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この国のタブー

素人がタブーに挑戦します。
素人だけに、それみんな知ってるよ?ってこともあるかもしれませんが。
コメント、質問、大歓迎です。お手やわらかにお願いします。

農協はいつか必ず書こうと思っていたテーマです。
最近、日本の農林水産業はTPPで大揺れしていますね。年内合意決着を目標に、この7月にもマレーシアで会合が開かれるそうですから、その前には上げようと思って書き始めました。


過去記事で何度か触れているように、私は農家の三男坊です。実家の神奈川県西部では平均よりやや小さい規模だと思います。
ただ、農家とは言ってもそれは過去の話。私が大学を卒業すると同時に実質的には廃業しました。大学入学の前年に父が亡くなり、農業は一時的に私が継ぐことになったのですが、卒業後は就職して家を出てしまいましたし、兄達もサラリーマンでしたので、結果的には後継ぎが居なくなってしまいました。

それでも、廃業までの間には自分なりに苦悩がありました。農家を継がなかった最大の理由は、うちの規模の稲作農家では食べていけないからです。サラリーマンの方がずっと高所得なのです。とは言え、小作人上がりでも200年以上続く家業を止めることには、家族を含め様々な葛藤がありましたし、丸山家本家ですから分家親戚からの批判も少なくありませんでした。

今回は、大学生当時の私がどのような葛藤をしてきたのか、さらにそれを今振り返って見えてきた事がテーマです。



【小作人は食えない】

戦後の農地解放によって、かつての庄屋は没落しました。うちの近所に残る米作農家は、どこも小作人上がりで同じような規模です。細かな数字は省きますが、全収穫高から自家消費(家族の食べる分)を除く全てを、中間マージンが生じない自主流通(農協や米店を通さず直販)で販売したとして、年間売上高は150~300万円といった規模です。もちろん、ここから農機具などの生産設備、種や苗、肥料や農薬などの生産資材を購入しなければなりません。生活費として使えるお金は、100万円を割るケースも少なくありません。

一度、年間所得を労働時間で割って私の自給を調べたら、なんと170円くらいでした。これでは食べていけません。だから廃業するしかありませんでした。周辺農家も同規模ですから、大多数の農家の家計は年金頼りで、60歳以上の定年退職者が農業を支えています。その他の残りは、休暇が自由に取れて残業も少ない、地元自治体や農協に勤務する兼業農家で占められています。



【なぜ農家は儲からないのか】

農家が儲からない理由は、挙げていけばキリが有りません。サラリーマン所得が相対的に上昇したことや、経済全体が成熟してエンゲル係数が下がったこともそうでしょう。つまり、食べるために昔ほどお金を使わずに済むようになったということです。話題のデフレやTPPも、農業経営を難しくする要因に含まれます。

もちろん、農家自身の努力不足という指摘も免れないでしょう。農水省に圧力を掛けては、価格補償や所得補償を得たり、低利融資などの公的助成にどっぷりと浸かっていますよね。公的補償額は、先進諸外国に比べれば日本は低いそうですが、それでも改善の余地はまだまだあります。

しかし数ある要因の中でも、私がずっと思い続けているのが農協です。
経営能力に乏しい農家が頼りにしてきたのが、弱小農家を支える組合たる農協なのですが、この農協組織が農家を助けていないのです。農家自身の問題とはつまり、農協の問題なのです。

農協の内側に手を差し込むと、これでもかという暗い悪しき問題が出てきます。その実態については、とても面白い本が有ります。以下の本には、農家自身が書いた、農協の裏実体が全て体験談として赤裸々に語られています。著者は農協から離脱し、生産から流通までの全プロセスを独自開発したそうですから、言わば農業のユニクロでしょうか。

農協との「30年戦争」 (文春新書)/文藝春秋

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【金で農家を支配する】

農協=農業協同組合とは本来、知識も金も無く、1,000年以上に渡って差別され搾取され続けた農家が団結し、社会的立場と経済競争力を樹立するために生まれた組織です。
団結するからには、皆で新しい品種を開発し、一緒になって良い生産資材を探し、またそれを共同購入することで価格を抑制するなど、様々な恩恵が受けられるはずです。地域ブランドを作って信頼の高い流通を行うこともできますし、最新の生産技術を共有することもできます。

そのため、農家は原則として全員が農協に加盟します。加盟した農家は理事を選出し、会社の取締役会にあたる理事会の経営方針に従って、農協職員を雇用して運営されています。
しかし実態は、組織自らの保身のために運営され、農家を搾取しています。本書によれば、肥料や農薬などの生産資材は古くて使い物にならない物も多いし、農機具は中間マージンを取るから高価なばかりか、メンテナンスさえずさんです。

