2005-2006 ニセコレポート その4 | HIRO'S DIARY vo3

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平成18年1月1日(祝) 天候 くもり 時々 雪 気温-12℃

 

あけましておめでとうございます。

 

今年もよろしくおねがいします。

 

という事で、今日から新たな一年が始まった。

 

昨日のカウントダウンの疲れが残る中、今日の朝ごはんはいつもより

ノンビリと午前8時30分から始まった。

 

夕食に限らず朝ごはんもいつも美味しいが、今日はお正月という事でおせち料理。

 

 

黒豆や栗きんとんや、もちろんお雑煮もある。

 

ここで正月を迎えるのは、今年で何年目になるだろう。

 

美味しいおせち料理をノンビリと食べ、少し休憩したあと

これまたノンビリと着替えをして宿の前に集合。

 

今日帰ってしまうMちゃんとヨッシーを、Yちゃんと一緒に

バスターミナルまで見送って、ノンビリとした一日が始まった。

 

と、この時は思っていた。

 

とりあえずセンターフォーに乗って上まで登るが、天気も視界も最悪。

 

そして上部のリフトが止まっていたので、昨日に引き続きスクール開校。

 

 

昨日詳しく説明できなかったスノーボードの構造と

スノーボードは「なぜ曲がるのか」 「なぜ止まるのか」 という原理を説明し

その事を頭の中に置いて滑る事が、上達の秘訣だと説明した。

 

いろいろな専門用語に、Yちゃんは少しパニックになっていたが

とりあえずは体で覚えるように滑り込んだ。

 

そして、なかなかイイ感じに上達していった。

 

何本か滑ったらお昼になったのでI君と約束している「ヒュッテ キングベル」に行って合流。

 

でもスゴク混んでいたので、今日も 「望羊荘」 へ。

 

いつもより少し混んでいたが余裕で座れる。

 

今日は 「カツ丼(トン汁付き)」 を注文。 

 

これまたスゴク美味しかった。

 

 

しばらくノンビリ休憩した後、外へ出たがまだ天気が悪かったので

パウダーを求め、ゴンドラとリフトを乗り継いで花園コースに向かった。

 

花園コースの方が視界が良かったものの、期待したパウダーはあまりなく

一本だけ滑って戻る事にした。

 

花園第2リフトを降りて左に曲がり、少し登ってホリデーコースに出る所を

ショートカットした所にある、TTさんに教えてもらったパウダーゾーンに行った。

 

少し荒れていたが、なかなかイイ感じのパウダーを満喫してホリデーコースに合流。

 

少し平らな所で休憩して、何気なく後ろを振り返るとスキーヤーの親子がいた。

 

お母さんが小さな子供を足の間に挟み滑っていたが、なんとなくヤバそうな雰囲気。

 

しばらく見ていると、とうとう板を外して、お母さんは小さな子供の手をとって歩き出した。

 

ここのコースは一応初心者コースの林道だが、全長が約3kmもあり

ここから歩いてゲレンデに行くには1時間近く掛かる。

 

ましてや小さな子供を連れて、板を2本担いでスキーのブーツを履いている状態なら

2時間以上掛かるかもしれない。

 

しかも時間は夕方の4時をまわっていて薄暗く、後ろから来る人もなく

照明もないので、ここから歩くなんて考えられない。

 

「大丈夫ですか?」

 

「救助を呼ぼうと思っています・・・。」

 

離れている所から声をかけたら、お母さんは少しパニック状態になっていた。

 

とりあえず傍まで行って状況を確認した。

 

「お母さんは普通に滑れますか?」

 

「大丈夫だと思います・・・。」

 

「じゃあ、お子さんの方は僕がなんとかします。」

 

そう言って子供の板をI君に持ってもらい

ストックはYちゃんに持ってもらい、子供をどうするか考えた。

 

スキーなら普通に抱えてもバランスを取れるが

ボードは両足が固定されているので、上手くバランスが取りにくい。

 

おんぶするのが一番楽だが、子供がまだ小さくて背中にしがみつく事が出来ない。

 

「背中とリュックの間に挟んでおんぶすれば?」

 

ってYちゃんは簡単に言うが、そんなん絶対無理やし。

 

結局はダッコして滑る事にした。

 

「すみません。この子もう4才で20kg以上はあると思います。大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫です。なんとかします。」

 

『重っ!!20kgって、30kgはあるやん!!』

 

力強い返事をしたが、いざダッコしてみると思っていたよりかなり重い・・・。

 

ウェアーが膨らんでいるように見えた体型は、普通に太っているだけで

体型も体重もほとんど 「朝青龍」 やん!

