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この国のタブー

素人がタブーに挑戦します。
素人だけに、それみんな知ってるよ?ってこともあるかもしれませんが。
コメント、質問、大歓迎です。お手やわらかにお願いします。

 続編ですので、前回の投稿はこちらをご覧ください。
 →マルチ商法に勧誘された教訓(1)




前回記事で、マルチ商法が一般的に使う手口をいくつかご紹介しましたが、本題はここからです。1円のコーラ、50円の醤油、10円のティッシュには一体どんな意味があるのか。地域経済とは何のことなのか。
それを考えて頂くために、まずはこんな萬話をどうぞ。


【地域経済の長い話】

ある閉ざされた村に、10軒の家があったとします。彼らは魚を捕ったり野菜を育てたりして、またそれを互いに売買することで生計を立てていました。
彼らには貯蓄がありませんでしたが、各家は商品の売買によって、毎日1万円ずつの売上がありました。つまり、10軒合計で10万円ですから、この村の1日当たりのGDPは10万円、年間3,650万円です。また貯蓄がゼロということは、村に流通する貨幣量もまた10万円分しかありません。

さて、年間3,650万円のGDPを増やすには、この10万円という貨幣を1日に1回転ではなく、何度も手渡していくしかありません。つまり地道に商売に努力するしかないのです。
しかしここへ、村の外から一人の銀行家がやってきてこう言いました。
「10軒の家全てに10万円ずつ、合計100万円をお貸しします。これを投資してビジネスを大きくしてください。返済は1年後、10%の利息を付けて返していただければ結構です。」

ある者はこのお金で新しい釣竿を作り、またある者は肥料を買って生産を増やしました。その結果、1軒あたりの1日の売上は2万円に倍増しました。GDPも2倍の7,300万円になり、皆の暮らしはとても豊かになりました。

そして1年後。銀行家がやってきて、返済を迫ります。100万円に利息を加えた、110万円を返さなければなりません。しかし村には、元々あった10万円と銀行家が持ち込んだ100万円の、合計110万円分の貨幣しか、そもそも存在しないのです。結果、村人たちは全てのお金を失い、全員で破産しましたとさ。



【マルチも利用する地域通貨】

このデフォルメされたストーリーは、つまり地域経済が外部からの資本によって崩壊することを教えています。外部から持ち込まれたお金を流通させると、必ず金利が生じます。金利は内部の資本を奪っていきますから、経済は必ず赤字になるのです。難しく言えば、「売上は増えて利益はゼロのまま、キャッシュフローが増えないから経済破綻」という理屈です。
そしてこのモデルは、年収365万円の家計が、たった10万円の資金を年利わずか10%で借り入れただけで崩壊することも、証明してしまうのです。

さてこうなると、大変です。だったら利息の無い地域通貨を作って、閉ざされた経済の中で暮らそうという発想が生じます。つまり、マルチ商法のメンバー特典はこの理屈を成立させるために有ったのであり、マルチの経済的正義の論拠としたわけです。
って長いですね。。。


ただこの論理は実際、地域経済を説明する極めて正しい理屈です。米国を始めとした海外資本の流入によって、日本だけでなく世界中の国々が苦しんでいる原因のひとつ言っても、決して大袈裟ではありません。(ただし実際には、物価変動や為替変動なども加味する必要があるので、現実のメカニズムはもう少し複雑ですが。)

これは余談ですが、地域通貨に少しでもご興味ある方は、NHKが放送した「ミヒャエル・エンデ」という児童本作家のドキュメンタリーを是非一度ご覧ください。経済や金融に疎い方でもすぐにわかります。1時間の動画は少し長いですが、「経済はどこかおかしい」と疑問をお持ちの方には、きっと目から鱗ですよ。
 参考:Youtube動画「エンデの遺言 根源からお金を問う」


