いつもは一方的に偉そうな記事を書いていますが、今回のテーマはどうもそういう訳にはいきません。女性主体の問題だからです。記事を書いていながら、確固たる持論があるわけでもなく、実際にはとても不勉強な世界です。それでもいつか書こう書こうと思い続けて、今回やっと腹をくくって書く気になりました。
とりあえずいくつかの論点をわかる範囲で並べられるだけ並べてみましたので、お手柔らかにコメントよろしくお願いします。
【少子化に立ちはだかる難問】
以前の記事で、若者が恋愛や結婚をしないという問題を書きました。また最近では、不妊症や高齢出産の問題が徐々に身近な問題になってきました。日本では現在、全カップルの1/6は不妊治療を受けたことがあるそうですが、結果として、体外受精での妊娠は全出生の1%を超えました。ちょっと衝撃的ですよね。
その原因は様々ありますが、私個人は不況と価値観の変化が大きいのではないかと考えています。晩婚化の一因を女性の社会進出だと批判的に主張する保守層もいますが、それは逆に言えば、正規雇用の減少や可処分所得が増えない社会構造に起因します。働きたいから働く女性もいますが、共働きでなければ暮らせない事情だってあるからです。
また晩婚化だけでなく、離婚と再婚の増加というライフスタイルの変化も、これを後押ししているのかも知れません。これについては、専業主婦に関する過去記事が参考になるかも知れません。専業主婦という仕事の価値や魅力が正しく理解されないことも一因だと、私は思います。
参考:過去記事「驚愕!専業主婦の経済生産性(1)」
【不妊の原因として考えられるもの】
男性の精子の数は減っていて、その最大の原因は肥満だそうです。98年頃に、「環境ホルモン」が精子の数を減らすという話題をご記憶の方もいるでしょう。日本では最近あまり聞かれなった話題ですが、世界的にはまだまだ深刻な課題と捉えられているようです。
減少度については、50年で半分になったという話もあれば、仏国では約15年で1/3に減ったという報告もあります。実際はよくわかりませんが、減っていることは事実のようです。
参考:男性不妊ナビ「環境ホルモン」
参考:AFP通信WEB版(2012年12月06日記事)「フランス人男性の精子数、約15年で3分の1減 仏研究」
一方で、最近わかってきた原因もあります。卵細胞の数は母体が胎児の頃には約700個あり、50歳前後でゼロになるまで、排卵が始まる以前から減り続けていくこと。あるいは、生物学的な出産適齢期は20代半ばと考えられていたのが、実際にはもっと若く18~20歳頃らしいことなどです。これらを総合して、卵細胞の老化が不妊など様々なリスクを高めるという説が生まれました。つまり、母体が高齢であることが不妊原因のひとつというわけです。
参考:夢ナビ 講義No.02246「生物としての妊娠の適齢期」
参考:「あやひめのママは心の先生」ブログ記事「生物学的な出産適齢期」
こうして見ると、男性と女性の双方に不妊の原因があることがわかります。私はその中で、最近話題の女性側の問題について、特に着目しました。
【高齢出産のリスク】
母体が40歳を超えて出産すると、若い時期に出産する場合に比べて様々なリスクが高まります。不妊だけでなく、妊娠できたとしても流産や難産、妊娠中毒症のリスクに直面します。特に問題と言われるのが染色体異常、とりわけダウン症の発症リスクです。
先ごろ本格的にスタートした「新型出生前診断」では、そのリスクが99%以上予見可能だそうです。正式には「無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT=Noninvasive prenatal genetic testing)と呼ばれます。
参考:35歳からの高齢出産「高齢出産のリスク」
参考:NIPTコンソーシアム
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ダウン症候群とは、染色体異常に起因する先天性疾患です。体細胞の染色体のうち、21番染色体が1本余分に存在することで生じます。つまり根本的な治療はほぼ不可能なため、出生前に予防する、つまり「選択する」しか回避できないのです。
母親が転座型のダウン症候群だった場合には、遺伝による子の発症率が50%もあります。従って、本来は出産が絶望的だった人にとって、この検査による恩恵は計り知れません。
参考:Wikipedia記事「ダウン症候群」
【性の選択は優生学】
しかしこの診断は、検査結果によって積極的な中絶を容認することになるため、「生の選択」という倫理的大問題が生じます。健康な子しか産まないというのは一見すると素晴らしいことですが、それは病気や障害を持って生まれた人に対する生の否定にも繋がってしまう恐れがあります。
また、そもそもの話として、この検査費用20万円を負担できる富裕層の遺伝子だけが淘汰されれば、相対的に貧困層の遺伝子だけにリスクが残されます。つまり社会的な優生実験となる恐れがあります。
かつて世界中で行われた「優生学」は優れた遺伝子だけを残し、劣った遺伝子を断つというものでした。ナチスが積極的に推進したことで悪しきイメージが先行しますが、シンガポールなどのポジティブな成功例もあるので、ここではあえて良し悪しは言及しません。ただし、大きなリスクを伴う慎重な問題であることは押さえておきます。
参考:Wikipedia記事「優生学」