 

心の中でそんな突っ込みを入れながら、とりあえずは赤ちゃんダッコと

お姫様ダッコを試してみたら赤ちゃんダッコの方が安定していたので

その体勢で滑る事にした。

 

子供をダッコして起き上がり、コースの下を見つめいよいよスタート!

 

SBXのスタート時の様に、緊張感が体を襲う。

 

そして、頭の中は 「スーパーマン」 のテーマ曲が流れている!

 

そんな自分自身に少し酔いしれながら慎重に滑り出した。

 

もし子供を落としてしまうと怪我をさせてしまう。

 

最初はスライドターンで様子を見ながら滑った。

 

しかしここのコースは最後の方で軽く登りになり、やがてフラットになる。

 

普通に滑る時でも止まりそうになるので、いつも最後の方はフル直カリで攻める。

 

だからこのままスライドターンで行くと必ず止まり、残り300m位を小さな子供を

ダッコしたままスケーティングするか、板を外して歩かなければならない。

 

そんなんメッチャしんどいやん!

 

って事で途中からショートターンで滑った。 

 

しかも加速するショートターンで。

 

「大丈夫か?」

 

滑りが安定した頃に子供に声をかけた。

 

「・・・・」

 

「速いやろー!」

 

「・・・・」

 

「もうスグ着くからな」

 

「・・・・」

 

子供が不安がらないように気づかって、何度も声を掛けたが全部無視された。

 

『おい! 返事くらいしろよ朝青龍!』

 

って言いたかったが、大人げないのでやめた。

 

こちらにしがみついてくれれば少しは楽なのだが

両手をダラーンと伸ばし、ヨソを向いたまま目を合わそうともしない。

 

そんなやる気の無い子供をダッコしながら

前を滑る人達を縫うように次々と追い越して、順調にゲレンデに向かった。

 

知らない人が見たら、仲のいい親子に見えるかも知れない。

 

そして少し登る前にフル直カリをして、なんとか無事にフラットな所を通過し

ゲレンデに出る手前で一度止まってみんなを待った。

 

本当は子供を降ろしたかったが、不安がるといけないのでダッコしまま話しかけた

 

「もう大丈夫やからな」

 

「・・・・」

 

「もうすぐお母さん来るからな」

 

「・・・・」

 

また無視された・・・。

 

「メッチャ楽チンです~!」

 

しばらくしたら、Yちゃんがスゴク楽しそうに追いついてきた。

 

何度滑っても止まっていたフラットな所が

ストックがあるお陰で、初めて止まらずに滑れた事をスゴク喜んでいた。

 

こっちは子供をダッコして、必死に滑って来たと言うのに・・・。

 

そしてI君も追いつき、しばらくして最後にお母さんが

息を切らしながら必死に滑ってきた。

 

「ハァ~、ハァ~、ハァ~、すみませんでした。」

 

「ここからゲレンデに入りますが、まだ急なところが続くので

   このままゴンドラ乗り場の駐車場まで行きます。」

 

「ありがとうございます。」

 

プルルル~、プルルル~、プルルル~、

 

ちょうどその時お母さんの携帯電話が鳴った。

 

「あなた! どこなのよ! 今ね、親切な人が助けてくれたのよーっ!!」

 

どうやら旦那からの電話みたいだ。

 

「本当にすみません。旦那がね、初心者コースだから大丈夫だろうって

   私達をほったらかしにして小学2年の娘と一緒にどこかに行っちゃたんですよ!」

 

「この子はまだスキー3回目だし、私は10年振りなのにヒドイでしょ!」

 

「本当に、旦那がね・・・、旦那がね・・・、旦那がね・・・、」

 

って、ずっと旦那のせいにしていた。

 

その前に、スキー3回目の4才の子供を、ゴンドラに乗せて上まで連れて行ったらアカンやん。

 

「ここのスキー場は他のスキー場とは違って広くて急な所も多いので

   お子さんは一番下のファミリーゲレンデで滑った方がいいですよ。」

 

「そうですよね。すみません・・・。」

 

「どこから来られたんですか?」

 

「倶知安(くっちゃん)です。」

 

って、思いっきし地元やん!!