ならば農協から買わなければ良いですよね。しかしそうすると、ルール通りに作っていない=規格外の農産物と扱われて、米を買い取ってくれなくなるのです。加えて、農家は農協からの融資に縛られますから、まず資金源を断たれます。終いには悪者扱いされて、村八分になるという構造です。

さらに国からの補助金や助成金の申請に至っては、書類作成や申請手続きを農協がコンサルする代わりに、手数料を抜かれるという始末です。その構造はこうです。
最初に「所得保障しろー!」、「TPP反たーい!」というような運動を、農協が農家を扇動して仕掛けます。結果的に勝ち取った税金は、農家に直接配られるのではなく、農協が窓口となります。農協は手数料として上前をピンハネして農家に配ります。要するに年貢ですね。
 参考:msn産経ニュース(2013.6.12)「TPP参加後も反対継続 JA全中会長が米高官と面会」



【農業法人の創造】

一方、生意気なことばかり言う私はどうなんだというと、かつて大学生当時に農業の進化を真剣に考えていました。米国の大規模農業を見れば、日本の農業を大規模化しなければ勝ち残れないということは子供でもわかります。
先にも述べたように、実家の周辺農家はどこも小規模で、年寄りが細々と営んでいるケースが圧倒的な多数派です。そして我が家と同じく、跡取りも居ません。ならば農業を会社にしようと私は考えました。ある意味これは必然的なことですし、私だけが考えついた訳でもありません。

私が考えた仕組みはこうです。
まず、儲からない廃業寸前の農家の田んぼは、会社に出資物として全て提供してもらいます。会社はその大規模な田んぼを運営し、育苗から収穫、流通までを一手に引き受けます。出資者(田んぼの元の持ち主)には、彼らが食べる分の米を配当します。多過ぎた配当米は現金で配当することもできますし、配当米で足らない家には、労働力を提供してもらいます。つまり、従業員は外部から雇用するのではなく、元の農家に働いてもらうのです。

ここで得られる効果はまず、規模のメリットです。一括して育苗すれば、安定した品質の苗を低コストで育てることが可能です。また、地域の田んぼ全てを同時に植えて同時に刈るのではなく、少しずつ時期をずらして2カ月くらいかければ、トラクターもコンバインも数台で済みます。

実は、稲作農家の農機具は非常に高価なのです。どれも一年に数日しか稼働しないにも関わらず、どの家も1台ずつ保有しているのです。育苗機100万、トラクター200万、田植え機100万、コンバイン300万、乾燥機100万・・・などなど、総額は1,000万円にも上ります。これを仮に10年で償却しても、毎年100万円のコストを浪費していることになります。
仮に5件の農家が集まるだけで、このコストを5分の1に抑制できる計算になります。

さらに、農業経営管理を集約すれば、最新の生産技術を否応なしに導入することになります。上手な農業を広く普及させることになりますので、地域全体の生産量や品質の向上も可能です。



【農家にイノベーションは無い】

『もしドラ』で流行したP・ドラッガーは、経営学の基本教科書でもある著書『マネジメント』において、経営に必要なリソースとして「イノベーション(革新・創造など)」を特に強調しています。私はPCで何度も計算して、やっとの思いで農業法人の損益を試算表に起こしました。取ったばかりの簿記3級を全力で発揮しました。

そしてある日、農協の上役を務める伯父の息子(つまり私の従兄ですが2回り年配)に面会し、そのアイデアを打ち明けたのです。しかし回答は、「そんなことをすれば農協と村中から潰される」というものでした。即答で撃沈です。
生産からも流通からも農協を排除すれば、融資を打ち切られるだけでなく、あらゆる面で反対される懸念がありました。さらに、地域の農地を実質的に管轄する「農業委員会(農協OBや元政治家で組織)」からの反発も必至だということでした。
 参考:Wikipedia記事「農業委員会」

しかし一度くらいでは諦められず、ネットで賛同者を見つけては質問し、何度も検討を重ねました。でもある時、「出資法違反と利益供与の壁を越えられないかも知れない」という指摘を受け、大きなショックを受けました。さらに、「現行法では法人の農地借用はできない」ということも教わりました。つまり、法が認めていなかったのです。
 参考:Wikipedia記事「農業法人」


【農地は農家のもの?】

私がこのイノベーションを考えたのが大学3年生、2001年のことです。
米国などでは、農業を「メジャー」と呼ばれる企業が一手に取り仕切っています。私がやろうとしたことは正に同じで、大規模な組織的農業を目論んだわけです。
しかし、企業の論理が農業生産に入り込むことは大きなリスクもあります。大資本は簡単に農地を買収するでしょうし、そうなれば小作人は全てを失ってしまいます。営利目的に農業を行えば、例えば海外で売れる野菜だけを作って、国内需要を無視した農業に走ることだってあり得ます。そのため、農地に作付できるのは、農業委員会が定めた人=農家だけというルールがあるのです。

