古里物語第四部3−1 | ryobeのブログ

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坂下犬(サカシタイン)

黒紋付き、羽織袴の谷大人はほろ酔い気嫌、痩躯鶴の如き姿、鶴の舞うように吾家の玄関に降り立つのでした。
正月元旦の夜、招き入れる慇懃な父の態度、「お前に惚れちょるから来るのよ、ワッハハハ」、第一声は毎年この云葉。

「息子も座敷に上げてくれ」。

大人は指す玄関の外。

これは、これは、と恐縮して扉を開けると端然と控えているのは褐色の大型犬母は花茣蓙を座敷に敷いて犬を迎へる。

犬は谷大人の横に端座して不動。

狼のような犬である。夜空に吠える声は子供心に恐ろしいもので、坂下犬と云って怖れらたものでした。母はカマボコその他正月用の御馳走を大皿に盛り犬の前に差し出しました。

犬は見向きもしません、多分匂いで解るのでしょう。

「上等の肉と刺身をやってくれ」。

これは、これは、と再び恐縮した母は鰤(ブリ)の刺身を大皿に盛り、牛肉も大皿に盛り上げて持って来ました。

犬は大喰いと聞いているので、王したのです。

ペロリと食べてしまった犬は再び端然と不動の姿勢。