハンバーグセット頼むから、ボロネーゼにしたら?」
その提案に彼女の目は輝いた。やっぱり彼女は可愛いな…と想う。
「いいの?!」
「いいよ。だって…食べたいんでしょ?」
呼び出しボタンを押すと、店に案内してくれた男の人が注文する機械を持ってやってきた。
「ご注文を承ります。」
「ミラノチーズハンバーグセットを1つとボロネーゼを1つ、あとデカンタで赤ワイン。以上で。」
スタッフは軽く頭を下げてメニューを持っていった。彼女は「楽しみだね!」と綺麗なえ顔をみせる。
彼女は一言で言うと長野くん似だ。顔ではなく性格で。温和でおおらかで、いつもニコニコと笑っている。だから辛いこととかも顔には出さない。そこが欠点というところか。…長野くん似というよりそっくりではないか?
「夜景…綺麗だね。」
「そ…そうだね。さすが長野くん。」
「ふふッ、…そうだね。」
俺はこの時に少し考えた。もしかしたらショックを受けすぎてしまうかもしれない。そうなると…
「快くん?どうしたの?怖い顔して…」
「え…あ…いや…」
「…そう?なにか…話があるんじゃないの?」
そう言われると…だが一気に場の空気を下げてしまうのではないか。思わずギュッと目を瞑った。
「話して?…快くん」
「あの…さ、別れよう。…俺達」
しまったと思った。違う…。こんなことを言いたいんじゃない。けど…いつもに増してお喋りになった俺の口は止まってはくれなかった。
「ちょっと事情があってさ。…あ、嫌いになったとかじゃないよ?でもねこれ以上一緒に居たら…迷惑かけちゃうからさ!だから…別れよう。」
おそるおそる彼女の顔をみると傷ついた顔をしていた。…俺は、彼女にこんな顔をさせたいんじゃない。
「何が…あったの…」
そう聞かれると答えるしかない。隠すことでもないから。震える唇をゆっくりと開く。
「俺さ…病気なんだって。」
自分でも驚く程の穏やかな声。ソッと顔をあげて彼女を確かめると怒ってはいなそうだった。ただ、少し疑われているような気がしてカバンの中に入れっぱなしにしていた診断書を彼女の前に広げた。
「黙って…消えようとおもってた。ごめん」
「こんな大切なこと…私に黙って置くつもりだったの?」
そう言われると…本当に申し訳なくというか…長野くんに言われている気分だった。
「…………ごめんなさい。」
「あのね、快くん。私は快くんと別れる気はないよ。こんな病気だから…どうしたの?治療すれば治るんでしょ?その可能性を信じてさ、頑張ってみようよ。…ね?」
その言葉で俺の心を凍りつかせていた氷は、ゆっくりと彼女の言葉に溶かされていった。ひとりで悩まなくてもいいんだ。そう思っただけで涙が溢れてきた。彼女からは笑われながらもハンカチを借りて涙を拭いた。そこへ頼んだ品が届けられた。
「ごゆっくりどうぞ。」
と頭を下げて、下がって行くスタッフを見送って2人はお互いのものを少し貰いながら食事をした。

だが、治療は思っていた以上に過酷だった。貧血で朝の情報番組には真っ青な顔で出演することも度々あった。だが、どんどん重くなっていく副作用に番組を降板せざるを得なくなり、CMのオファーも来なくなった。
グループでの仕事も、みんなが心配してくれるが、正直…やり辛かった。倒れたりして迷惑は掛けたくない。みんなの前では無理矢理笑っていた。
それしか、自分の身が守ることは…出来なかった。けどその分、身体に大きな負担となっていた。それに…自分自身気づかなかった。思っていたよりも自分は…弱かったんだ。
俺の身体は段段と動かなくなって行った。そんな自分の身体を…恨んだ。
ふと何気なく俺はテレビをつけた。そこには、岡田が最新映画の宣伝をしていた。悔しくなってチャンネルを回す。そこには、リーダーがレギュラーで持っている料理番組がやっていた。
「スタミナがつきますからね~…。ん、今食べさせたい人?んー…井ノ原かな…。」
いきなり自分の名前を出され、びっくりしたが、思わず見入ってしまった。
「今、井ノ原は病気で療養中なんですけど…少しでも…前の井ノ原に戻って欲しいから。」
俺の目からは涙が溢れた。メンバーには迷惑だけじゃない。心配も掛けていたんだ。いつの間にか俺は…怯えていたんだ。死へと向かっていく日々に。

