卵子活性化処理(AOA)は、受精障害の治療として注目されており、受精障害があったときには保険診療での実施が卵子調整加算(診療報酬1000点)として認められています。
厚生労働省の資料(2022年3月4日版)
- 卵子活性化処理(AOA)には、カルシウムイオノフォアがよく用いられています。
- カルシウムイオノフォアは、卵子外部から卵子内部へカルシウムの流入を引き起こすことで、細胞内のカルシウム濃度が高まり卵子活性化が起こります。
- 電気刺激でも同様の現象が生じます。
★ 受精障害における卵子活性化処理(AOA)の有用性についてのメタアナリシス
Fertil Steril 2017; 108: 468
受精障害における卵子活性化処理に関する14論文をメタアナリシスにより解析しました。
カルシウムイオノフォアによる卵子活性化処理により、受精率が3.74倍、分割率が2.18倍、着床率が2.31倍、臨床妊娠率が3.48倍、出産率が3.33倍に有意に増加しました。
★ 卵子活性化処理(AOA)の安全性:染色体異常の増加は認められない
Fertil Steril 2016; 105: 807
卵子活性化処理(AOA)は、顕微授精における受精率低下の際の改善策としてしばしば行われますが、AOAの有効性と安全性についてのデータは必ずしも十分ではなく、あくまでも受精障害の方、あるいはPLCζ欠損症の方や巨大頭部精子症の方の顕微授精の際にのみ行うこととされてきました。
AOAにより第2減数分裂の際の染色体異常が増加するか否かを前方視的に検討しました。対照群としては正常受精の胚を用いました。
49個の卵子が融解後使用可能であり、39個(80%)が第2減数分裂を完了しました。このうち27個の卵子の染色体を分析したところ、16個(59%)が染色体正常でした。
第2減数分裂における染色体異常発生頻度は、カルシウムイオノフォア群で29%、対照群で44%と有意差を認めませんでした。
★ カルシウムイオノフォア使用により胚の分割や発育の改善につながる
Hum Reprod 2215; 30: 97
前周期の顕微授精において、下記の①~③を対象に、次回の顕微授精ではカルシウムイオノフォアを15分間用いて、前後の成績を比較しました。
- 胚発育停止のため移植できなかった方
- day 5に桑実胚~胚盤胞にならなかった方
- 胚盤胞到達率<15%の方
カルシウムイオノフォアは、精巣精子使用時や不動精子使用時に、受精しても卵子活性化が起こらず分割しないのを回避する目的で使用されますが、精子の要因ではない場合にも、カルシウムイオノフォア使用により胚の分割や発育の改善につながることを初めて報告しています。
胚発育が停止してしまう場合の改善策として下記が考えられます。
- 卵巣刺激法の変更
- より良い精子(DNA損傷の少ない精子)を選ぶ
- 卵子活性化処理(AOA)