2014年10月30日作成 11月9日最終更新
作成者:ラーマン真理子/大類 隼人
〈総括〉
看護師育成プロジェクトの有効性を評価しフィードバックするため、コース終了後認知度試験・調査を62名の受講者に対して行った。
救急カート内薬剤と観察のポイント、人工呼吸器の理解と対応、ICUでの基礎知識と技術の各項目で、各評価項目において、70%から90%前後の著明な正答率が得られており、コース開始前と比較して正答率の上昇が認められた。
感染症予防対策:スタンダードプリコーションにおいて、手指衛生の理論についての3項目については82.3%から93.5%と高い正答率であったが、手指衛生の実践を問うた4項目では正答率は1.6%から16.1%であり、コース前と比較して正答率に上昇は認められたものの依然低い。
人工呼吸器の取り扱いと対応、感染症予防対策に対する生徒らの自己評価は著明に上昇しており、コースへの一定の満足は得られていると考えられるものの、今後も弱点を補完する知識面の強化と、知識の現場実践において、継続した取り組みが求められる。
以下詳細情報
〈プロジェクト評価対象期間〉2014年4月-9月
〈コース参加者数(対象者)〉62名
〈対象評価項目〉
・救急カート内薬剤と観察のポイント(回答数62/62)
・人工呼吸器の理解と対応(回答数62/62)
・スタンダードプリコーション(回答数62/62)
・ICUにおける基礎的知識と技術(回答数62/62)
〈調査方法〉
講義および実習が終了後、全62名の生徒に基礎的な詳細知識について、各項目で理解度テストを実施。この試験結果と合わせ、ICUにおける基礎知識と技術においては、生徒の自己評価も含めたコース内容認知度調査比較を行った。
使用頻度の多い医療機器の基本技術においてはより優先的に知識、技術の向上が求められた人工呼吸器の理解と対応についての調査を行った。
また各講義内容の調整による講義内容の一部変更に伴い、コース開始前認知度調査項目に含まれていた一部の項目は評価不能のため、今回の調査では実施せず。
コース参加人数はコース開始後は64名であったが、2名がコース期間中に転勤となり、62名に変更となった。
<調査結果詳細>
①救急カート内薬剤・観察ポイント(62名中全員が解答)
カテコラミン3種類(ドーパミン・ドブタミン・ノルアドレナリン)の使い分けについて講義が行われた。
「アドレナリンの効能・効果を知っていますか?(項目1)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、62人。試験正答率は80.5%であった。
「ノルアドレナリンの効能・効果を知っていますか?(項目2)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、58人。正答率は67.7%であった。
アドレナリン、ノルアドレナリンの効能・効果についての質問に対する正答率は、コース開始前約50%であったが、コース終了後には約70〜80%と上昇が見られた。
②人工呼吸器(62名中全員が解答)
人工呼吸器におけるアラーム発生時の実際の対応について講義が行われた。
「人工呼吸器の代表的な3つのモードを知っていますか?(項目1)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、60人。試験正答率は90.3%であった。
「その代表的な3つのモードの違いを知っていますか?(項目2)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、59人。正答率は74.2%であった。
「MVとは何か知っていますか?どのような計算式で求めますか?(項目3)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、59人。正答率は51.6%であった。
「fとは何か知っていますか?(項目4)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、54人。正答率は82.3%であった。
「PEEPとは何か知っていますか?(項目5)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、57人。正答率は91.9%であった。
人工呼吸器の代表的な3つのモードの違い、PEEPについては、90%を超える正答率が認められた。
③スタンダードプリコーション(62名中全員が解答)
手指衛生・手袋装着脱の正しいタイミングについて講義が行われた。
「医療従事者が感染の媒介となることを知っていますか?」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、61人。
「医療が行われる中で病原体伝播の主な経路を知っていますか?(項目1)」という質問に対し、
正答率は87.1%であった。
「なぜ手指衛生を行う必要があるのかを知っていますか?」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、58人。
「院内感染を起こす菌にはどのような菌があるのかを知っていますか?(項目2)」という質問に対し、正答率82.3%であった。
「手が目で見て汚れていなければ、擦式アルコール製剤で手指を擦式で綺麗にする」ことを、
「知っている」と答えた人は、57人。
「この場面でなぜ手洗いではなく手指消毒を選択する必要があるのですか?(項目3)」という質問に対し、正答率は9.7%であった。
「石鹸と流水での手洗いを必要とする場面を知っていますか?」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、55人。
「それはどのような場面ですか?(項目4)」という質問に対し、正答率は1.6%であった。
「手指消毒に必要とする全行程時間を知っていますか?(項目5)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、57人。正答率は50%であった。
「手洗いに必要とする全行程時間を知っていますか?(項目6)」という質問に対し
「知っている」と答えた人は、56人。正答率は93.5%であった。
「手洗いの最も不十分になりやすい部位を知っていますか?(項目7)」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、55人。正答率は6.5%であった。
「手指消毒を行うタイミングを知っていますか?」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は、54人。
「手指消毒の5つのタイミングについて教えて下さい(項目8)」という質問に対し、
正答率は16.1%であった。
どのような病原体が、どのような経路で、伝播をしていくか?に関する質問に対し、約60%-80%の正答率が見られた。さまざまな医療場面において、手洗い・手指消毒のどちらをなぜ選択するか?に関する質問に対し、正答率は10%以下という調査結果であったが、約90%以上が「知っている」と答えており、講義内でも正答が多数認められた。
④技術(自己評価 62名中全員が解答)
「手指衛生が正しい手順に沿って行えるか?」という質問に対し、
「行える」と答えた人は62人。
「手技に自信がある(項目1)」と答えた人は62人であった。
「人工呼吸器の操作方法を知っているか?」という質問に対し、
「知っている」と答えた人は62人であった。
「手技に自信がある(項目2)」と答えた人は62人であった。
正しい手順に沿った手指衛生、人工呼吸器の操作方法について、全員が「行える」と答え、それらの手技に対しても全員が「自信がある」と答えた。(コース開始前は両方の質問に対して30%から40%が「自信がある」と回答)
〈結語〉
各項目で高い正答率が得られており、目標の一つである知識の強化については、一定の成果が認められるが、感染症予防対策(スタンダードプリコーション)において、手指衛生の実践についての4項目では正答率は1.6%から16.1%であり、コース前と比較して正答率に上昇は認められたものの依然低く、知識面の強化においても更なる取り組みが求められる。
今回の調査は講義・実習の終了後約1週間後に施行したものであったため、全体的な正答率の上昇が著明であったと考えられる。今後も長期的な視点に立った知識の強化にも取り組む必要がある。
また、今後の大きな課題としては、コース開始前認知度調査結果より課題に挙げられていた「知識・概念の理解と実際の医療現場での行動内容の解離」を克服するため、今後も継続的なフォローアップと医療現場における指導、また各項目における改善を継続性を持って促進するため看護師たちによる院内委員会等の設置などが必要と考えられる。