『大仁田厚 2』から続き。

1992.5.6 兵庫・ニチイ三田店駐車場特設リング 観衆5,011人
ノーロープ有刺鉄線トルネードタッグファイヤーデスマッチ
大仁田厚/ターザン後藤 VS ザ・シーク/サブゥー

ザ・シークというのは凶悪なヒール(悪役)レスラーで、かつて全日本のリングでベビーフェース(善玉)で大人気だったテリー・ファンクの腕にフォークをブッ刺した男である。
そして試合形式はロープの代わりに張った有刺鉄線に何か燃料を含ませたものを巻きつけ、点火して開始。
これが凄い! 猛火に囲まれた中で乱闘状態。風のせいなのか燃料の計算違いだったのか火力があまりにも凄すぎて&あまりに急速な酸欠状況に全員速攻リング外に脱出! サブゥーの表情と飛び出し方から、いかにマジで危険な状況だったかが見て取れる。
あとはもう場外乱闘。パイプイスでシークをブン殴る大仁田に対し、スプレーか何か?で火を噴射して応戦するシークのファイヤー攻撃。
たった4分でノーコンテスト(無効試合)。
アスファルトに這いつくばる大仁田に後藤らがバケツの水をかける。
こんなとんでもない試合をどっかの店の駐車場でやったってのがスゴイ(笑)。
どういう店かと調べたら、総合スーパーだそうで。
そんな日常的な店の駐車場が火焔渦巻く(マジで)死と隣り合わせの試合の舞台となった。
このギャップに意義がある。
この現代日本でバイオレンスを全面展開した大仁田の価値を既述したが、スーパーの駐車場でこんなことやったっていう場所と行為のコントラストに、クリーンな現代日本とバイオレンスというギャップがあまりに出過ぎてて賞賛に値する。



イメージ 1『大仁田厚・血と炎と涙 ~超歴史的デスマッチの全て Vol.2』
大仁田「この物質的に恵まれた時代において、何をやりたいか。俺はFMWにおいて、ただ1つだったんです。今日一生懸命生きることによって、明日を見たかったんです。」
大仁田がデスマッチに手を出した経緯は既述したが、それが別の意義・違う次元にまで到達してゆく。
いい物食っていい車乗って豪邸に住んだって空疎な人生だ。毎日お仕事してプライベートはぼさっとテレビ見てたりパチスロやってたりなんて日々は人生をドブに棄てている。
安定した生活。弛緩した意識。
いわゆる“良識者”ってやつからみればいたずらに危険な行為を繰り返してるようにしか見えないんだろうが、大仁田のデスマッチの日々は、死に突き進む行為のようでありながら 逆に自分が生きていることの確認足り得てゆく。(←これについては後述する)
そして、デスマッチによって客を集め続け自分とFの存続を、存在意義を継続してゆく。
Vol.1にこんな言葉がある。
大仁田「試合やって血だらけになって帰ろうとしたら、80ぐらいの腰の曲がったおばぁちゃんが「アンタ名前なんていうの? 私アンタのこと知らん。だけどアンタ一生懸命やってるね」って」
まぁ一生懸命生きるにしても方向性ってもんがあるだろうとも思うけど、例えば会社の営業成績に血道を上げるのとデスマッチとで、デスマッチの方がくだらないと言ったらこれはね、間違いなく見当違いなんだ。
学校の勉強や会社の仕事なんかに意義があるかっつったら、まぁある意味ではイエスで ある意味ではノーだ。迷うことなく問答無用でイエスというのは間違っている。
人が生きているという事が社会を運営・展開・存続させる為の歯車であるか、それとも個人の魂に則って個性とか生き様とかいったものを優先させるか、どちらを取るかによって物事の価値や意義はズレてくる、価値観が転倒してくる。
後者を優先させると、前者こそが相当くだらなく見える。



1992.6.30 岐阜・関が原鍾乳洞特設リング 観衆0(無観衆試合)
ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ
大仁田厚 VS タイガー・ジェット・シン

うわっキタコレ!
遂にあのタイガー・ジェット・シンと対決!(有名なヒールレスラーなんである。もはや伝説といってもいい。歴史上最もインパクトのあるインド人じゃない?(笑) サーベルで相手をメッタ打ちにし、新宿伊勢丹前でアントニオ猪木を襲撃! っつーかWikiのタイガー・ジェット・シンの項を読んでくれ)
しかもシンと電流爆破マッチ!
なんか観客数が何万人とかいうのとはまったく別の次元で、来るとこまで来たって感じがしなくもない。
最高のヒールと電流爆破のリングで戦うんだからなぁ…
(「最高のヒール」って何が最高かっつーと、レスラー シンの凶悪さもなんだけど、実は人間 シンは紳士である(らしい)という。狂ってるように見せて実は暴走を演じている悪役の「プロフェッショナル」であるという。そしてレスリングの実力もちゃんとあるという)
リビングレジェンドのシンを相手に大仁田は並び立てるのか!?
しかし雨が降りしきる中、大仁田は初っ端からシンにナックルを連打! テンション高い。ここに至る経緯とか前哨戦があったのかな?
大仁田の攻撃に一旦場外にエスケープしようとしたのかな? 凶器でも調達しようとしたんだろうか? 何を思ったかシンがいきなりリング外に出て 有刺鉄線に触れて起爆、自爆で転倒(苦笑)。
おっとサーベルを持って来たぞ。
リング内に戻るとサーベルで殴打、大仁田被爆、額から流血、シンのペースに転回。
何度目かの被爆でアップになった大仁田は本当に痛そうだ。
そうしてシンのコブラクローに沈んでしまう。
ドロドロの地面に這いつくばり、唸り、泥をかきむしり続ける大仁田…。



