今月のメインイベントとも言える、とても楽しみにしていた

沢木耕太郎さんの講演会に行ってきましたよ!

この日の山形は暖かくてとても快適でした。

 

講演会はなんと無料なんです。

東ソーアリーナ友の会員のイベントとして、

500人限定で開催されました。

自由席なので早くから並んで、

真ん中2列目の席に座ることが出来ましたよ。

 

有料じゃないのは沢木さん自身がそれを望まないから。

もともと講演会はあまり引き受けなくて、

(特に大きな会場では)

「お金をいただいて喋るほどのものではない」

と謙遜しておっしゃいます。

 

ただノーギャラというわけにもいかないので、

事務局とやり取りして、

毎月つや姫5kgを1年分(12回)

送ってもらうことにしたそうです。

沢木さんが1年中山形のお米を食べてくれるのも嬉しいなあ。

 

沢木さん、山形へは前日から入りました。

土曜日は新幹線を米沢で下車して、

川西町で井上ひさしさんの遅筆堂文庫を見学。

 

沢木さんも筆が早い方ではないそうですが、

遅筆堂文庫を訪ねて、あらためて

井上さんの筆が遅い理由が分かったそうです。

 

井上ひさしさんは書き始めるまでの下調べに

膨大な資料の下調べをする。

沢木さんはこの作業を漁師に例えて網を編むと言いました。

井上さんはとにかく最後の最後まで、

入念に網を編み続けた人だと。

 

沢木さんは若い頃に原稿の締め切りに追われ、

出版社どころか印刷所に缶詰めになったことがありました。

そこで一緒に(部屋は別)缶詰めになっていたのが、

井上ひさしさんだったという思い出があるそうです。

 

先に原稿が完成した沢木さん、

井上さんに「お先に・・」と挨拶をしたら

「帰っちゃうのー!?」(笑)

 

遅筆堂文庫の次に訪問を希望したのが藤沢周平記念館。

鶴岡までの移動にはそれ相応の時間がかかりました。

「同じ県内だから30分くらいの移動で済むだろうと思って・・・」(笑)

でもお天気に恵まれて良かったですね。

 

でも旅人沢木耕太郎は、

スケジュールがきっちり決められた旅を本来好みません。

あえて予定を入れない、

あるいは緩くすることで起こるかも知れない、

「予期せぬこと」

と楽しむくらいの気持ちの余裕が、旅には必要だと教えてくれました。

 

旅の種類には3種類あると言います。

ひとつはスケジュールがきっちり決められたツアー旅行。

これはつつがなく旅程通りに、

行って帰ってくることが求められる旅です。

 

その対極にあるのが、「深夜特急」に

代表されるようなバックパッカーの旅。

予定はあくまでもおおざっぱで、

行く先々での出会いや局面で展開が

変わっていくスリルがあります。

リスクもあるし、その分充実感もある旅です。

 

最近増えてきたと感じるのがもう一つの旅のスタイル、

アニメや映画あるいは小説などの舞台を訪ねる旅、

いわゆる聖地巡礼と呼ばれる旅です。

このスタイルの旅はなにも今始まったことではありません。

沢木さんの代表作「深夜特急」にもその要素はあった。

どういうことかというと、ヨーロッパを目指すために

寄り道したマカオやマラッカ、インドのゴアやカルカッタなどは

学生時代に選択履修していた、スペイン語の教授の話に

だいぶ影響を受けていました。

(と後で気が付きます)

 

ここまでも十分面白かったのですが、

ここから話はさらに面白く展開していきます。

 

最近の沢木さん、仕事で鳥取に行く機会がありました。

ただ飛行機で真直ぐ鳥取に飛んでしまっては面白くない。

そこでだいぶ遠まわりになるけれど、

高松から瀬戸大橋を渡って岡山、

岡山から中国山地を越えて鳥取に入るというルートを考えました。

理由はまだ瀬戸大橋を列車で渡ったことがないから。

 

