『大仁田厚 1』から続き。

1991.5.6 大阪・万博お祭り広場 観衆7,883人
有刺鉄線バリケードマット地雷爆破デスマッチ
大仁田厚 VS ミスター・ポーゴ

鎌を持ち込み大仁田をザクザク突いて流血させる怨敵ポーゴとの決着が爆破マッチで行なわれる。
リングそのものは通常だが、その外周には有刺鉄線を敷き詰めたボードと、地雷。
ロープ際の攻防で大仁田が場外に転落、瞬間 大爆発! 爆煙!
音もバン!ではなくボンッ!と重め。
直接爆発を受けたら腕や足の1本ぐらい失くしかねないような。たぶんボードの外側の方に地雷がセッティングされ、大仁田はリング寄りの方に落っこっているのだろう。
それでも、本物の地雷ではなくても1m以内であのくらいの爆発があると、日常生活ではまず体験し得ない、…世界で最も?安全な先進国の日本でのうのうと生きてる限りまず体験しないであろう衝撃と危険度だろう。
有刺鉄線の海の上でダウン状態の大仁田。リング上には爆弾の黒い欠片が飛び散っている。
おそらくポーゴのマネージャーのビクター・キニョネスからだろうか、リング内にパイプイスが投げ込まれる。ポーゴはリング内に生還した大仁田をイスで殴り、イスの上でパイルドライバー(←頭から落っことす技)。
そして再び大仁田を場外へ――
ドッドン! ドドドッドン!
連続爆発!
大仁田の頭から血が滴っている。文字通りボタボタ滴っている(!)。
右腕と左手からも流血。
圧倒的ポーゴ優勢で、おいおいこのまま試合終わっちまうよ…
だがリング内に戻った大仁田はノーハンド頭突きの連打で反撃!
ポーゴも頭部から流血。
そして遂に大仁田がポーゴを場外に落とす。
ボボボボボンッ! 連続爆発!
ポーゴが爆破と有刺鉄線の海に沈む!
場外に飛び出す大仁田。何をするのかと思いきやキニョネスをひっ掴んでバリケードの中に放り込む!
爆発! キニョネス爆葬!
大仁田キターッ! これまでの劣勢を補って余りある大暴れ!
大仁田の外見は最早血だらけで凄いことになっている。
リング上には、2人の血と、爆弾の欠片。
遂に爆破マッチは戦場のような様相を呈す。
頭突きと大技の連発から、大仁田が勝利する。
…地雷爆破デスマッチというさすがにやり過ぎではないかという試合の後、控え室に戻ってきた大仁田は、血を滴らせながら言う。
「世の中…世間一般に…プロレスが八百長だクソだって言われます…血を出してりゃ血糊だケチャップだ!
これは俺の血だ! 人間には血が流れてるんだ!」
目に涙を溜めながら
「それを哂うなら哂え!
…ただ、痛いものは痛いんだって明確に人々に伝えたいんです…ただそれだけなんです…腕が切れりゃ人間痛いだろうよ?」
現代日本で正気の沙汰とは思えない爆破マッチが、そうではなく、現代日本だからこそテーマ性を持ち得た。
安定期に入った日本はクリーンになり、オシャレになり、やがて価値観が歪んできた。
汗や血や涙はダサいものとみられるようになった。
また安全な生活・人生が定着し、死や暴力は忌避され、国内外問わずいろんな事件や事故があるが、メディアは血や死体を見せない。
文明の進歩・医学の進歩によって寿命が延び、便利とか洒落た生活を享受し、見たくないものは見ない、死については考えたくない、血や死を茶の間に見せるな、他所の国では戦争やってても自分らには関係ない、
(これは『パトレイバー2』とも共通する)
家があって常にガス・水道・電気が通ってて、着る服があって、食う物があって、オシャレして恋愛してテレビドラマ見て流行りの音楽聞いて、それが当たり前の現実だと?
そんなの当たり前の現実じゃねェよ。それを当たり前と思ってる奴の方がビョーキだ。カン違いも甚だしい。
文明に守られているけど、人間がこの地球上に生息する生物である以上、死とか戦いとかいった自然界の現実から、逃れられない。実際はいまだに真っ只中にいる。それが本物の現実。(これは『悪魔のいけにえ』の時に言った話と共通)
いつ死ぬかわからない。平和なんかない。人生は戦いだ。それが基本的な現実。
それから目を逸らすというなら、そんな奴はそもそも生きる資格はない。
それを知ってて、この平和を享受してるならまぁいいんだよ。でも知らないで享受しててこれが当たり前と思ってる馬鹿が多過ぎないか?
大仁田はそんな寝惚けた現代日本で、真逆のものをぶっカマした。血や肉といった生々しいものを、映画などのフィクションではなくリアルに、実際に興行として見せた。
それがソフト化もされ、今でもこうして観れる。
これは重要なことなんだ。
戦争には行きたくねェよ? でも生きてるって事は実は死と隣合せなんだという事、他所の国では恒常的に明日自分が死んでてもおかしくない状況だったりするという事、
そういった事は肝に銘じておく必要がある。
血や死がどんどん排除され人の意識から遠ざけられているという歪んだ現代先進国で、大仁田のデスマッチは我々が忘れた、あるいは忘れたフリをし続けているものを、まざまざと見せつけた。



