アラン著 古賀照一訳 「3」 白水社
感情・情念・表徴
第33章 グランデ
バルザックの「グランデ老人」は商談となるとことさら吃り出す。
こちらの腹の中は隠しておいて相手の腹の中のものを引き出すには格好の手である。
なぜなら吃りのまだるっこしい話を切り上げさせようとする相手は
苛立ってつい本心を漏らしてしまうものだから。
従って馬鹿な人間たちに脳なしだと思いこませる点で吃りの人は
なかなかの外交官である。
流暢な舌弁家には相手が警戒する。
腕のある行政官は生来の吃りのふりをする。
口真似の力は「説得の力にはるかに勝る」。
軽はずみな連中は吃りの人の真似をした。
つまり自分自身の中に彼の考えをいわば金属彫刻用ののみでもって刻み込んでしまったから。
吃りの人の考えを口真似しているうちに考えが刷り込んでしまうのを例え
馬鹿のふりはしていないのに馬鹿に見えていた利口者であるのだ。
吃りの人は中々の外交官である。
だから腕のある外交官は生来の吃りのふりをすべきである。
流暢の舌弁家には相手が警戒するのだ。吃りのまどろこしい話は
相手は切り上げようとするのだ。
苛立っているうちについ本心を漏らしてしまうものだ。
訥弁(とつべん)が有利である。
いざとなってはスフィンクスとなって相手の推測にいっさいを委ね
相手を苛立たせては不用意な言葉を吐かせることだ。
新築にて(初正月:家族)1973年頃