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この国のタブー

素人がタブーに挑戦します。
素人だけに、それみんな知ってるよ?ってこともあるかもしれませんが。
コメント、質問、大歓迎です。お手やわらかにお願いします。

人が生まれた瞬間に、唯一決定していること。
それは「いつか死ぬ」という避けがたい事実だけです。

これを哲学風に言えば、人は死ぬために生きています。死は万人にとって平等であり、いずれ必ず訪れるものです。

医学の発達とともに、助かる命が増えました。医療過誤や悲惨な交通事故をイメージすればわかり易いですが、ともすれば人の死が誰かの責任に転化されてしまう時代でもあります。それを見る度、最近の日本人は死をとても禁忌する価値観を持っているんだなあという気がします。死を禁忌するのは本人のみならず家族や友人も含まれますから、私にはその価値観がとても象徴的に感じられます。現代人にとって死はタブーなのです。




さて、今回の死というテーマは私の中でとても大切なエピソードがいくつか含まれますので、やや長文です。複数回に分けて記述するつもりですが、それでもとても書ききれません。お時間がある時に是非お付き合い下さい。


私は神奈川の農家に生まれました。平成の時代にあまり信じられないかもしれませんが、私の家には奉公人がいました。ただし、時代劇に描かれるような縦社会とは少し違います。

奉公人は隆さんという人で、皆が「たーちゃん」と呼んでいました。いつも笑顔を絶やさず不平不満を言わない、とても謙虚な人でした。朝鮮移民の家に生まれ、その貧しさから子供の頃に奉公に来たと聞いています。たーちゃんを引き受けたのは私の祖母で、読み書きもできない貧しい子を不憫に思い、引き受けたと後に聞きました。

平成10年、私の実父が56歳で他界しました。農作業を引き継いだのは、当時87歳の祖母と62歳のたーちゃん、そして農繁期に大学を休むことのできる三男の私でした。しかし平成13年の夏、農作業中に持病の血栓が詰まり、心不全でたーちゃんは亡くなりました。

後で思い返せば、たーちゃんは農作業を手伝うだけの人ではありませんでした。寝食を共にし、私の保育園の送り迎えまでしてくれました。父亡き後も家業を支えてくれました。手が空けば近所の手伝いもし、皆からとても好かれていました。私たち家族にとって全く家族同然の人が亡くなったのです。

その葬式で近所の長老達が手を合わせて涙を流し、こう言っていました。
「偉いね。おばあさんに迷惑を掛けずに先に逝くなんて。」

奉公人が奉公先の家主より先に死に、家主の子孫に迷惑をかけないことを偉いと言うのです。つまり、早死にが偉いという価値観がここにあるわけです。
私自身はこれが普通ではないことにずっと後で気づきましたが、当時は極普通に受け入れていました。悲しみに浸り涙を流しながらも「ありがとうございました」と私自身が感じていましたし、それは今も変わりません。

死をどのように受け止めるかという価値観は、時代や地域、その環境によって変わるのだと思います。でも、現代日本のある地域、ある世代ではこういう価値観も普通に今でも存在しているのです。そのことを多くの方々にわかっていただきたいのです。


言葉足らずから誤解を招きたくないので自己弁護しますと、私自身はたーちゃんに心の底から今でも感謝していますし、早くに亡くなったことは残念でなりません。実家の墓参りに行ったら、必ずその次にたーちゃんの墓参りをするようにしています。私にとっては家族ですから。
祖母はまだ95歳で存命です。アルツハイマーになる前、なぜたーちゃんが奉公に来たのかという話を何度も尋ねたことを覚えています。また、これはずっと後でわかったことですが、祖母は文盲者の支援をしたことで市長から表彰されたことがあったそうです。私自身や私の家族にとっては、市長以上に感謝をしてもしきれない思いですが。



若者のための世界を語ろうとすると、どうしても“高齢化”を深く突き詰めねばなりません。「いずれ行く道」という軽い言葉では納得できないほど、若者の置かれている環境は過酷な気がしてなりません。

だからこそ、死というものにどうしても直面します。福祉で成功しているからといつもモデルケースになる北欧諸国には、日本のような寝たきり老人はいないそうです。それは、延命措置をしないという明確な文化的違いがあることが根底にあります。
私は、寝たきり老人を殺せ!とは全く思いませんし、今のやさしい若者たちがそんなことを望むとも思いません。が、その事実を論じないまま北欧諸国をモデルケースに取り上げるはいかがなものかとも感じます。

日本が今の価値観のまま、クオリティーオブライフなどの議論も脇に置いて、長寿こそが幸福と思い続けるのであれば、高福祉高負担です。もちろん、それは北欧をも超える世界最大の負担ですけれど。



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