• 近年、免疫学的妊娠維持機構としてTh1/Th2バランスが注目されています。
  • 受精卵の半分は父親由来であるため、臓器移植になぞらえて考えると母体にとって本来自身の細胞ではない細胞が拒絶されることなく着床、妊娠が維持される何らかの免疫学的防御機構が働いていると考えられます。
  • 母体が受精卵を異物として拒絶することなく、着床・妊娠が維持されるのは細胞性免疫を司るTh1細胞機能が低下し、抗体産生を司るTh2細胞機能が亢進するためと考えられています。
  • 着床あるいは妊娠継続しにくい免疫学的原因としては、抗リン脂質抗体などの自己抗体によるものと、臓器移植の拒絶反応に準じた機序が考えられ、どちらもTh1/Th2バランスの破綻が示唆されています。
  • 反復着床不全でTh1/Th2比増加(10.3以上)した方を対象とし、タクロリムスという免疫抑制剤を使用することで、着床率が改善、流産率が低下し、妊娠継続率が改善したことが報告され(Am J Reprod Immunol 2015; 73: 353)、当院でも 2018年より臨床使用しています。

Th1/Th2バランス

タクロリムス内服量

10.3≦Th1/Th2比<13.0

1mg/日

13.0≦Th1/Th2比<15.8

2mg/日

15.8≦Th1/Th2比

3mg/日

 

杉山産婦人科と成育医療センターからの報告をご紹介します

Nakagawa Kら、Am J Reprod Immunol. 2019
方法:反復着床不全や反復流産のTh1/2比が10.3以上の109名の女性の前向き観察研究です。妊娠前からタクロリムス1-4mg/日を内服開始し周産期予後そして新生児の運動神経発達を調査しています。


結果:109名の女性から113名(4名双胎)で出産に至っています。双胎を含む9名(8.3%)が早産,妊娠高血圧症候群などの周産期合併症が2名(1.8%)、新生児の先天異常が1名(0.9%)であった。

タクロリムスの内服量により出生体重、胎盤重量、臍帯のリンパ球濃度は差はありませんでした。新生児の運動神経発達も一般新生児と比べてて異常がありませんでした。

この論文では反復着床不全や反復流産のタクロリムス治療が必要であった女性の周産期予後そして新生児の運動神経発達には差がなかったが、大規模研究を行っていく必要があるとされています。