Definition, diagnostic and therapeutic options in recurrent implantation failure: an international survey of clinicians and embryologists

 

2020年にヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の会員(8579名、6916施設)に反復着床障害に関するWebアンケート調査を実施し、最終的に医師735名、培養士300名から回答がありました。

 

着床不全検査は複数あり、その重み付け(優先順位)に一定の指針(ガイドライン)は未だありません反復着床障害は、3回以上の陰性判定としている場合が一般的であり、およそ2/3の回答者がライフスタイル(喫煙、BMI、常備薬)の改善策を提案していました。

 

多くの回答者は、子宮形態異常(子宮奇形)、卵管水腫、アッシャーマン症候群(子宮内癒着症)、子宮内膜厚、子宮内膜症などの女性因子に着目していました。また、妊娠前の治療として、BMI是正、禁煙、慢性子宮内膜炎治療を最も重視している傾向がみられました。

(Hum Reprod 2021; 36: 305)

 

反復着床障害(着床不全)は、およそ10%程度に認められますが、定義や治療については一定の見解は得られていません。

 

女性因子として年齢、BMI、喫煙、子宮因子が、男性因子として年齢、喫煙、精子DNA損傷の可能性が考えられています。

 

「着床不全」の原因としては、「胚自体の問題」、「母体の問題」、あるいは「胚自体と母体の両方の問題」が考えられます。

 

「胚自体の問題」に対しては、これを治療する方法はなく、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A) (胚盤胞の将来胎盤になる細胞の数個を取り出し、染色体に数的異常がないか確認し、その検査で異常が見つからなかった凍結胚盤胞を優先して融解移植する方法)が考えられます。しかしながら、この方法は、現在、国内で臨床研究が進行中で、一胚を検査するのに5-7万円程度が必要になります。

 

当院においても「着床不全」について、以下のような検査・治療を提案しています。

胚の原因(精子および卵子を含む)、母体の原因(子宮因子、免疫因子)、ご夫婦の原因(同種免疫因子)、染色体、さらには全身的原因(心理、栄養)について検査を行ない、異常がみつかれば、その治療を進めてゆきます。ただし、残念ながら必ず原因が分かるとまでは言えず、また、原因が見つかったとしても治療すれば必ず「着床不全」が防げるといったものではないことをご了承ください。

 

「胚自体の問題」

□    胚(受精卵)の質に関連する、精子・卵子・胚の再評価を行います

□    着床前胚染色体異数性検査(PGT-A):直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない方が現在の臨床研究の対象です

 

「母体の問題」      

1.  着床の場となる子宮自体に異常がないか調べます

□    超音波検査・子宮卵管造影検査

【治療】子宮筋腫・子宮腺筋症:GnRHリュープロレリン注射、子宮筋腫・子宮奇形・卵管水腫:手術

□    子宮鏡・子宮内膜組織診(形質細胞マーカーCD-138)

【治療】慢性子宮内膜炎:抗生物質を投与します

 

2.  着床不全関連検査 (ERA-EMMA-ALICE)

□ ERA (子宮内膜着床能検査:着床の窓検査):融解移植と同じ条件で子宮内膜を採取します

【治療】着床の窓(WOI)がずれていた場合、再検査および個別化し(着床の窓を特定)胚移植を行います

□ EMMA (子宮内マイクロバイオーム検査:子宮内の細菌バランス・ラクトバチルス属の割合)

□ ALICE (感染性慢性子宮内膜炎検査:病原菌の有無および各菌の占める割合)

【治療】検出された細菌に対し、推奨されるプロバイオティクス/抗生物質療法を提案します

慢性子宮内膜炎の病原菌を特定し、かつ個別化された治療が可能になります

 

3.  自己免疫因子:自己免疫疾患や血液凝固異常からの子宮の血流障害が原因になる可能性があります
□ 抗リン脂質抗体・ループスアンチコアグラント・抗核抗体・甲状腺抗体など

□ 血液凝固検査: aPTT・第12因子・protein C & S活性

【治療】低用量アスピリンなどによる抗凝固療法を行います

 

4.  同種免疫因子:夫婦の組織型の相性が悪いと胚を異物と勘違いし、着床しにくくなると考えられます
□ Th1/Th2 比

【治療】免疫抑制剤投与を行います。

 

5.  栄養因子:毎日の食事やライフスタイルを通して、着床しにくい栄養状態がないか調べます

□    BMI値

□    ビタミンD

□    亜鉛・銅

【治療】管理栄養士が食事・運動に関するアドバイスを行い、不足する成分をサプリメント等で補います