採卵のための卵巣刺激法の選択は非常に重要です。なかでもPPOS法とアンタゴニスト法は、多用される調節卵巣刺激方法です。今回は、PPOS法の特徴と、メリット、デメリットを詳しく紹介します。
PPOS法とは?
PPOS法は、黄体ホルモンの内服により排卵抑制しながら卵巣刺激を行う方法です。採卵数や胚の質において他の卵巣刺激法と比較して有意な差はありません。当院では2019年から導入しており、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の防止や全胚凍結例を含め、その適応範囲は急速に拡大しています。
PPOS法のメリット
- LH抑制効果が強い:採卵前の予期せぬLH(黄体化ホルモン)上昇や排卵済みとなるリスクを低減します。
- タイミングの調整が不要:アンタゴニスト法のように排卵抑制剤の併用開始タイミングを確認する必要はありません。
- OHSSリスクを低減:多嚢胞性卵巣症候群PCOSやAMH高値の場合、OHSS重症化リスクを低減します。
- 経済的で便利:黄体ホルモン剤(デュファストン錠やMPA錠)は安価で経口投与可能です。
- ランダムスタートが可能:卵胞期だけでなく高温期からでもスタートできます。
- GnRHa点鼻薬をトリガーとして使用可能。
- ダブルトリガーが使用可能:採卵率不良や未熟卵が多かった症例に有効です。
- 胚の染色体異常の割合は変わらない:欧米の報告によれば、他の調節卵巣刺激法と比較して胚の染色体異常の割合は変わりません。
PPOS法のデメリット
- 全胚凍結が前提:新鮮胚移植(採卵周期胚移植)ができず、融解移植までに時間を要します。
- 長期予後の報告が少ない:2015年に発表された方法であり、長期予後のデータがまだ不足しています。
- 排卵誘発注射の投与日数が長くなる可能性:hMG投与日数が少し長くなるとの報告があります。
- 妊娠までの期間が長くなる:全胚凍結が必須であるため、妊娠までの期間が延びる可能性があります。
当院の卵巣刺激方法の選択基準をお示しします。
女性の年齢と抗ミュラー管ホルモン(AMH)値を基本とし、以下の基準で選択しています。
- HOR症例(若年・AMH高値):PPOS法を選択
- POR症例(高齢・AMH低値):アンタゴニスト法を選択
- NOR症例(AMH 1.0-4.0):月経時の胞状卵胞数、過去の卵巣刺激に対する反応性などを参考にして決定
これらの基準に基づき、患者様一人一人に最適な治療法を選択し、より良い結果を目指しています。PPOS法とアンタゴニスト法、それぞれの特性を理解し、適切に使い分けることで、効果的な不妊治療が可能となります。