夜店が並び、焼スルメの匂い、綿飴屋があり竹に鳥の羽根のついた風船。
ボーワーボーワーと風船はふくらむ。
お社の中では小父さん達が酒宴の真盛り、ポンポンと手を拍手、拝んで立去ろうとすると「オイオイ」と谷さんの小父さんに呼び止められる。
小母さんが「お一つこれを」と黄粉をまぶした団子を紙にとって下さいました。
毎年貰う団子でした。
上等の黒糖と黄粉をまぶした麦の団子、なんともひなびたおいしいものでした。
同じ材料で自分の家で作ってもこのおいしさには及ばなないのは何とも不思議でした。
姉達も首をかしげて「どうしてだろう」と。
谷夫人は小柄で気品あり、今では使う人の少ない純サツマ云葉を身につけた方でした。
お団子作りもお上手なのであろう。
途中でお会いするとポコンとお辞儀をする私に笑顔でで深深と頭を下げられ、私は三度もポコンポコンと。
痩躯鶴如き小父様にお宅では一切座った姿で使へて居られるという。
吾家の正月に毎年只一人のお客人、それはこの小父様でした。
明治の頃村でも幾人と数へる程しかいなかった、大学出の秀才であったと聞く。
立身出世の世に、東京の大学を出て、さっさっと故郷にかヘリ悠悠自適の生活に入った方である。
神道と仏教を行じる方である云う。
小父様云はく「女は小柄に限るよ、ワッハハハ」。
子供の頃お酒を座敷に運んでいて耳にとめた父との対話である。
又云はく「お前に惚れちょるから来るのよワッハハハ」、男が男に惚れる、深い友情のことであろう。
私は六月灯の夜生れたと云う。
権現様は仏、菩薩の化身であるとか、東京に出た私は度度危機をのがれたことを思い出す。
この度私は権現様のことを思った。
権現様は助けの神に思はれたのです。
あれから幾十年、私は今この権現様の前、柏手をして深深と頭を下げました。