父が入所してから、母は、自分の居場所がわからなくなった。居場所を探すために、朝早く起きて、自分の部屋の中を荒らしていた。


段々、時間の感覚がなくなって、日付の感覚がなくなって、季節の感覚がなくなっていった。


その中で、デイサービスを仕事と思っているので、仕事には行かなくてはいけないと言う思いは、強く、デイサービスへいく日付は、必死で覚えようとした。

それが、朝早く配達される新聞だった。

いつもの様に、新聞配達の人が、新聞をポストに入れてくれて、母は、その新聞を午前4時頃取りに行った。


その後、なぜか、新聞配達の人を追いかけようと思ったみたいで、出て行ってしまった。


私は、全然、母が外に出ていることを知らず、寝ていたら、午前5時頃、家から1キロ程離れたコンビニ店から電話がかかった。

慌てて、出たら、コンビニの店員の方「お母様だと思うのですが、ここにきてまして、電話番号を話されてたので、一応、電話しました。」と。私は、全然状況が読み取れず、母が部屋にいるかどうか確認するまで電話を切らずに待ってもらった。母は、家の中、どこにもいなかった。コンビニ店員の方に、私「うちの母です。すぐ、迎えに行きます。」と電話を切った。


コンビニ店に行くと、いつものデイサービス用のシャツに上にセーターを着て、ズボンを履いた母がイートコーナーの椅子に座っていた。何も持たず、私をみると、手を振った。

私は、呑気そうな母をみて、苛立ちとあきれと、無事でよかったと思う気持ちでこんがらがっていた。


コンビニ店員「警察に連絡しようと思ったのですが、お母様が、電話番号をおっしゃったので、そこにかけてみて、ダメなら警察にと思ってました。お母様、子供が、ベルを鳴らしたので、出たら、どこかに行ったから、追いかけた。と話してました。」

私「連絡してくださり、本当にありがとうございました。こんなこと初めてで、どう話していいのかわからなくて、ごめんなさい🙇‍♀️今後、気をつけます。」平謝りに、ただただショックでたまらなかった。

店員「どうか、お母様を怒らないであげてください。」と、反対に頭を下げてくれた。

私は、その言葉で、私の悲壮な態度や表情が、あらわに出ているのだなと思った。


私は、何か言葉にすると、母を怒鳴ってしまいそうなので、何も言わず、車に母を乗せて、家に帰った。

家に着くと、主人が、待っていてくれて、優しく、母に「こんな寒いのに、どこ行ってたん?」と声かけて、お茶を出してくれた。

母は、嬉しそうに「女の子が来て、出たらおれへんから、探してたんよ。」と、かじかんだ手でコップを持ち、お茶を飲んだ。

私「こんな時間に女の子なんて、くる?何を考えるのよ?情けないわ。」と涙が出て、怒鳴ってしまった。

主人「もう、そのぐらいにしとけ。お母さん、ちゃんとわかってるねん。もうやめろ。」と私を諭した。

私は、その場から、出て、洗濯物を洗濯機に入れ、洗濯機が、ぐるぐる回るのを呆然と見ていた。そして、泣いた。


その日は、私は仕事があり、母もデイサービスだったので、何もなかった様に、母にお茶漬けを食べさせ、デイサービスの準備を玄関先に置いた。

そして、私は、仕事に行った。