1991.8.17 佐賀・鳥栖・JR九州鳥栖駅東隣接地 観衆48,221人
ノーロープ有刺鉄線電流爆破トーナメント決勝戦
大仁田厚 VS サンボ浅子

これよくわかんねーな。「電流爆破トーナメント」って何だ!? なんで電流爆破がトーナメント? 浅子は試合開始前からすでに泣いている。そんな形で相対したくなかったからか? たまたまトーナメント上がってこの場に来てしまったような。必然性のない電流爆破マッチという感じがする。(もうかなり古い話だからか、それとも俺がプロレス離れしてたのか、そこに至る経緯を憶えてない。)
にもかかわらず観客数がすごいな。ポーゴとの地雷爆破までは段々推移して上がってってるが、その3ヶ月後にいきなり約5万人ってのはなんなんだろう?
ただ、後藤との史上初の電流爆破はいろんな意味で危険な賭けだったが、あれを機に大仁田及びFの状況は打開された。あれで大仁田とFに注目し出した人間は間違いなく多いだろう。
そして次のポーゴとの地雷爆破がまた凄かった。これで完全に大仁田とFは“乗った”。
そうして約5万人。たった独りで5万円からスタートしてここまできたか…
大仁田が体現してきたものの1つに夢をみる・夢を叶えるというのがある。この試合後のマイクでも夢を懸ける云々と言っている。
当時大仁田がカリスマになり得たのは、エクストリームなファイトスタイルがウケたこともあるだろうが、シャレた軽薄な時代に逆行する壮絶な姿、傷だらけで這い上がる生き様が人の胸を打った、そういうことを感じられる人間がまだ残っていた、ということでもあるだろう。
しかし浅子との対決ではもの凄い試合になるはずもなく、ダイジェスト映像ですらあっさり感強い(あ、このビデオの試合映像は全部ダイジェスト収録)。



1991.9.23 神奈川・川崎球場 観衆33,221人
ノーロープ有刺鉄線金網電流爆破デスマッチ
大仁田厚 VS ターザン後藤

またもや軋轢そして清算マッチやったらしい。(これも経緯を憶えてない。)
金網デスマッチというのが昔からあって、リングを金網で囲ったケージ(檻)状況で完全決着つけるっていう。
今回は金網デスマッチで有刺鉄線張り巡らせて電流流して爆弾。
おぉ? 撮影にクレーンショットが導入されている。観客数も3万人越え。なんだかもうプロレス界の一部上場みたいな。
やはり後藤クラスとやると充実度が違う。初っ端の頭突き合戦、後藤のニークラッシャーから大仁田の足が金網に触れて最初の起爆、観客の驚愕と興奮の入り混じった「おーッ!」という声、テンションはすでにレッドゾーンだ。
爆発の後、爆弾の起爆コードか何かが燃えている光景が状況の凄まじさを物語る。
そして出た、四の字固めの攻防。四の字固めは転がって反転すると、かけた方が痛くなる。そのまま転がり続けると普通ならロープブレイクになるわけだが、電流爆破マッチでは、それは起爆を意味する。
だから四の字でリングの縁に接近してくと観客から悲鳴のような声が沸き上がる。
大仁田は両腕に裂傷を負い流血している。後藤の足の血は大仁田の血だろうか? 金網のリング・爆破・マットに散らばる爆弾の欠片・血に染まった男たち…凄惨な光景だが、悲壮感はカケラもない。2人のテンションが高いからだ。
後半大仁田が後藤をバカスカ被爆させ、大技攻勢でKO勝ち。
そして2人は病院に搬送される。
大仁田は救急隊員に自分より後藤を診てくれと言い、後藤の身を気遣う。