【新たなリスク可能性】
他方、文化人類学から見た「生の選択」の問題は一層複雑です。統合失調症について過去記事でも引用した下の文献では、この病気が遺伝による劣性形質だと仮定して、それが人類進化と種の維持に必要な因子だと述べています。
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「レミング」というネズミは、増え過ぎた種の数を調整するために、一部が海へ飛び込んで自殺するという伝説があります。生物学的には既に否定された伝説ですが、「ハーメルンの笛吹」にも似た興味深いエピソードです。
著者はこのエピソードを例え話として取り上げ、人類全員が同じ形質の遺伝子を持っていれば、(種の数が増え過ぎるというような)危機を予見できず、盲目的な死を遂げると指摘しています。
この説に従えば、あらゆる病気や障害の遺伝子は、いずれ人類がそれを必要とするかも知れません。進化と呼んでも良いでしょう。つまり、もしもその遺伝形質を意図的に排除すれば、種としての滅びの道を歩むことにも繋がりかねないのです。だからこそ、とても慎重な判断が求められます。
【不妊治療の社会的負担】
母体の年齢とともに妊娠が難しくなるということは、経験的に昔から知られています。しかし、これら詳しいメカニズムがわかってきたのは最近のことです。その事実に焦った駆け込み需要が生じたこともあって、不妊専門のクリニック数は日本が世界一になりました。
参考:NHKクローズアップ現代(2012年2月14日放送)「産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~」
さらに厚生労働省ならびに自治体は、「特定不妊治療費助成事業」を開始しました。保険適用外のため高額な不妊治療費の一部を、公的助成しようということです。人口が増えれば税収も伸びますから、この政策に間違いはありません。
参考:厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業の概要」
しかしこうなると、もう一方では既に子を持つ母親、私の妻や友人のママさん達からは、非常に手厳しい意見が聞かれます。
意図的に出産を回避し、自由を謳歌したにも関わらず、今頃になって医療や助成に頼ろうなどという考え方は自分勝手過ぎると批判します。出産時期の遅れは必ずしも女性だけが原因とも言えませんが、女性同士は厳しいですね。もちろん、止むを得ず他に選択肢が無かった事情の人は別としても、公費を投入するということには彼女達なりの不公平感を生みます。
【それでも必要な公的補助】
ここで誤解してならないのは、ならば公費を使わず全額自費なら良いかというと、そうも割り切れないことです。全ての医療は国家的福祉事業の一部ですから、公共の福祉を利用している以上は、患者が全額自費負担さえすれば自由に利用して良いということにはならないのです。
公共の福祉は平等が大原則ですから、コストだけの問題ではなく資源の問題があります。
それでも、少子化が深刻な現代においては理想や建前ばかり言ってもいられず、事情はともかく子供は増やしたい。だから今のところ、公共の福祉を少し曲げてでも、出産を支援しようというのが正しい理解でしょう。
私の立場はこれにほぼ同感です。やはり過去記事で触れていますが、人口増加はあらゆる政策に勝る経済波及効果をもたらします。人口増加こそが日本経済には必要なのです。子供が増えない「子供手当」は無駄かも知れませんが、子供が増えるならあらゆる施策を行うべきです。
参考:過去記事「若者に捧ぐ魂の叫び(2)」
【新しい性教育の可能性】
では、不公平感を解消するためには何をすれば良いのでしょう。
私が真っ先に思いつくのは、性教育の延長です。新たにわかってきた妊娠と出産のメカニズムを、統計データも使って正確に教育する必要があると思います。今は高校までで終わる性教育を、大人にも行うべきではないでしょうか。
最初のターゲットは大学です。違和感を感じる大学関係者は多いかも知れませんが、私は大いに推奨します。就職指導と同じくらいの必要性を感じますし、キャリア教育の番外編として行うならば全く不自然さはありません。
或いは、企業内福利研修の一環として、ワークライフバランスの一部で行うならば何ら違和感は無いでしょう。少なくとも20代前半での受講を義務付ければ良いことです。後で気付いて公的支援にすがるよりも建設的ではないでしょうか。
ただ、この話題になるとどうしても、現状の小中高における性教育問題に触れなければなりません。こちらは本当に根深い問題ですし、論理というよりもイデオロギーの問題です。
本音を言えば、性に関するタブーは他にもネタが沢山あるのですが、いかんせん、私自身がそちらの分野を掘り下げることへの社会的効用が感じられません。そのため、調査も進まずなかなか記事が完成しません。って愚痴っても仕方ないのですが。。。
いつも疑問に思うのは、出産や性を終えてもこれ程までに長寿な生物は、人間以外に居るのかなということです。それだけに、人間の社会性は高度で、出産や性の問題は深いテーマなのだろうと思います。今回も最後まで読んで下さりありがとうございました。
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補足:
一部リンク先にセキュリティー上の問題の可能性が検出されましたので、注意喚起を追記しました。