赤ちゃんにマジック見せようと思うマジシャンはいないでしょう。マジックは知的な遊びですから、赤ちゃんにマジックがわかろうはずがありません。それでもあえて、赤ちゃんに見せるのは、半分は私がマジックをやりたかったがため、そしてマジックとしてではなくその動きから赤ちゃんは何かを感じ取るのではないかという思いがあったからでした。

 

私は養護学校の教師をしていましたから、児童の発達について興味がありました。8か月にもなると、人は周囲の環境を識別すること、自分、他人の区別ができること、音に対する反応が早く発達すること、赤などの明るい色と大きな動きによく反応することなど、私自身、経験的に知っていました(私の経験からですから、学問的には間違っているかもしれません、また時代的な変化もあるかもしれません)

 

だから、赤ちゃんにマジックを見せるときは、赤いハンカチと大きな動作、赤ちゃんが好む曲を用意すれば十分成り立つと思ってずっとやってきました。お母さんに抱っこされている赤ちゃんに、時には正対して、あかちゃんの目の高さでマジックをすることもあります。

 

あまり近づきすぎると、赤ちゃんは何を見ていいかわからなくなります。ぼんやりと誰かおじさんが何かやってるなあと感じますが、それが手品などと分かりません。じっと私の顔を不思議そうに見ていることがあります。ああ、これもまた手品、お母さんの腕の中で、母と子の心の通い合いができていればいいとも思っています。

 

みどり児に手品見せればまじまじとわが顔を見る手品を見ずに   神田民司

7月7日中日新聞、小島ゆかりさん選