ただし、これをマルチが主張してしまうと、大きなカラクリに騙されます。
閉ざされた経済の中で、1日1万円の売上を倍増させる最も簡単な方法は、1万円のガラクタをひとつ作って、これを皆で毎日売り買いし、商品を毎日1周させれば良いのです。そうすれば単純に各家の売上が倍増するからです。
しかし、決して実態経済が潤うことはありません。売れたお金で同じガラクタを買ってしまうのだから当たり前です。経済学でこれは「循環取引」と言って、明確な違法行為です。
 参考:Wikipedia記事「循環取引」



【循環取引という無限連鎖】

しかし、マルチを馬鹿などと決して侮ってはいけません。彼らの一部は恐るべき経済学の知識を備えています。現実のマクロ経済を、十分理解しているのです。
ただ、先程言ったようにこの行為は違法です。循環取引は売上を水増しするだけなので、株価対策や上場対策にもしばしば悪用されますが、永遠に終わらない無限連鎖を生むだけで実体がありません。ネズミ講が「無限連鎖講」と呼ばれる所以です。
 参考:Wikipedia記事「無限連鎖講」


経済とは元来、連鎖しているものです。例えば、自動車部品工場の社長だって自動車は買いますよね。実際、自分が売った物がやがて手元へ帰ってきてしまうことは避けられません。つまり、この循環の輪が大きく、かつ手放した時と帰ってきた時の価値や形が大きく変わっていれば、それは通常の経済活動なのです。特に、価値や形の変化がポイントです。

しかし唯一の例外があります。金融です。
金融取引はPC上に表示される単なる数字のやり取りですから、自動車と違って商品の価値や形は変動しません。ただし実際には、全てのお金の流通経路を把握することなど不可能なので、循環取引が生じても絶対にバレることはありません。

金融の仕組みは単純です。誰かがどこからか資金を借り、それを又貸しするだけです。また、その反対の貸した側も、債権を投資家や別の金融機関へ転売します。こんなことを繰り返せば、自分で自分の債権を買うという現象がいずれ必ず生じます。見えない循環取引を利用した、一種のマネーロンダリングですね。
しかし、金融取引を何度も繰り返せば、その度に金利が上乗せされていくので、最終利息は巨大に膨れ上がります。つまり、いずれ絶対に破綻することは最初からわかっていることです。でも裁かれません。そんなのおかしいですよね。

その最も象徴的だったものが、サブプライムローンです。本来は住宅ローンを組めない所得層(=プライム層の下)相手に高金利で貸し付け、その債権を寄せ集めて証券化。これを細かく分解して、金融機関や投資家にバラ売り転売したのです。
結果として、無責任な貸し手は貸し倒れの責任を逃れ、金融機関や投資家は高金利商品に飛びついて、莫大な損害を生じたのです。
 参考:Wikipedia記事「サブプライム住宅ローン危機」


マルチに加担する人の一部は、こうした金融流通の特性を熟知しています。彼らは、マルチがこの構造と全く同じであり、マルチは経済の本質そのものであると主張します。この主張は極めて正論であり、反論するのは容易ではありません。恐らく金融業界に身を置く方ですら、論破するのは困難でしょう。



【マルチ商法と金融取引】

つまりマルチ商法は、最初からこうした金融の知識を駆使して設計されているのです。彼らは現実のグローバル経済と同じことを、小さくしただけです。それは非常に優れた行為である一方、非常に悪どい行為でもあります。だから私は銀行もマルチも嫌いです。


サブプライムローン問題が発覚した当時、私は正直、その意味がほとんど理解できませんでした。それもその筈で、これはノーベル経済学者達が作った仕組みです。しかし後々になって勉強していくにつれ、この問題が昔知ったマルチ商法にとても似ていることに気付きました。
つい先日も、元大手銀行マンの飲み友達(と言ってもひと回り以上年上)にこの事を聞いてみると、答えはサラッとひと言だけ。

「うん、そうだよ。」

あー、世界の崩壊はもうすぐかなぁと思う今日この頃です。


今回はいつにも増して回りくどい話でしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。



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