最近大仁田厚のビデオを手に入れる機会があって、観てみたら、俺の中で大仁田再評価の機運が高まったので大仁田を特集。
大仁田といえば電流爆破なわけだが、まぁ爆破にロマンを見出す漢(おとこ)でないと野蛮で残虐な行為以外の何物にも見えないだろう。
でもちょっと待て。
このビデオを観てると、単にそういった感じ方よりもっと上の見方を得られる。
大仁田の引退に際して出たビデオのようで、大仁田といえばデスマッチ、というわけでデスマッチ特集、合間に大仁田のインタビューを挟む構成となっている。

昔、日本のプロレスは新日本プロレスと全日本プロレスが米ソ2大国的な時代があった。
大仁田厚――全日本出身。NWAインターナショナルジュニアヘビー級チャンピオン。
しかし当時ジュニアヘビー級は、華やかなヒーロー性とものすごい運動能力を持つ新日本の初代タイガーにより社会現象とも言えた大ブーム(俺も初代タイガーをきっかけにプロレス観るようになったもん)。大仁田は影に霞んでいた。そして足の故障により引退。
その後 水商売か何かやってたらしいが、プロレスに戻ってくる。部屋借りて電話1本ひいただけ、5万円で新団体FMW(以下「F」)を旗揚げ。
通常ルールの試合、異種格闘技戦、デスマッチ、男だけでなく女子レスラーもいる。もうなんでもあり。
メジャーのファンからは下に見られ、色物とかキワモノと思われてたかな?
所属選手は大仁田と、全日本時代の大仁田の後輩の後藤、これまた老舗の全日本女子プロレスを辞めていた工藤めぐみ(←美人さん♪)あたりをトップに、あとは同様に1度辞めた選手や新人ばっかといってもいい。



イメージ 1『大仁田厚・血と炎と涙 ~超歴史的デスマッチの全て Vol.1』
デスマッチ。デス=死、マッチ=試合。通常のプロレスではない、危険なルールで行われる試合だ。
大仁田「最初にデスマッチを行なった時に、なんでデスマッチをやらなきゃいけなかったか? 食うためですよ。食わせるためです。僕らは1度引退した人間ばっかり、プロレスの基礎もわからない人間ばっかり、そんな団体チケット買って(見に)きます? こないですよ。奇抜だとか目立ちたがりだとかいろんな言われながらも~(後略)」
マイナーな自分が生き残るには、そしてのし上がるには、何か派手なこと・凄いことをやって注目されなくてはならなかった、というわけだ。
あとインタビューでは触れてないが、こんな見方もある。
この頃UWF(以下、U)という団体も存在してて、新日本を出た前田をリーダーとする、格闘技寄りのプロレス団体(これが後々プライドなどの総合格闘技に展開していく)、これがムーブメントになりつつあったというかなってたのか、打撃・関節技・寝技…勝つことに特化したガチな格闘といった感じのプロレス。
空中戦もなければ反則も場外乱闘もない。善悪や選手間の抗争なども基本的には無い。とにかくリング上が全て。勝つことと格闘の技術が全て。ストイックといえる。
そんなUと、Fは、まさに水と油で。前田はFについて「またおかしなのが出てきた」と言ったらしい。
大仁田がUの会場に挑戦状かなんか持ってったら、当時のUの社長にチケット持ってます? と聞かれ、持ってないと答えたら、チケット買って入ってくださいとか言われて門前払い食ったっていう。
もう挑戦状って時点で大仁田には昭和のプロレスの匂いがプンプンだが、それをビジネスライクにあしらって流したUはすでに時代が、意識が、全然違う。Uを擁護する気はないが、スマートではある。
大仁田とU関連については俺は時期をよく把握してないんだけど。
大仁田がデスマッチに行ったのはUに対抗したからなのか?
直接対決ではなく象徴的対決というか。Uの凄さに対する別の凄さの打ち出し。



1989.12.10 東京・後楽園ホール 観衆2,300人
異種格闘技タッグ有刺鉄線デスマッチ
大仁田厚/ターザン後藤 VS ジェリー・グレイマン/松永光弘

通常の3本のロープで囲まれてるリングのすぐ外側を有刺鉄線で囲っている中での試合。対戦相手は空手家らしい。
大仁田が松永の蹴りを食らって後ろに倒れてロープの間から出てしまい、有刺鉄線で右の上腕部を切って流血。付着して対戦相手の白い空手着も血に染まっている。
有刺鉄線に囲まれたリングで空手家の打撃が繰り出され流血戦が展開しているという、なかなか凄惨な光景である。



