『大仁田厚 5』から続き。

1994.12.1 広島・広島グリーンアリーナ 観衆7,880人
ノーロープ有刺鉄線電流爆破バリケードマット・ストリートファイトダブルヘルデスマッチ
グレート・ニタ/ホー・チー・ウィン VS ミスター・ポーゴ/大矢剛功

グレート・ニタ=大仁田。顔にペイント、リングコスチュームもいつもと違う、別キャラクター。
武藤敬司のグレートムタをまるっきりパクッたようなアイディアに当時は引いたけど、…プロレス雑誌で見た。たまたま見たのかな? 雑誌は見続けてたのかな?
あ、ちなみに当時、俺は大仁田の爆破マッチを、たしか映像では1回も観てない。プロレス誌のグラビアで見てただけ。Fはテレビ放送してなかったし。爆破マッチのビデオを買ったこともなかったし。
で ニタの話に戻って、見てみると意外に悪くないっつーかね、「ホ~~~!」とか奇声を発しながらリング内をユラユラ走ったりね、いい感じよ(笑)。
ホー・チー・ウィンは=後藤。入場時の衣装からするとベトナム人をベースにしたキャラみたいだけど、スパン!と後藤らしからぬ?小気味のいいトラースキックを決めたりして、ベトナム人なのになぜか空手使いといういい加減なキャラ設定もナイスかな(笑)。「オリエンタル」はミステリアスだからなんでも許される(笑)。
2人揃っていきなり毒霧攻撃(口から赤や緑色のミストを噴射)で試合開始(笑)。ポーゴの額に噛みつく大仁田。ヒール路線全開。
しかしポーゴも鎌を突き刺し、大矢は有刺鉄線バットを振る。
だがニタバージョンの大仁田は一味違うぜ。赤い毒霧噴いて脱出すると鎌を奪ってポーゴをザックザクに攻撃!
その後また攻守が入れ替わるのだが、大仁田をリンチしてるポーゴの後方で後藤が大矢を電流爆破、それにビックリするポーゴが意外な見所(笑)。
ダブルヘルの縁にいた後藤に駆け寄ってファイヤー攻撃を仕掛けるポーゴだが、駆け寄りながらやったから火がモロに自分にかかっている(苦笑)。でもよけて後ろに逃げた後藤は場外に落ちて爆発!
火をつけ燃え盛る有刺鉄線バット(!)でニタを殴打するポーゴ。
しかし2打目を振りかぶったところで後藤に突っ込まれて場外転落、爆発!
ファイヤーバットで殴打された大矢が有刺鉄線に触れて爆破!
レフェリーがリングに引火した火を足で踏み消している。