「井ノ原ー入るぞー。」
「あ、おはよっ!坂本くーん、昨日見たよ?スタミナ丼。俺さ、病院食は飽きたからさ、味付け少し薄くして作ってきてよ。」
最近の俺からは想像出来ないくらいだった。それをリーダーも感じているのだろう。
「井ノ原…?どうした…おかしくなったのか…?」
「もーバカ。戻ったんだよ。昨日の坂本くんを見て。…ありがと、リーダー。」
リーダーが来てくれたことで、いろいろと吹っ飛んだのか凄く気が楽になった。
それに、入院してからここまで調子がいいのは初めてだと思う。いつの間にか空が暗くなっていたことに気づき、話の間にリーダーに時間を確認した。
「暗くなっちゃったけど、リーダー時間は平気?」
「あぁ、…もうこんな時間か。明日は朝からだし…」
よっこらしょと立ち上がる。その時、井ノ原の声が聞こえた。すぐに、ドアに向かいかけたリーダーが振り向いた。そこには、鼻から大量の血を流して、手で受け止めている猪原の姿があった。
「井ノ原、大丈夫か?!」
「っ、…ぅ…」
意識も朦朧としてきている井ノ原を支えながら寝かせてナースコールを押す。すぐに駆けつけた看護師が…井ノ原を治療室に連れていった。
「なんで……だって…さっきまで…」
その後、病室に入って来たのは彼女だった。
「あれ、坂本くん?…快くん、知りませんか?」
「井ノ原……は…」
彼女はすぐに真剣な顔になっていた。
「何か…あったんですね。」
勘がいい彼女にはすぐにバレてしまう。坂本は全てを話した。彼女の目から流れる涙。
「…坂本くん…快くんは…大丈夫です。」
今まで、周りの人に勇気と自信と笑顔を与えてきた。今度は、私達がお返しをする番だ。
「…もう…私は快くんが悲しんだり辛い思いをするのは見ていられないんです。だから、楽にさせてあげたい。そう…思ったんです。」
それは…リーダーとしてもとても辛いことだった。ずっと一緒にいたメンバー…井ノ原を失うこと。けど…覚悟はしなければならない。辛いのは彼女も一緒だ。

それから数時間後、井ノ原は俺達の手が届かないところへ行ってしまった。だが、一緒にいた彼女は泣いていない。だから俺も…泣くのを我慢している。
「あっ!!」
引き出しの中に入っていた井ノ原のスケジュール帳を彼女が取り落とした。中に入っていたいろんなものが散らばる。
「大丈夫?」
中に入っていたと思われる名刺やはがきを拾い集めた。その時、一通の封筒が目に入った。後ろには、『井ノ原快彦』と書かれていた。表には…『V6&深愛なる君へ』と書かれていた。
「快くんからの…手紙…?」
「…読みますか?…俺は…見れないです……」
坂本は彼女に手紙を渡した。封を開けて中に入っている手紙を取り出して、読み始めた。便箋は全部で3枚。少しみえる字はいつもの井ノ原の達筆からは想像出来ないほど…乱れていた。

『俺達のリーダー·坂本くんへ
かれこれ…30年近くの付き合いの坂本くん。俺にとっては大好きなお兄ちゃんで…本当は優しくて…もう一言で言い表せないくらい大事な人です。俺は、坂本くんと出逢えて…同じグループになれて幸せです。V6、これからもよろしくね。』

『親愛なる君へ
…いつも支えてくれてありがとう。俺ばっかり幸せにしてもらって…なにかお返しできたのかな…。貴女がいてくれたから、俺の人生は凄く楽しかったです。ありがとう。そして、ひとりにしてごめんね。…でも、メンバーが貴女を導いてくれると思うから。なにかあったら…メンバーを頼ってね。幸せをありがとう。大好きです。』