大仁田「よく言うじゃないですか、プロレスは八百長だと。八百長ってなんなんですか。だったら俺らプロレスラーは、もっと肉体を酷使する以外に表現方法はないわけですよ」
八百長という言葉には真剣勝負でない=ニセモノとかラクチンという印象がある。
わかったようなツラしてプロレスなんて所詮八百長だろとかホザく精神年齢がガキの奴がいるけどさ、
『ほんとにあった! 呪いのビデオ』を“あれフェイクだから。そんなことも知らないの?”と得意気に言ってる奴と同類だよ、
大人のたしなみってのを知らない(笑)。
それに90年代の三沢らの激しい試合を八百長なんて言葉で単純に片づけるバカがいたらいっぺん死んでこいって話だよ。死と隣り合わせでやってんだよ。実際三沢は後に命を落としてしまったし。
レスラーは凄いんだとかプロレスは痛いんだという事を、改めて明確に打ち出す必要がある。
プロレスがニセモノだという見方に対抗する1つの方法。一般人にはやれないことをやる。プロレスは痛いんだ、プロレスラーは凄いんだということを見せつける――。



1990.2.12 東京・後楽園ホール 観衆2,350人
有刺鉄線バリケードマッチ
大仁田厚 VS 栗栖正伸

リングは通常だが、リング外全方位に有刺鉄線を敷き詰めたボードが敷かれている。リング内は安全だが場外に落ちるとヤバい。
栗栖はイス大王とか呼ばれてたっけ? 怖い感じのオヤジで、そんな男が容赦なくパイプイスで相手をブッ叩く様がまた怖い。
栗栖のチョップや張り手、そのあまりの音に観客がどよめき、大仁田が倒れてロープの間から場外に落ちかけるが、場外は有刺鉄線の海。栗栖が足でグイグイ大仁田を落とそうとすると客席が騒然となる。
その後の攻防で大仁田は場外に転落。胸と背中の裂傷をカメラがアップで捉える。
エプロン(ロープの外からリングの端までの幅30cmぐらいのスペース)にいる大仁田とリング内にいる栗栖のロープ際の攻防で、大仁田が凄い攻撃を見せる。両手でロープを握って勢いをつけて栗栖に頭突きを連打するのだ。



大仁田「俺たちはテレビもない、スポンサーもない、なんにもない、(自分の頭で考えて、一生懸命やるしかない、でも考えて考えて…)煮詰まった時にどうするか? 爆発するしかない。弾けるしかない」

1990.8.4 東京・レールシティ汐留屋外特設リング 観衆4,520人
ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ
大仁田厚 VS ターザン後藤

そして遂に史上初の電流爆破マッチが行なわれる。
リングにロープがない。代わりに有刺鉄線が巻かれている。
しかも有刺鉄線には電流が流れていて、数百個だかの爆弾がセットされている。
そんな戦いの対戦相手がなぜ盟友の後藤なのか?
なんか軋轢があったんだよね。2人の間に溝が出来た。その清算試合として、究極の場を持ってきた。
最初の被爆は大仁田。バババンッ!という音とともに起爆。煙が上がる。
映像で観てる限りでは爆弾というより花火という感じの音だが、長州力との爆破マッチのエントリの時も言ったけど、バラした爆竹1個だって現実には痛いんである。
大仁田の被爆に後藤とレフェリーは思わず飛びのき、観客からはものすごい驚愕の声が上がる。
プロレスが新次元に突入した瞬間とも言えるし、超えてはいけない一線を超えた瞬間とも言えるか?
それまでのプロレス…というか世の中に様々な興行やイベントがあるけど、人間が有刺鉄線の中で戦うというのも過激かつ異様だが、起爆という状況下で戦うというのはなかったろう? ここまでくると常軌を逸している。
後藤が大仁田に四の字固めをかける。大仁田の腕の裂傷と流れる血がアップになる。
大仁田は頭突きで(!)四の字固めを切り抜ける。
そして出た! ノーハンドでの頭突き(普通頭突きって相手の頭を掴んで固定&相手との距離や力加減をはかってこっちの頭をゴツン!とぶつけるけど、そうでなく、相手を掴むことなくこっちの頭をブチ込むという、かなり危険な頭突きなんである)の連打!
その後の頭突きの攻防の時だろうか、双方とも額から流血。
被爆回数は大仁田の方が多いが、後藤が1回思いっきりダイレクトに被爆してグロッキー状態。
大仁田が大技攻勢からKO勝ちする。
…しかし勝てばそれで終わりではない。大仁田は泣きながら後藤を気遣う。