1994.12.20 愛知・愛知県体育館 観衆11,085人
ランバージャックデスマッチ
グレート・ニタ VS ミスター・ポーゴ

ランバージャックデスマッチってなんだっけ?
「リングの四方を対戦者以外のレスラー(観客などレスラー以外の場合もある)が取り囲み、選手がリングから落ちた際、すぐさまリング内に押し戻す形式。転落した位置に対立関係にある選手がいた場合、転落した選手に暴行を加えることもある。」(Wikiより)
「ホ~~~」と奇声を発しながらユラユラとリング内を駆けてノーハンド頭突き。「ハッハッハッハッハッ」 手をヒラヒラさせて毒蛾のように舞い 無意味にリング内を駆け巡って頭突き。ニタバージョンの大仁田の挙動不審っぷりに観客も大喜びだ。俺も観てて楽しい(笑)。
ダイジェスト収録なんでどういう展開だったのかわからないのだが、いつの間にかポーゴが額から大流血しながらニタを鎌で攻撃している。だがニタは大量の赤い毒霧をポーゴの顔面に噴射! 「うわぁっ!」と思わずのけぞるポーゴ。
ポーゴ陣営が持ち込んだらしきテーブルの切れっ端を手にするニタ。…の背後に忍び寄る鎌を持ったポーゴ。
しかしクルッとターンし、下から回転するように切れっ端を持ち上げる先行き不透明なニタの動きにポーゴのリアクションもフリーズする。
ニタはポーゴの鎌フルスイングを切れっ端でキャッチすると、切れっ端でポーゴの頭をフルスイング、切れっ端が木っ端微塵に砕け散る!
また場面が飛ぶと、ポーゴがニタの背中にファイヤー攻撃! さらに燃えてる有刺鉄線バットで殴打!
しかし2打目はニタが緑の毒霧を炸裂させ阻止。そしてニタは燃え盛る有刺鉄線バットの上にポーゴをフェイスクラッシャーで叩きつける!
フォールに入る。レフェリーのカウント、観客も「ワン! ツー!」と一緒にカウントしている、しかしスリーの前にニタはポーゴを引きずり起こす! 観客から驚愕の声と歓声が上がる。
ニタがファイヤーバットの上で再びフェイスクラッシャー! そしてまたもやスリーカウント入る寸前に引きずり起こす!
大仁田の時ではまず見れないアグレッシブにパワフルにダーティなアクション連打!
3度目のファイヤーバット上のフェイスクラッシャーでフォール勝ち!
ムタのパチモンのニタだが、意外に結構観ててスカッとする。そしてデスマッチであるが故 本家にはないエキサイトメントがある。
…あと『ドランクモンキー酔拳』の時に言ったことも思いだすな。得意技や生き方は1つじゃダメだみたいな話。それの延長線上で、自分のスタイルってものも複数あった方がいい。
武藤で勝てなくてもムタなら勝てる、大仁田で苦戦してもニタならバキバキにやってくれる。
いつもの自分で通用しなくても、違うスタイルでいけば、状況を覆し得る。
または己の解放。ルールの中で葛藤したり悩んだりもがいたりして生きてる自分の枷を取り払ってセーブなし、全面解放した時、事態はまったく違った様相を呈する。己を解き放つ。状況を打開する。
他の格闘技やスポーツ選手、ひいては一般人もみんな、自分のキャラは1つしかない。だから生きてて行き詰るし、息詰まる。
別の路線の自分を意図的に持ち得る事。二重人格とか二枚舌ということとは全ッ然違う話だよ。得意技や必殺技が1つでなければ簡単に打ち止めにはならないように、自分のスタイルも複数あることによって、自分の可能性が広がるというかさ。



1995.5.5 神奈川・川崎球場 観衆58,250人
[大仁田厚引退試合]
ノーロープ有刺鉄線金網電流爆破時限爆弾デスマッチ
大仁田厚 VS ハヤブサ

大仁田の2度目の引退試合である。
そこでポーゴとかでなく、いきなり名前の出てくるハヤブサというのは何者かというと、Fの若い奴の中で最注目だった男。覆面レスラー。空中戦の使い手。
当時新日本のジュニアヘビー級のトップだったライガーが団体を越境したジュニアのトーナメントだったかリーグ戦を開催し、Fから出ていったのがハヤブサ。
中央ではほとんど知られてなかったと思うが、初戦で試合開始前だったか開始直後だったかに入場衣装着たまんま放ったトペコンヒーロ(だっけ?)がインパクト絶大、観客がどよめき、コレ一発で“コイツはスゴイ!”と認識させた。(と記憶している。)
ハヤブサは大仁田の後継としては明らかにベクトルが違うんだけど、集客とかF存続を考えると、ハヤブサをエースに据えるのが妥当だったのもまた事実。
となるとその通過儀礼として爆破マッチを乗り越えるのもまた妥当であり、大仁田の引退試合の相手がハヤブサ&それが爆破マッチであることは必然性があったといえる。
この試合の爆破はなかなか凄い。爆煙の量が多くないか? さらに火花だけでなく炎も上がる。あと爆破の後に、さらになんか破壊音のような音がしてる。
大仁田がかなり強烈な逆エビ系の技を延々かけている。ハヤブサの体の反りっぷり。なぜにここまで。しかしハヤブサは耐え凌ぐ。
時限爆弾爆発まで30秒を切ったところで大仁田のDDOが決まるが、ハヤブサはフォールを返す。
残り15秒というアナウンスをバックに攻勢に出るハヤブサだが、残り1秒で大仁田に突っ込んでいってかわされ電流爆破! 次の瞬間時限爆弾が起爆!
爆煙が凄い!
煙が晴れてくると、レフェリーに覆い被さって身を挺していた大仁田が見えてくる。その近くにハヤブサが倒れている。
リング上が真っ白。大仁田とハヤブサも真っ白だ。リング上は爆煙の白と、散らばっている爆弾の黒い破片。
試合はまだ続行している。時間無制限1本勝負だからだ。
互いに相手を投げ技でマットに叩きつけると、そしてレフェリーがカウントとってマットを叩くと、白い噴煙が上がる。
爆撃でもあったかのような様相を呈しているリング上。
そしてハヤブサがすごいことをやってのける。
金網によじ登り、3mぐらい?の金網のてっぺんからムーンサルトプレス(バク転してダイブ)を敢行するのだ!
かわされて自爆するのだけど、やったこと自体に意味がある。これをカマしたことで、ハヤブサはデスマッチのリングに存在感が霞まなかった。
最終的には大仁田が勝つ。