「…勝手だよなぁ…。まだ…いっぱい仕事あったのによ…」
ポツリと呟く坂本。
「…お返しなんて…いっぱいもらったよ…」
二人の声は涙声だった。
彼に届いたかな。私達の想いが。
貴方がいないこの世界はとても辛くて悲しいものだけど、ちゃんと前を向いていくよ。
もし、私が立ち止まることがあったら…そっと背中を押してね。
たくさんの幸せをありがとう。
永遠に貴方を……愛しています。


fin.
後編  それぞれの空

俺は、下町で小さなカフェを経営している。従業員は店長である俺を含め2人。料理でお客様には来て欲しいんだけど ''2人のイケメン店員が出迎える店'' とかいうランキングで堂々の1位をとってしまったことにより、店に来る客はみんな顔目当て。
「長野、大丈夫か?」
「うん、もうすぐランチの時間終わるから。落ち着くでしょ、いくらかは。」
「そうだ…な。」
ランチタイムラストの客を見送ると、長野はどすんとカウンター席に腰を下ろした。
「今日、なんか人多くなかった…?」
「だな…。俺達の賄いギリギリ…。有り合わせでいいか?」
そういって冷蔵庫をのぞき込む。ふと思い出したことを俺は、ポツリと口にした。
「…そういやお前、今日彼女と約束あんだろ?時間前に上がっていいから。」
「え…?でもそしたら坂本くんが忙しくなるじゃん。」
「店は少し早く閉める。それでいいだろ?」
そういいながら、フライパンを振るう俺を見ている長野。
「いいの?俺の都合で…」
「お前だって従業員だろ?それにお前がいなくなったら俺1人になるし。」
「だから、快をここで働かせればいいのに…」
そう呟いてため息を吐かれ落ち込む俺。俺は昔からの人見知りのせいで、あまり人と話すのは好きではない。まともに話せるのは長野と幼なじみの井ノ原快彦と双子の剛と健、その友人の岡田だけだ。
「いざとなったら…な。まぁ、お前以上がいないから。」
けど、知らなかったんだ。そのいざが…すぐそばまで迫っていることに。

「よし、そろそろ店閉めるか。」
賄いを食べ終わった頃に俺は立ち上がった。
「俺、食器洗うから。長野は看板しまってテーブル拭いて来てくれるか?」
それに長野は動いてくれた。その間に急いで皿を洗う。最後の1枚を洗い終わると同時に長野が布巾を持ってきた。
「おぉ、さんきゅー。着替えて来いよ。これ終わったらそっちにいくから。」
「ん、ありがと。じゃあ、先に行ってるね。」
長野は店の奥にあるロッカールームに入っていった。俺も急いで布巾を洗いロッカールームへと向かった。中ではモゾモゾと着替えている長野。
「なぁ、長野いいか?」
「んー…ちょっ…まって?」
素早く着替えて、少し癖のついた髪をはねさせて俺の方をみた。元からくせっ毛なため、盛大にはねていた髪に思わず吹き出してしまった。
「な…何?!」
「お…おま…ッ…すっげーはねてる…」
「え?!うわー…やだ…ショック…」
鏡でみて何度もなでつけるがやはりはねてしまう。それをみて、俺は笑いながら自分のロッカーからワックスを取り出し、長野の髪に付けた。
「じっとしてろよ。」
ピタッと止まって大人しくなってくれることは有難い。
「どこぞのホストみたいにはしないでよね…」
「しねぇよ!黙れ、その口!!」
「あははッ!マサだマサ!」
長野のからかうような笑顔。俺だけにしか見せない顔。なのに…もうその顔が見れなくなるなんて…。
「じゃあな。明日1時間開店遅いからな。間違えんなよ。」
そういって長野は手を振っていった。俺は、店に鍵を掛けて自宅に戻った。

