潤滑ゼリーの使用しても大丈夫ですか?
潤滑ゼリーは最適な粘度・ph・浸透圧で、頸管粘液を補い精子の活動をサポートすることを目的に使用されています。
膣内に潤いのない女性は、そうでない女性と比較し妊娠しにくいことが報告されています。
性交時に痛みが強い場合に、「潤滑剤を使ってみる」をアドバイスされることもあると思いますが、これまで、科学的な根拠は示されていませんでした。
論文①は、性交の潤滑ゼリーによる精子のダメージを検討したところ一部の潤滑ゼリーは精子への影響があると報告しています。
① Fertil Steril 2014; 101: 941
健康な男性22名(平均年齢25.9歳)の精液を採取し、各種潤滑剤を添加し培養し、添加前、添加後の精子の運動率(30分、60分)を比較しました。
Pre-Seed(-4%, -7%)、キャノーラオイル(-6%, -6%)、ベビーオイル(-6%, -7%)に対して、ごま油(-22%, -24%)、Astroglide(-20% ,-24%)、KY-Sensitive(-44%, -50%)、KY-Warming(-52%, -60%)、KY-Tingling(-78%, -80%)では精子の運動率に対するマイナスの影響が強いことを示唆されています。
また、胎児に対する影響については、使用した場合の妊娠率、流産率、出産率、奇形発生率などゼリー非使用群との比較、追跡されたデータは見当たりませんでした。
夫婦生活のときに潤滑ゼリーを使うと妊娠率に影響するのでしょうか?
アメリカ生殖医学会の上記の論文①では、in vitroでの精液所見の低下が示されていますが、以下の2つの論文②③では夫婦生活での妊娠率の低下は認めなかったと報告しています。
② Anne Z Steiner, et al. Obstet Gynecol. 2012.
不妊症の既往歴のない30~44歳の女性で、不妊期間3か月以内の女性を対象に、腟潤滑ゼリーの使用に関するアンケートを実施しました。
その後、女性は月経、夫婦生活、腟潤滑ゼリーの使用を記録する日記をつけ、最長6カ月間妊娠の有無を追跡しました。
296名の参加者のうち、75名(25%)がアンケートで、妊娠を試みているときに腟潤滑ゼリーを使用していると答えました。
日記データによると、57%の女性は潤滑剤を使用したことがなく、29%は時々使用し、14%は頻繁に使用していました。
妊娠しやすい期間中に腟潤滑ゼリーを使用した女性は、年齢、パートナーの人種、妊娠しやすい期間中の性交頻度を調整した後、妊娠しやすい期間を使用しなかった女性と同程度の妊娠率を示しました(出産可能性比1.05、95%CI:0.59、1.85)。
③ K A McInerney, et al. BJOG. 2018.
避妊や不妊治療を行っていない18~49歳の女性6,467名。
デンマーク(2011年~2017年)と北米(2013年~2017年)で行われた、妊娠に関する2つの継続的な前向きコホート研究のデータをプールし避妊や不妊治療を行っていない18~49歳の女性6,467名(不妊症の既往歴がなく、登録時に6周期以下の妊娠を試みていた女性)を対象とし検証しました。
自己申告による腟潤滑ゼリーの使用は、水性/pH調整なし、水性/pH調整あり、シリコン系、油性、またはこれらの組み合わせに分類しました。さまざまな因子で調整した上で、腟潤滑ゼリーの使用と妊娠のしやすさの関連性について、検討しました。
参加者の17.5%が腟潤滑ゼリーの使用を報告しており、最も多かったのは水性/pH調整なし(11.4%)でした。腟潤滑ゼリーを使用していない場合と比較して、水性/pH調整なし腟潤滑ゼリーの使用で1.02(95%CI 0.93-1.11)、「妊活に適した」とされている水性/pH調整あり腟潤滑ゼリーの使用で1.01(95%CI 0.86-1.18)、油性の腟潤滑ゼリーの使用で1.23(95%CI 0.94-1.61)、シリコン系の腟潤滑ゼリーの使用で1.27(95%CI 0.93-1.73)と妊娠のしやすさに変化はみられませんでした。
論文①報告から「精子の動きが悪くなったら妊娠率が低下する」と思われますが、論文②③では問題なかったと報告しています。この結論が乖離した理由としては次のようなことが考えられます。
- 腟潤滑ゼリーは、そう多く奥まで(膣上部、子宮頸管まで))沈着していない
- 精子の頸管内への侵入の方が早い
- 腟潤滑ゼリーを使うことで夫婦生活の回数が増える
いずれにしても、
フーナーテスト(性交後試験)不良が続く場合、
タイミングを3-6周期トライして妊娠に至らない場合には、早めの人工授精をお勧めします。