2002年10月、現職代議士が自宅前で刺殺されるという衝撃的な事件が起きました。殺されたのは、民主党選出の現役代議士だったその人です。
恥ずかしながら、私はこの事件をほとんど覚えていません。この当時、私は大学卒業後に就職した会社の1年目です。営業で初受注し、初体験の契約処理や、納品と集金に追われていた頃です。テレビや新聞を見る余裕も無くとにかく必死でしたから、当時の社会情勢が記憶からぽっかり抜け落ちているんですね。
参考:Wikipedia記事「石井紘基刺殺事件」
【事件のあらまし】
事件は、自宅玄関先で起こります。国会へ登庁しようと自宅を出た直後、待ち構えていた犯人によって柳刃包丁で襲われ、殺害されたのです。
翌日、一匹狼の右翼系暴力団を名乗る犯人が警察に出頭します。犯人は犯行の動機を、金の無心を断られたことによる逆恨みと自供するのですがが、それは極めて信憑性に乏しいものでした。事件前後の足取りにも不可解な点が多く、誰もが政治的殺害の可能性を疑いました。しかし、裁判でその事実が解き明かされることは無く、事件の真相は一旦、藪の中かと思われます。
2009年、テレビ朝日記者が彼を獄中取材する過程で、決定的証言を得ます。裁判での供述が虚偽であり、本当は何者かによる依頼殺人だったことを、犯人自身が認めたのです。これが真実とすれば、1960年の浅沼稲次郎暗殺事件以来の、現行憲法下における2件目の現職代議士暗殺事件となります。しかし、その後に犯人は口を閉ざしてしまい、控訴することも無かったため、詳しい真相は未だ解き明かされていません。
参考:Wikipedia記事「浅沼稲次郎暗殺事件」
他方で石井元議員の周辺では、彼が事件の直前に、自民党大物議員が闇金から受けた献金スキャンダルを握っていたとの情報があります。事件当日、彼が握っていたブリーフケースから、その資料が犯人によって持ち去られた可能性も指摘されています。当時の自民党中枢、あるいは小泉政権の関与を疑う人も少なくありません。
【爆弾発言男】
さて、この事件をタブーと感じる最大の理由は、石井元議員の生前の活動にあります。
それまで彼は、独自調査によってこの国の天下り利権構造を解き明かし、官僚の天下り先が3,000社もあることを突き止めました。また、特別会計予算や財政投融資制度を含めた国家歳出が年間200兆円を超えている事実を指摘。さらに、この利権に群がる特殊法人等の政府保証債務が、公開されている規模を遥かに超えるものであると追求しました。これら功績から、彼は国会で「爆弾発言男」と呼ばれました。
今日、日本の借金は1,000兆円とよく言われますが、彼の調査結果から推測すれば、公債と財投に、不良債権化した特殊法人を加えれば、実際の公的保証債務総額は1,200兆、ひょっとすると1,500兆円。いや、それ以上かも知れません。
実は、小泉構造改革のひとつであった特殊法人改革の発端を作ったのは、この石井元議員です。猪瀬東京都知事がその後に道路公団の民営化を指摘したのも、彼の独自調査に由来するところが大きいのです。しかし彼が亡くなり、これら財政の闇の解明にはブレーキがかかりました。民主党の「弔い合戦」が口だけだったのか、単に民主党議員が無能なのか、あるいは外から何らかの歯止めが掛かっているのかはわかりません。しかし結果として、今のところ官僚の利権構造は死守され続けています。
【真実の憂国論者】
彼がその生涯を賭けて追求した財政の闇は、いわゆる「事業仕分け」や「霞が関埋蔵金発掘」といった甘いものではありません。彼を突き動かしていたのは、「このままでは日本は潰れてしまう」という危機感です。そのルーツはモスクワにあります。
彼は1965~71年にかけて、モスクワ大学に留学しています。彼が目にした、閉ざされた鉄のカーテンの向こう側は、既に利権と汚職にまみれ、資本主義経済に対抗する余力など無い、ソ連の真実の姿でした。そしてバブル崩壊後の日本に、彼はそれと同じ姿を見出したのです。
実際に、この国の経済は今も市場主導ではありません。政府支出がGDPの半分を支え、その巨大な柱は税金と借金によって成り立っています。これは単純な計算をすれば誰にでも確認できることなのですが、それをテレビで発言する人を見たことがありません。
参考:過去記事「日本は本当に市場経済か?」
ただ、彼は決して官僚組織を否定していたわけでもないし、盲目的に政治主導を信じたわけでもありません。彼が目指したのはただ一点、国家財政の真実を明らかにし、借金を減らし、税金を正しく使うことです。
後に私自身が、彼の生前に事務所の手伝いをしていた知人から聞いた話では、彼は本当に清廉潔白な人柄で、真実の国士と呼ぶべき人物だったそうです。いずれ知人を通じて、ご息女にもお会いできればと願っています。
【意志を継ぐには】
石井元議員の功績を本当に活かすためには、やる事はたったひとつです。「会計制度改革」しかありません。
歳入と歳出のメカニズムを白日の下に晒すことで、官僚による官僚のための財政構造から脱却すべきです。現実的に必要な社会保障費や、既に崩れ始めたコンクリ資産の改修費を準備すべきです。老人達の既得権益を壊し、若者が安心して子供を生める社会を目指すべきです。次の世代に備えるべきです。
会計制度改革は、既に東京都と大阪府で、石原慎太郎と橋下徹が実現しました。大阪市も、平成27年度実施へ向けたプロジェクトがスタートしました。最近は影が薄く、問題発言でもしなければ話題にすら上らない維新の会ですが、少なくとも私は彼らの政策に期待しています。
参考:過去記事「会計制度改革への期待」
今回も最後まで読んで下さりありがとうございました。
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