 

ちなみに倶知安は、ニセコスキー場から車で10分程の街だ。

 

地元民だと聞いて腰が砕けそうになったが

もう一息がんばって、子供をダッコしたままゲレンデを滑って降りた。

 

しかし途中で横を見るとこっちの苦労も上の空で

Yちゃんがストックを持って楽しそうに滑っていた。

 

おい! コラーッ!!

 

そして最後のゲレンデも含め全長約4kmをなんとか滑り切り

無事にゴンドラ乗り場の駐車場まで辿り着く事ができた。

 

「本当にありがとうございました。」

 

「何か御礼をさせて下さい。」

 

「いやいやそんなん全然いいですよ。」

 

冗談で 「じゃあ3万円」 って言おうと思ったが

パニック状態のお母さん、に冗談は通じないと思ったのでやめた。

 

「じゃあ、せめてお名前だけでも」

 

「いやいや本当に全然いいですよ、気にしないでください。」

 

そう言って、少しカッコをつけながらゴンドラ乗り場に向かった。

 

そんな僕に向かってお母さんは

 

「本当にありがとうございました! 神様に見えますーっ!」

 

って、両手を顔の前で合わせて拝むように叫んだ。

 

『うわ~、俺って神様なんや、スゲ~!』

 

そしてふと振り返ると、助けた子供はこちらを振り返る事もなく

何事も無かったかの様に、駐車場の方に向かってサッサと歩いて行った。

 

コラ~ッ! 待たんかい~! 朝青龍~!!

 

結局、子供とは言葉をかわすどころか、一度も目を合わす事すらなかった。

 

やり甲斐ないわ・・・。

 

もちろん、この後ゴンドラに乗って宿に帰るまで

 

「俺は神様やからなっ!」

 

「神様の言う事は何でも聞かなあかんで!」

 

「神様に逆らったらバチ当たるで!」

 

って、ずっとI君とYちゃんに勝ち誇っていたのは言うまでもない。

 

しかも 

 

「神様話は飲み会の時に自分で言うから、それまで誰にも言うたらあかんで!」

 

とI君とYちゃんに口止めをした。

 

そして、宿に戻り夕食の時間になってご飯を食べていると

 

「何かスゴク話したい事があるみたいだね」

 

ってMさんに言われた。

 

もうバラしてるやんけYちゃん!

 

「いやいや、それは飲み会までお楽しみにって事で」

 

ちょっと値打ちをつけて言った。

 

美味しい夕食を食べたあと、今日は温泉号が出ないので

宿のお風呂に入り、しばらくして飲み会が始まった。

 

そして今日の「去年に続く人命救助第2弾! 神様、朝青龍を救う!」 を

身振り手振りで一生懸命みんなに話した。

 

去年の 「人命救助第1弾! 猛吹雪の中 『た~か~ふ~み~!! 

必死に彼氏の名前を叫ぶ、パニック状態の女の子を救出!』よりインパクトは少なかったが

そこそこみんなにウケて、S先生とM先生に 「面白かったよ」 って言われて嬉しかった。

 

新年早々人命救助をして、とても縁起のいい正月を迎える事が出来て本当に良かった。

 

そして2年連続の人命救助により遂に 「神様」 の称号まで頂く事ができた。

 

「なんやかんやゆうて、お母さんも朝青龍でしたよね~」

 

それはゆうたらあかんやろ。

 

せっかく今日の飲み会の主役やったのに

Yちゃんの爆弾発言に、オイシイ所を全部持っていかれた。

 

午前0時40分、庶民を救った神様は静かに眠りについた・・・。

 

つづくの?