自宅で夕食の下準備をしていたとき、携帯が着信を知らせた。
「あー……はいはいはい…もしもーし」
『坂本さ…ひろくんが…ひろくんが…ッ!』
「待った…ゆっくり話せる?何があった?」
『ひろくんが…』
全てを聞いた俺は、信じられなかった。さっきまで笑っていた長野が…もうこの世にはいない。もうあの笑顔が見れないなんて。
「取り敢えず、今からそっちにいくから…待ってて?」
そういって車の鍵を持って家を出た。今日に限って…信号は全てあかで引っかかった。まるで長野が俺を来させないようにしているかのように。
ずっと長野は自分の弱みを握られる事を本当に嫌ってきた。もしかしたら…自分の最期までも見られることを嫌っているのではないか。
何とか時間が掛かりながらも病院につくと、急いで彼女に言われた待合室に向かった。
「…坂本…くん……」
「悪い、お待たせ。……長野は?」
「中に…いるよ。会ってあげて…?」
指さされた処置室のドアをゆっくりと開けた。…会いたくない。ずっと…このドアが開かなければいいのに…とさえも考えてしまう。ドアが開いて、目の前に現れたのははち切れんばかりの笑顔でこっちをみて「坂本くん」と俺の名前を呼ぶ長野の姿…ではなく、いつもより真っ白な顔をして目を閉じて…まるで、眠っているかのようだった。例えるなら…眠り姫といったところか。
「長野…起きろよ…何寝てんだよ…お前今日彼女とデートって喜んでたろ…彼女を待たせてんじゃねぇよ!!」
遠くでみるより近くでみたら…本当に綺麗だった。こりゃ女の子も騒ぐわ…と思いながら、下を向いていると長野の顔が濡れた。
「馬鹿野郎…ッ」
認めたくない。そう思いながら長野の頬に手を当てた。もう温もりはない。
それを再度感じたとき…もうこの世に長野がいないと思い知った。

「ひろくんの私物…あっちにあるんです。」
そう彼女に案内されて…とある部屋に入った。運ばれたときは処置室が空いていなくて、空くまで一般病棟にいたらしい。
「…あれ?これ…」
かなりぐしゃぐしゃになってしまった袋があった。こんなの…店を出た時は持っていなかった。
「これ、私が上げたんです。…事故の衝撃でどっか行ったのかな…」
「何を上げたの?」
「シルバーのクロスネックレスです。」
彼女は箱だけになった袋を抱きしめていた。
「探しに行こう。」
彼女の手を取って走り出す。どうするつもりなのか自分でもわからない。けど…何故か長野が…見つけてくれることを願っている気がした。
車を走らせて事故現場に向かった。
「ここ…か。」
現場は鑑識官が現場検証をしていた。俺は近くにいる鑑識官に声をかけた。
「先ほどここで事故にあった彼の知り合いなんですけど、探し物があって…。」
「なんですか?」
「シルバーの…クロスネックレスです。」
それを聞いていたのか、近くにいた別の警察官が顔をあげた。
「それは…これのことかな?」
「!!これです!!私があげたネックレス…」
丁寧に袋に入れて渡してくれた警察官にお礼をいって袋からネックレスを取り出した。
「…良かった……ひろくん…」
トップは衝撃を物語るように少し曲がってしまっていたが、間違いなく彼女があげたもので間違いないみたいだった。
「長野…見えてるか?見つけたぞ…」
ネックレスをキツく握り締めたとき、生温い風が吹いた。それは…いつもなら気持ち悪いと感じる風だったが、そうは思わなかった。
「長野…。」
風の音に混じり、長野の声が俺には聞こえた気がした。
『みつけてくれて…ありがとう。』

長野、お前がいなくなってすっげぇ寂しいけど…俺は何とか頑張ってるよ。店も快を従業員にしたら、なんか…騒がしくなったんだ。
「よーしーひーこー!!まぁたお前は皿割って…!わかってんのか、今月5枚だぞ!」
…でも、たまにあいつがやってくれるミニライブのおかげで…黒字だ。
でもな、ふと…「長野」って呼んじまうんだ。…恥ずかしいだろ?
…あのネックレスは彼女がつけています。
ふと、ドアベルが客が来たことを知らせた。
「いらっしゃいませ。」
「坂本くん。」

安心しろ。今日も、このカフェは大賑わいです。


fin.

長い片思い。そして幸せな日々。そんな時間に終止符を打ったのは彼でした。

付き合って2年。俺は決断をしていた。
「結婚してください。」
いろいろ考えた結果、無難にこの方がいいだろうとシンプルに伝えることにした。
「…もちろん、喜んで!」

今付き合っている彼女は大学の演劇サークルで知り合った。片思い歴2年。周りから見てらんねぇ!と言われて3年の春、夜桜の下で告白したのだ。
「いいよ?長野くん、ずっと見てくれてたでしょ?」
気づかれていたという恥ずかしい反面、了承の返事に喜んでしまう。ここから俺達の未来は始まった。