結果として、私のアイデアは机上の空論で終わりました。様々な問題を克服する手段はいくらでもあったと思いますが、まだそれだけの力がありませんでした。

しかし現実の農業を見れば、うちの実家と同じ理由で廃業する農家は増え続けました。耕作放棄地も増え、田んぼが荒れ果てていく状況に歯止めを掛けるべく、国が動いたのは2009年のことです。農業生産法人による農地使用を認める法律が作られ、やっと動き出したという段階ですので、農家はまだまだ潰れるでしょう。
これまでの制度は、一体何を守っていたのでしょう。農家や農業は守れませんでした。一方で農協は肥大化しています。農家が潰れるのに組合が巨大化しているのです。

ここで私はやっと気付きました。この国は農家を救えません。農協は農家を滅ぼす道を歩んでいます。
私のアイデアが8年早かったからでしょうか?
いえいえ違います。私のアイデアなど、誰にでも考え付く程度の発想です。国が遅いのです。



【JAバンクという巨大利権】

さて話は変わりますが、3大メガバンク(UFJ、三井住友、みずほ)の預金総額はそれぞれ100兆円超です。対するJAバンクの預金総額(正しくは全国の農協の合計)は90兆円ですから、農協だって正真正銘の巨大資本です。しかもこれは金融庁管轄でありながら、農水省利権でもあります。
 参考:農林水産省基本データ集

農家に融資する農協は、生産効率化など形だけのコンサルは行いますが、実際には経営の素人です。結果として、農家が返済に行き詰ると田畑を売って返済を迫ります。或いは、農業を廃業すると傘下の不動産会社をぞろぞろと引き連れて来て、アパートを建てろと勧めます。もう立派な投資金融です。農地を宅地転換すると資産価値が膨れ上がりますから、私は新種の地上げ屋だと認識しています。

かく言う私の実家も例外ではありません。父と母は亡くなりましたが、祖母はまだ健在で、不動産の多くは祖母の名義です。父が亡くなった翌月には農協がやってきて、相続税対策として融資を受け、アパートを建てろと迫りました。結局祖母は、私や家族には内緒で口車にまんまと乗せられました。

これが農協の手口です。彼らはもう農業で食べていくつもりはありません。農家の年寄りから絞るだけ絞って食べているのです。言うなれば「お母さん助けて詐欺」ならぬ、「おじいちゃんおばあちゃん金出して商法」でしょうか。



【TPPは農家を潰す?】

ところで、TPPでいつも農林水産業が話題になりますが、最も重大な懸念は健康保険制度や医療介護、教育といった福祉の自由競争化です。最近TVで目につく「第一生命経済研究所」などは、公的保険制度を廃止して利を得たい親会社の思惑が、露骨に見え隠れした主張を繰り広げていますよね。この名前は皆さんも記憶しておいてください。
 参考:第一生命経済研究所レポート(2013年3月19日)「TPP参加の経済効果を吟味する 発」(PDF)

ちなみに冒頭で紹介した本の著者は、TPPに大賛成です。彼の主張の大部分は恐らく真実で、高品質の農家は必ず生き残るし、本業をサボりっぱなしの手抜き農家と農協は、TPPを批准するかどうかに寄らず、残念ながら徐々に衰退すると思います。著者曰く、農協が潰れれば日本の農業は復権するということですから、これには色々な意味で頭が下がります。
農協が恐れているのは、小泉構造改革で郵便局が民営化されたように、農協も解体されることを恐れているのです。そりゃ90兆円も資産を持っていて、サブプライムローンでも巨額の損失を出したのだから、外資のターゲットになるのは当たり前です。



他方、私自身は別の観点からTPPに反対の立場です。グローバル経済には必ず落とし穴があります。いや、落とし穴を準備した人こそが、グローバル化推進派の急先鋒と言うべきかも知れません。
また、当ブログ最初の記事でも述べているように、何よりもこの国の経済実態は官による計画経済です。数字で明らかなように、そもそも自由経済ではないのです。これは本来、鎖国を続けるかどうかという以前の問題なのですが、世のエコノミストたちはそれをタブーにしてしまうので、議論の土俵すら無いのです。
 参考:過去記事「日本は本当に市場経済か?」

ただし、TPPの反対運動を農協が扇動するのには我慢なりません。これは著者と同感です。
農協はマフィアです。役所と同じで、組織という名のファミリーを守るために仕事をしています。農家が廃れるのに農協が反映することが一体どういうことか、少し考えれば誰にでもわかります。
農家でない皆さんも、住宅ローンや自動車ローンの利率の安さに騙されて、農協に加盟するのだけはお気を付け下さい。

今回も最後まで読んで下さりありがとうございました。



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