この考え方には大いに共感できます。

余談ですが私も時折出張で訪れる機会がある四国の松山。

日程に余裕がある時は、松山への入り方をいつも考えます。

行き方はおおまかに3パターン。

すなわち飛行機、JR、あるいは広島から瀬戸内海を渡るフェリー。

一昨年はまだ行ったことがなかった安芸の宮島から、

フェリーを乗り継いで松山港に到着しました。

 

沢木さんの鳥取旅です。

待望の瀬戸大橋ではたまたま乗った客車の指定席が、

2階建て車両の下だったために、せっかくの橋の上からの眺めが

コンクリのフェンスに遮られてほとんど見えませんでした。(笑)

 

旅慣れしている沢木さんは、

旅先でいい居酒屋を探すことに長けていると言います。

嗅覚が発達しているというか勘が働くのです。

初日の鳥取の夜は、盛り場でキャバクラの客引きを

していたお兄ちゃんから「いい居酒屋を教えて」

と聞き出しました。

 

そして沢木流居酒屋使用の極意があります。

それは同じ町に二泊するときは、二晩続けて同じ店に行く。

普通の人は旅先ではまず同じ店には行きませんよね。

だってあれも食べたいし、これも食べたいから。

そこを敢えて同じ店に通う。

するとお店の反応が変わってきます。

単なる一過性の旅客ではないと分かったことで、

対応と展開が変わってくるのが面白いのだそうです。

 

鳥取でもドラマがありました。

同じ居酒屋での二晩目、カウンターの隅に座っていると、

金髪の若い女性客が一人お店に入ってきて、

カウンター席の沢木さんから一つ空けて隣に座りました。

革ジャンならぬビニール素材っぽい上着を羽織っています。

 

この店は生ビールマイスター的な

ポスターも貼ってあるお店なのですが、

この女性、しばしお品書きを見て注文したのが、

 

「瓶ビール、そしてアサリの酒蒸し」

 

(瓶ビール!)

 

瓶ビールを手酌で飲み始めた女性客が気になります。

地酒をちびりちびり飲んでいた沢木さん、

「諏訪泉を常温で」とお代わりを頼みます。

 

ビールを飲み終えた女性はメニューをみて今度は、

「瑞泉を常温で」とオーダーしました。

 

沢木さんカウンター横の女性客に話しかけます。

「どうして瑞泉を?」

 

「地酒メニューの一番最初に載っているから、

 きっと有名なお酒なんだろうと思って。

 そして日本酒の頼み方に『常温で』という

 頼み方があるんだ、と今聞いたから」

 

訊くと彼女は東京の病院で働く管理栄養士で、

日本全国47都道府県を全部訪れてみたいと思って、

休みの度にあちこちひとり旅をしているのだとか。

 

「今回はどうして鳥取に?」

 

「わたしコナンが好きなんです。

 名探偵コナンが」

 

ぴんと来ましたか?

鳥取はコナンの作者の故郷、

鳥取空港は別名、鳥取砂丘コナン空港なんですね。

なるほど!

 

「ほかにどんなところに行ったの?」

 

「この前は九州の福岡に行きました。

 推しのK-POPアイドルのコンサートがあったので」

 

沢木さんすっかりいい心持ちになったので、

先に席を立って会計を済ませようとして・・・

 

「そうそう、このあと何か締めのメニューを頼むつもり?」

と女性に確認します。

 

彼女がこくりと頷きました。

 

「ここはね、牛筋カレーがとても旨いんだよ」

沢木さん、夕べはこのお店でカレーを食べたんですね。

 

自分のお会計のついでに、お店の人に頼みます。

「彼女にカレーを一杯」

 

粋ですねー

バーボンではなくカレーなのがまたいい!

思わず拍手をしましたよ!

予定調和ではない旅ならではの予期ぬ出会いと痛快な展開。

まるで自分が体験したかのような充足感を与えていただきました。

 

旅先でひとり居酒屋のカウンターで飲む。

アルコールが弱い私ですが、地酒を舐めるのもありですね。

しかも二晩続けて同じ店に行く。

 

沢木さん、講演の最後にこう締めくくりました。

「皆さんどうぞ良い旅を。

 そして出来れば、旅はひとりがいいですよ」

 

ありがとうございました!

これからもいい旅を続けて行きたいものです!

予期せぬことが起こることを予期しながら。