精索静脈瘤が見つかったとき、「先に手術をすべきか?」 「まず体外受精を優先すべきか?」 といったご質問をよくお受けします。
■ご質問内容
この度、男性不妊外来の受診により、夫に重度の精巣静脈瘤がある事がわかりました。 手術を受けても直ぐには改善が期待できず、数ヶ月は経過を見ることになることや、必ず改善するとは言えない事などを、夫より報告を受けました。子供を望むことさえ億劫になってしまった夫を励まし、なんとか手術を受けることに前向きになってくれた所です。
一方の私ですが、夫の術後に時間を要すると言う事で、1年くらいクリニックに通う予定がなくなってしまいそうです。 その場合は、どのように過ごせばいいのでしょう。
今のところ、基礎体温の入力は続けています。タイミングは夫の気持ちが入らず、取れない状況が続いています。 また、夫の術後、所見の経過が良くなれば、また治療方針も変わる可能性があるのかな?とも思いました。
■当院からの回答
★ 精索静脈瘤について
- 精巣の静脈に血液が逆流しているために、細い静脈が拡張し「こぶ」のようになっている状態。
- 不妊治療で受診する男性の25-40%に認められますが、自覚症状は比較的少ない。
- 精巣静脈の怒脹を触診、陰嚢の超音波検査で静脈への血液の逆流、静脈の拡張で診断します。
- 精子形成不全のメカニズム:①腎臓、副腎の代謝物の精巣への逆流、②血流うっ滞による精巣内の低酸素状態や温度上昇、③下垂体-精巣系に関するホルモン異常などが原因と考えられます。
★ 精索静脈瘤にはグレードG(1~3)がありますが、G3では造精機能に悪影響があると考えられます。
★ 体外受精前に精索静脈瘤手術を勧めるかどうかを示した2021年の総説をご紹介します。
Kohn, Jaden R et al. “Varicocele Repair Prior to Assisted Reproductive Technology: Patient Selection and Special Considerations.” Research and reports in urology vol. 12 149-156. 28 Apr. 2020, doi:10.2147/RRU.S198934
4つの研究が報告されています。成績の向上を示唆する論文が3本、効果がないとする論文が1本です。
■効果あり報告
2010年にEstevesらが、242人の不妊男性(80名:手術、162名:手術なし)の体外受精の結果をレトロスペクティブに比較しました。体外受精での臨床的妊娠率は、手術群では60%、非手術群では45.0%でした。同様に、出生率は手術群では46.2%、非手術群では31.4%でした。
2つめの研究は、2013年にGokceらが、306人の不妊男性(168名:手術、138名:手術なし)の体外受精の結果をレトロスペクティブに比較し、体外受精の前に手術を行うことで妊娠率と出生率が向上することを強く示唆する結果となっています。
■効果なし報告
2012年、Pasqualottoらは、248名の不妊男性(169名:手術、79名:手術なし)を対象に、体外受精の結果を比較しました。非手術群、手術群で妊娠率(31.1%vs. 30.9%、P = 0.9806)、着床率(22.1%vs. 17.3%、P = 0.5882)、流産率(21.7%vs. 23.9%、P = 0.8401)は、差を認めませんでした。
□メタアナリシス報告
Kirbyらが2016年に実施したメタアナリシスでは、上記の論文を含めて解析をしていますが、体外受精を実施する前に精索静脈瘤手術を実施することは、女性年齢が高くないカップルの出生率を大幅に向上させる可能性に示唆しています。
★ 精索静脈瘤手術を受けるかどうかを選択する場合、下記が判断材料になります。
- 現在の精液所見
- 女性の卵巣機能や年齢
- 精索静脈瘤手術後ステップアップせずの待機期間(精液所見の回復見込み期間:約3ヶ月)
- 精子DNAダメージの程度
顕微鏡下精索静脈瘤手術は、侵襲が少ない手術ですが、上記の判断材料を総合的に考えて、手術するかどうか?、手術するとしたらいつするか?決める必要があります。
★ 精索静脈瘤に対して手術を行った場合、術後1か月程度から妊娠を目指しての治療を再開します。1年間も待つことはありません。
- 精子濃度、前進率、運動率、総前進精子数、いずれも術前と比較して有意に手術後は改善が見られました
- ただし、体外受精を必要とするレベルの精子異常では、体外受精での受精卵(胚)発育の改善を期待するものです。
★ 手術後に精液検査所見の改善を待って長期間経過観察することは、妻年齢上昇、卵巣予備機能低下などから、おすすめできない場合があります。
★ 男性だけでなく、女性の状況にもよりますので、夫婦で受診して総合的に治療方針をご相談されることをお勧めします。