葉室麟「天翔ける」(角川書店、2017)を読んだ。
「小説野生時代」2017年3月号から11月号に掲載された。
葉室は、この年12月23日亡くなった。本書の奥付には「12月26日初版発行」
とあるから著者は本書を見ないで逝った。
幕末福井藩主だった松平春嶽(写真)の目を通した維新史です。
巻末に吉川弘文館の人物叢書などがあげられています。
これまでも啓蒙的なものや歴史小説、大河ドラマなどを通じて維新史に触れてきましたが
春嶽の目を介してみて「なるほど」と理解できる箇所も多いです。
タイトルにある「天を翔けた人」とは?
最後のページp288を読むと
それは、西郷のようですが、春嶽その人もそうであったのではないか?
という雰囲気も遺ります。若く散った橋本左内も本書のキーパーソンです。
横井小楠、坂本龍馬、島津斉彬、由利公正、中根靭負などが主な登場人物です。
著者はわりと好悪がはっきりしていて、徳川慶喜、島津久光などを醒めた目で見ている。
P67 日本人は威力の前には恭順だ(ペリー提督)
P73 策は行ってこそ意味がある(斉彬)
P130 権力を得たものは愚かになるのでございます(中根靭負)
P158 役人たちは動かない知恵にはたけている
などに著者の人間観をみます。