かつて寂しくリングを引退した男が5万円で再出発して、5万8千人以上の中で改めて引退試合を迎えた。5万8千人だぜ? すごい動員数だよ。
初代タイガーに霞んだ男が、初代タイガーの対極のスタイルで輝いた。(逆に昔あれほど日本中を熱狂させた初代タイガー=佐山聡のその後の人生は、結構地味である。)
初代タイガーが世間を席巻していた頃、大仁田が後にこんなドラマティックな第二章を見せるなど想像した人は、まったくいなかったろう。
でも大仁田は再生した。輝いた。ズタズタになって。傷の縫合はトータル1000針を超えた(!)。
大仁田はまぁぶっちゃけルックスはよくないし、腹もぼてっと出てて体のスタイルもカッコ悪い。喋りもうまくない。
でもデスマッチで戦う大仁田はカッコいい。
本当のカッコよさはビジュアルではなく行為だ。
誰でも、何かをやれる可能性は持っている。でもやらない・やれない人間が大半だ。
例えばテストで成績良かったとかお仕事で目標クリアしたとか…なんでもいいんだけどさ、そんなものは人生において何かをやったとは言わないんだよ。俺の(アタシの)何か、ではないからだ。オマエの代わりはいくらでもいるっていうね、そんなことは自分で自分の何かを成し得たとは言わない。
あるいは売れる売れないとか、ナンバー1だナンバー2だ…そんなこともどうでもいいことなんだ。
大仁田は泥臭い。スマートでない。
でもオンリーワンになった。
ナンバーワンではなくオンリーワン。これ最強。
ナンバーワンに価値を見出すなら、ナンバーワンになって、ナンバーワンであり続けなければならない。そんなことは誰にも不可能であってね。だから1番を目指すのは不毛なんだ。
でもオンリーワンなら揺るがない。ヒエラルキーの中にいないから、他人と同じ土俵に立ってないんだよ。順列を気にする必要がまったくない。他人を気にすることはない。
1番幸せな人生は、自分らしく在り続けられることだろう。
ヒエラルキーの中にいると、他人を気にして、他人を基準にして、自分の魂はどこへいった!?
そんなのは俺の(アタシの)人生じゃない。
全日本で大仁田が終わってたなら、寂しいものだった。
再起してFを興しデスマッチをやり続けた大仁田はメジャー団体や一部マスコミから眉をひそめられたり否定されたりしながらも、己を貫き続けた。
その姿が収録されてるのがこのビデオだ。
大仁田(試合後、集まったファンに向かって)「俺は自分の好きなことをやるッ 一生は1回だッ てめェらも胸いっぱいやらんか!」

当ビデオは、大画面で、音声は重低音の効いたコンポにつないで、鑑賞するべき。
この点に関しては『ワイルドブリット』とか『Uボート』とかを鑑賞することと共通する。体感するっていうね。
爆炎と爆破音の中で胸いっぱい炸裂する人間の気概を体感しろ!