犬の「噛む」は「吠える」と同様、困っている方がたくさんいらっしゃいます。
しかし、「吠える」に比べて「噛む」は、飼い主自身が噛みつかれて直接ケガをする、痛い思いをすることからも、直したくても直せない問題行動でもあります。
まずは飼い犬の噛みがひどくて、私のところにきた飼い主さんのお話からご紹介します。
◯違う犬みたいになっていました
「ものすごい噛み犬だったんです。」
実際どのくらい噛む犬だったかというと…
「抱っこができない。撫でることもできない。おしりも、しっぽすら触れないんです。」
一緒に生活する飼い主さんでもこのような状態。
「もう、この子がいつ噛むのか、いつ怒るのかが不安で。最初の頃と、噛むようになってからと、目つきも変わってしまった。」
この子の噛みがひどかったため、癒やしと心の隙間をうめるためにもう1匹飼うことにしたとのことで、現在2匹。
噛みぐせのある最初の子は2か月、あとから来た若い子のほうは2週間、私のところで預かってトレーニングをしました。
「2ヶ月たって、違う犬みたいになっていました。顔を触っても怒らないんです。最近はお腹を見せてくれるようになりました。本当におだやかで。」
さらに飼い主さん自身にも変化がありました。
「犬の嫌がることを自分がわかってきたように思います。後ろからいきなり近づいてガバっと抱っこするとか。犬って後ろを嫌がりますよね。」
そうなんです。
人間側が犬のことを理解しないまま接することで、問題行動が悪化することがあります。
そして、犬はダメなことを教えれば(しつけが遅ければ遅いほど時間はかかりますが)理解します。
本当は、犬自体が悪いわけではないんです。
◯「普通」ができなくなる
問題行動、特に噛みグセが悪化した犬が預けられた時は、最初は「普通のこと」ができません。
トイレ。
餌の片付け。
散歩。
何をしても、どうやっても、近くに存在するものに牙を剥きます。
それでも、普通のことをひたすらやるしかありません。普通のことを「怒らなくても問題ないんだよ」と教えていくことから始めます。
もっとひどいケースは、ケージの扉すら開けられません。ほんの少しの隙間でも躊躇なくガブリと噛みついてきます。そうなると猛獣がケージの中にいるようなもの。私自身も噛みつかれることもあります。
早いうちに直さないと、どんどんこうなっていきます。
訓練をやろうとしない人、軽視する人ほど、「自分には噛まないから大丈夫。」「身内にはここまでしないから大丈夫」と言います。
しかし、散歩中に他の人に噛み付こうとした、噛みがひどくてペットホテルを断られたなど、周りの人に危害や悪影響を与えるほど悪化し、手がつけられなくなって困ってから私のところに来る方がいるのが現状です。
◯その状況は自らが生み出している
「噛み」は放置すると、どんどん悪化します。
犬は教えられなければ、「噛むことは悪いこと」と知らないのです。
「突発的に噛む」ではなく「待つこと」も知らないのです。
知らないのですから、当然噛みぐせは良くなりません。
では、犬に必要なことを教えるのは誰か。
飼い主です。
「ダメなこと」は怒る。
「良い・悪い」を教える。
これが本当に必要なんです。
噛むのは、この子が悪いわけではない。
自分の飼い方が、犬に「噛む」を当たり前にしている。
自分の飼い方が犬にそうさせている。
そこをしっかりと受け止めて、飼い主自身が変わっていくことが、不幸な犬を減らす最初の一歩なのではないでしょうか。