【ご質問内容】
採卵や移植を繰り返すことで、不妊治療をしていない人よりも多くのホルモン剤が体内に入ります。やはり婦人科系の癌のリスクは高まるのでしょうか?


【当院からの回答】

「不妊症あるいは妊娠歴のない方は、乳癌、卵巣癌、子宮体癌のリスクが高くなる」ことが知られていますが、妊娠治療による影響によるものかどうかについて、議論のあるところです。

 

また、女性ホルモン感受性の癌は女性ホルモン剤を使用する不妊治療によりリスクが増加するのではないかと、かつて漠然と考えられていましたが、現在報告されている論文は、そのような認識を否定するものです。

 

★排卵誘発による乳がん危険性は上昇しない

Fertil Steril 2021; 116: 198

ART治療の卵巣刺激と乳癌リスクに関する20論文のメタアナリシスを行った結果、クロミフェン使用、hMG注射使用、クロミフェン+hMG注射併用いずれにおいても、卵巣刺激(クロミフェン・hMG)により乳癌リスクは増加しないことを示しています。

 

★ 排卵誘発剤と卵巣癌のリスクとの関連は認めない

Fertil Steril 2013; 100: 1660

1965~1988年に米国5カ所の施設で不妊症として治療を受けた9825名の女性を対象とし、2010年まで経過を観察し、卵巣癌(85名)と卵巣刺激の関連について後方視的に検討しました。クロミフェン使用もhMG製剤使用も卵巣癌のリスクとの関連を認めませんでした。

 

★ 妊娠治療に用いる薬剤による癌の心配はない

Fertil Steril 2016; 106: 1627

米国生殖医学会のガイドラインから、(エビデンスレベルA>B>C)妊娠治療に用いる薬剤での各種癌の頻度は増加しないことを示しています。

1.乳癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)

2.子宮体癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)

3.子宮頸癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)

4.卵巣癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)、薬剤の種類による違いはない(B)、妊娠治療後に境界悪性卵巣腫瘍がわずかに増加するとの報告がありますが、特定の薬剤ではない(C)、境界悪性卵巣腫瘍の活動性は低く予後は良好(B)、境界悪性卵巣腫瘍を避けるために薬剤使用を避けるという根拠はない(C)