「ひーろくん。」
「あれ?!早いなぁ…」
茶色いふわふわした髪を少しワックスで撫でつけた珍しい姿で走って待ち合わせの場所に向かった。
彼女は薄いピンクのトレンチコートを来ていた。
「早く会いたいなぁ…って思ってたから。」
「ふふ、そっか。」
可愛いなぁ…と思いながら手を繋ごうと手を差し出す。その時、彼女は「あっ!」と声を上げた。
「ひろくんらお誕生日おめでとう!」
彼女は薄い紫色の小さな紙袋を渡した。今年の誕生日は、夜まで仕事が入っているためその前日の今日になった。会おうと思えば会えるのだが、彼女の都合もつかないそうだ。
「…きにいるか分かんないけど…似合うかなって。」
中を開けるとシンプルなネックレスだった。シルバーのクロスネックレス。シンプルなので、すっきり見えてごついネックレスが似合わない俺には似合うと思った。
「ありがとう!つけてみてもいい?」
彼女が頷いたのをみて、ケースからネックレスを取り出す。そして、ネックレスをつけてみる。自分でいうのもなんだが、似合っていると思う。
「よかった。似合ってて。」
そう言って笑ってくれた。彼女は俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「行こう?」
そう微笑んで歩き出した。あの時…あの場所を通らなかったら…。彼女はそう思ってるかな。
「ねぇ、ひろくん。」
俺は彼女が話すことを聞いている。
目の前には、ベビーカーをひく母親とそのそばを歩く小さな女の子がいた。ピンク色のワンピースに白い帽子を被っている。その時、強い風が吹いた。
「きゃ…!」
彼女は目を閉じてスカートを押さえる。また、目の前の女の子も同じだった。白い帽子が風に乗り空を舞う。
「ボーシ…ッ!」
女の子は帽子を追って道路の方に走っていく。母親はそれに気づいていない。
「…ここにいて…」
「ひろくん…?」
俺は彼女が何かをいう前に駆け出した。そこには1台のトラック。女の子の帽子は道路の上に落ちた。それを拾うために駆け寄って汚れを落としている。
「危ないッ!!」
俺は叫んでその子のことを引き寄せた。それとともに遠心力で俺の身体は…そのまま倒れ込んだ。その瞬間、耳には劈くようなクラクションの音と、急ブレーキの音が聞こえた。
「ひろくんッ!!」
彼女のそんな叫び声も聞こえた…気がする。だが、なぜか体が動かない。俺の意識は…それをあとにフェードアウトしていった。

ひろくんが女の子を助ける為に走っていった。…間に合わない。そう思った。けど、ひろくんは女の子を助けた。ホッとしてた…なのに…そのままひろくんはトラックに轢かれた。
「ひろくん!!」
誰かが車を止めてくれた。私はすぐにひろくんに駆け寄る。既に意識はなく、そこは血溜まりになっていた。
「ひろく…」
「救急車呼んだからなー!」
そんな声も聞こえてくる。目を閉じている彼を、ありったけの力で抱きしめた。
優しくてかっこよくて…勇敢な彼。
遠くで救急車のサイレンが聞こえた。

病院に運び込まれた時には、既にひろくんの息はなかった。
「こちらでお待ちください。」
そう言われ、待ち合わせのソファに音を立てて座り込んだ。
「ッ、ひろ…くん……」
ひろくんの前では見せられなかった涙が次々と頬を伝った。泣いてはいけない。そう思っていたが、涙は止まってくれなかった。
「長野…博さんのご家族の方ですか?」
「い…いえ、私は恋人で…」
「そうですか…。…いいでしょう、お入りください。」
促されながら中に入ると、ひろくんがベッドに横たわっていた。その顔は青白く、生気がない。
「残念ながら…」
その言葉を聞いた時、頭が真っ白になった。なんで…?なんで、ひろくんが…?
「いやぁぁぁ…!ひろくん…ッ!」
嘘だ。明日は彼の…誕生日だったのに…。
「お気持ち、お察しします。」
大好きな彼が亡くなった。でも、彼は轢かれそうになった子どもを守って亡くなった。とても勇敢だった。少し…それが誇らしくなった。
けど、もうひろくんの笑顔を見ることが出来ない。病院の地下にある薄暗い部屋…霊安室に入ることは出来なかった。
次にひろくんの姿を見た時には、凄く小さな姿になっていた。

続く