1992.9.19 神奈川・横浜スタジアム 観衆30,000人
ノーロープ有刺鉄線電流地雷爆破デスマッチ
大仁田厚 VS タイガー・ジェット・シン

しかァーし!
そんなものは予告編だったか、横浜スタジアムにステージを変え、観客はゼロから30,000人に一気に拡大、電流爆破に地雷まで投入して、シンとの再戦をド派手に開催!
試合開始前からサーベルで大仁田を急襲するシン。レフェリーが試合開始のゴングを要請。まだなんにも済んでないらしく、リングアナが説明してる中 すでに大仁田が最初の被爆、ドォォォォォン!というかつてない重量級の爆発音がスタジアムに鳴り響き、映像は上空のヘリからの空撮に切り替わる!
ダイナミック! これ結構興奮(笑)。
スタローンがダサいと思われるようなスカした時代(90年代とはそういう時代だった)になった中で炸裂する男のスペクタクル!
度重なるサーベル攻撃、さらに密かに持ち込んだ栓抜き殴打で、大仁田は額から流血。被爆でタンクトップもズタズタだ。
しかし奪った栓抜きでシンを殴打、シンも額から流血する。
セコンドのサブゥーがサーベルを投げ込むがシンが気づかず、タナボタで大仁田がシンをサーベル攻撃(笑)、シンが被爆!
大仁田がフォール勝ち。
試合後の控え室。大仁田の背中の深い裂傷がアップになる。
ザックリ入った裂傷。
プロレスがフェイクであろうがあるまいが、これは特殊メイクではない、まぎれもなく実際の裂傷であり、その点においてまぎれもなく本物なのだ。



1993.5.5 神奈川・川崎球場 観衆41,000人
ノーロープ有刺鉄線電流爆破超大型時限爆弾デスマッチ
大仁田厚 VS テリー・ファンク

おいおい今度はテリー・ファンクかよ!という…
全日本で大人気だった外人レスラーのテリーは、日本で盛大な引退試合を行った。
全日本で1度辞めた2人が4万人以上を集客したリング上で、また かつてとは全く異なるスタイルで相見える…
それも電流爆破マッチ、のみならず「超大型時限爆弾」ときた!
大仁田の方が圧倒的に被爆回数が多く、タンクトップの破れといい全身の裂傷といい、あまりにズタズタだ。
大仁田の頭突きでヨロけて有刺鉄線に接近し観客の悲鳴を誘うテリーの様はあまりにベタで もはや古典的な芸のようで笑える。リック・フレアーの「オー、ノー!」のレベルだよな(笑)。
と、試合開始から10分経過したところで、時限爆弾の起爆スイッチが入る。5分後に「超大型時限爆弾」が爆発する。5分以内にケリをつけて自分が先にリング外に脱出したい。
デンジャーなアラームが鳴り響く中、2人がラストスパートをかける。
試合は大仁田がフォール勝ち。
しかしドラマはここからだ。いわゆる純然たる格闘技なら勝ち負けが決したらそれで終わり。だがプロレスは勝ち負けだけが全てじゃない。
残り1分を切ってサイレンが鳴り響く中、テリーは大の字でダウンしている。大仁田は残り20秒でリングの外に出る。大仁田、無事脱出――
…しかし!
大仁田は残り14秒でリングを振り返る。そしてなんとテリーを救出すべくリング内に戻るのだ!
テリーを起こそうとする。起きないとみるや引きずって外へ引っ張り出そうとする。しかし3、2、1――
大仁田はテリーに覆い被さり、自分の身を犠牲にして彼を守ろうとする。そして爆発!
なんというドラマティックな展開!
これまでにも後藤との爆破マッチの後、後藤を気遣う場面があった。勝ちゃいいってわけじゃない。昆虫や動物なら自分が生き残りゃそれでいいが、人間はもはやそういう次元ではない。人間には心がある。思い遣りとか友情とか…がある。
そんな、後藤との間に垣間見られた光景が行き着いたドラマティックな到達点がこのテリーとの試合の結末だろう。
(ただ残念なのは、「超大型時限爆弾」がショボかったこと(苦笑)。この時観客がシーン…となるのは息を呑んだのではなく、あれ!?っていう俺とおんなじ感じだと思うんだけど…(苦笑) っつーか普通リング自体が吹っ飛ぶと思うよね? 実際はリングの外周に設置された特効が炸裂するんである。)

大仁田「テリーは…俺のやっぱり師匠ですよ。…あの人から技術面なんか なんも教わっちゃいない。たった1コだけ教わったのがスピニングトーホールドで、ンなもん1回も使ったことない。あの人からたった1つ教わったのは…ハートですよ、心ですよ。あの人に逢った時、初めて感じたのは、この人、一生懸命やってるなって。なんでこの人が、アメリカから来たこの人がなんでこんな日本人に好かれんだろうって…。テリーに言っといてください……(長い間(ま)の後)……ありがとうって。」