私にはアメリカのママが二人いる。
その中の一人はLong Beachに住んでいて、何かと世話を焼いてくれたり、食べさせてくれたりするイタリア系のママだ。



グレートピレニーズというでっかくてもふもふの犬を二匹飼っていて、家に遊びに行くと毎回長居してしまう。このママは旦那さんと会社を経営していて、職場のみんなにもあったかい愛と笑顔をを振りまいている。でも実は、数年前に病気で昏睡状態になり、聴力を失ってしまった。左は完全に聞こえなくなり、右は30%ぐらいしか聞こえない。唇を読んで会話してくれるのでうっかり忘れそうになるが、うるさい通りを歩いていたり、雑音が激しいところだと聞こえなくなってしまうらしい。ママは障害を持っているとは思えないぐらい、とんでもなく明るい。


「昔は結構色々気にする性格だったんだけどね。もう気にしないの。だって聞こえないから何言われてるかわかんないし!笑」

と豪快に笑ったママを見た時は、こっちがぶっ飛びそうになった。家族や友だちはもちろん、動物や草木にも優しいママだから、聴力を失った時はさぞかしショックだったと思う。私みたいなヘタレた人間としては、創造しただけで耐えられない...今みたいに笑えるようになるまで、どれだけ時間がかかったんだろう。ママはエンパス気質(言葉に出さなくても他人のエネルギーを感じとったり、感情を読んだりできる人)なので、ハッピーなニュースは心から喜びが湧いてくるし、ショッキングなニュースは胸がえぐられるような思いをしている。昨日ご飯に行ったら、久しぶりに病気になった時の話をしてくれた。

ウィルス性の風邪が悪化し、一週間ぐらい昏睡状態だったママは、奇跡的に意識が戻った後も自分で立てないくらい衰弱していた。トイレに行ってもフラッシュのボタンを押す前に転倒、ぶつけたひじから血が出て、でも恥ずかしくて助けも呼べなかった。
何てみじめなんだろう、とトイレで途方に暮れた。会社の経理を担当していたので、ずっと病院にいることも出来ず、自力で階段も登れない状態なのに退院して自宅で鬼のように書類を処理していたという。初めてこの話を聞いた時は、壮絶さに何も言えなかった。ママはすごいねーとしみじみ話を聞いていると、子供の頃の話もしてくれた。
 

母方がイタリア系で、父方がギリシャ系の家族でアメリカに来たのだという。当時は本当に貧乏で、ジャガイモの皮を食べて生活していたこと。絆創膏やガーゼが買えないので、ケガして出血しても布きれを巻いていたこと。

波乱万丈な人生を送る人、というのは一定数いる。ママと話していて思うのは、やはり乗り越えられる人にだけ試練がやってくるのだ、ということ。幸か不幸か、大きな波もなく生きて来た(そしてこれからもそう願う)私だったら、一発でノックアウトされてしまうだろうと思う。試練が大きかった分だけ、器が大きくなって、だからこれだけポジティブなエネルギーを発することが出来るんだろう。


「人生は大変よ。毎日色んなことが起こるもの。でも、負けちゃダメなのよ!」
タコスを食べながらママが言った。聴力を失ってから一人で外出することがなくなり(話しかけられても気付かず、失礼になってしまうのが怖いのだという)20年ぶりに来たというメキシカンレストランのタコスは美味しかった。私はただただ、そうだねとうなずくしか出来ない。生きていれば死にそうな時って何度もあるけど、それでも上を向いて歩くことをやめてはいけないのだ。
上を向いて歩いていれば、きっといいことがある。今のママは幸せそうだ。もちろん色々問題はあるだろうけど、幸せそうに笑っている彼女をみるとこっちまで幸せになってくる。そして自分もそういう人間になりたいと思う。

「小さい頃、私のママがよく言っていた言葉があるの。」

と教えてくれた言葉を、私も忘れないようにしたい。

Be humble and be grateful.
Don't let your life take away your happiness.
謙虚に、常に感謝することを忘れてはダメ。
辛い人生に振り回され、幸せを見失ってはダメよ。