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トム・クルーズの『ミッションインポッシブル』。1作目。ブライアン・デ・パルマが監督のやつ。
怒りを伴う孤独感を感じてる時にこの映画はマストかも。

(ネタバレあり)

初っ端から仲間は皆殺され、独り生き延びるが、自分の所属する組織から裏切り者と誤解され孤立無援になるという意外にハードな展開。
何も間違ったことはしてないのに自分が悪党扱いされてると知った主人公の顔に出る、無言の、怒りの表情! 握り締める拳!(死んだ仲間から渡されていた爆弾を握り締めている)
…俺は誤解されることが多いんで、本作のドラマに流れる気分というのがよくわかるんだよ。特にこの場面は俺の魂に結構フィットする。シンクロ率が高いってやつ?
そして映画は文字通り怒りが爆発し、巨大水槽をブチ破る有名な場面へ。(オペラのようなドラマティックさがある。…オペラ観たことないけど。)
窮地を脱する主人公。
無実を証明する=己の名誉を守る戦い&殺された仲間の復讐のドラマが始まる――

トム・クルーズの『ミッションインポッシブル』シリーズは(2を除いて・苦笑)孤立無援の男の戦いを描くシリーズになっていった。
本作の あの怒りの表情、
この不屈のドラマティックシリーズはまさにこの瞬間から始まった!
PART1~3
PART4

ところが女と行動を共にするヌルい展開へ…
と思いきや、
彼を捕らえられない組織が、彼の唯一の弱点を突く。親たちが冤罪で逮捕されたニュースを目撃する主人公。
自分自身のみならず、自分の近しい者まで陥れられる。
もう完全に追い詰められた。どうする?
ここに魂の分岐点、2つの道がある。
主人公は組織に電話する。取引を申し出る組織に、主人公はこう言うのである。
「1つ質問を?」
「いいとも」
「5人の仲間が圧死し刺し殺され射殺され爆死して、そのうえお袋と おじが逮捕されたと知った男は、どんな気持ちだと思う?」
そして電話を切る。
ここも燃える! 拍手モノ。
取引するという手もあった。屈するという道もある。
だがあえて荊の道を行く。(もちろん相手の言うことが信用ならないからでもあるが、それよりも)どんなに追い詰められても、人として許せないものは決して許さないという、断固とした姿勢!
実は本当の敵は別にいるわけだが、そういう事と関係なく、こういう出方というのは依存心のない人物であることの証明である。
状況に左右されない人物・他人を拠り所にしてない人物は、己の道を行く。精神にブレがない。首尾一貫してるんである。そういうのを「魂が在る」という。
(この時の主人公の屈辱的な気持ちというのはよーくわかる。個人的に馴染みのある感情だからさ。そしてよく考えたら俺が取ってきた道でもある。だからこの場面に非常に共感するんである。)
さらに信じていた上司にハメられ、後にヒロインも裏切り者であることが判明し、感心する(笑)。
つまり結局最後まで男の戦いが貫徹されるんである。恋愛に着地しないとこが素晴らしい。
異性を心の支えにする戦いなど、本物の戦いではない。そんなものははっきり言って浮ついている。
本作が、主人公が孤立しつつも女の協力で解決してたなら、そんなのは男のドラマじゃないんだよ。
なんにも拠り所がない、信じられるのは自分だけ――自力で乗り越えてこそ、女は関係なしで切り抜けてこそ、本物の強さなんだよ。本当のカッコよさなんだよ。
(だから女のことばっか歌ってるようなロックバンドなんてのは所詮軟派なわけよ。全然ロックじゃねェなそんなの。)

俺がこの映画にシビれるとこは、主人公の怒りと、ヒロインにまで裏切られるとこでさ。
この四面楚歌ぶりに、なんていうんだろうな…なんかこうジョン・ウーの映画のようなドラマティックさを感じるのよ。
独りきりで切り抜ける哀しみと強さみたいな?
ウーの作品は男の信頼関係もテーマなんだけど、それは慣れ合いとか依存ではなくて(もちろんホモセクシャルでもなく・苦笑)、ピンで成立する己のアイデンティティを持った者同士が邂逅し、対決したり あるいは共に戦ったりするんであってさ。個として成立してるというのが大前提なんだよ。)
本作にはそのスピリットがある。
そしてだからこそか、主人公の あの怒りの表情にどこかしら『男たちの挽歌』のマークを感じなくもないんである、俺は。
で! だからこそ、パート2よりこっちの方がジョン・ウーらしいんだよ!
なのにシリーズ中最も軽薄な2がウー監督作品ってのがあり得ねーなっつー(苦笑)。
1のドラマ性で2の流れるようなアクションってのがジョン・ウーらしい『ミッションインポッシブル』であって。
本作はラストシーンの男の友情?もまたウーの世界といえなくもない。
最後までドラマ的にはジョン・ウーな世界なんだよ。
(ところでクライマックス直前の女の遺体に主人公が寄り添うようなカット、要らない。なんであんなの撮ったんだろ?
あれじゃまるでクライマックスは女の為に戦うかのように見える。ブチ壊しだろ。
それともあれか? 女が死んでほったらかしだったら、主人公が冷酷に見えるとでも?
それは見当違いだな。魂に性差はない。ロクでもない奴は男女問わずロクでもない終わり方が相応しい。思い遣りを示す必要なんかないんだよ。女に優しいのがジェントルマン、ではない。
まぁともかく、このカットは大失敗。
それともまさかチャラ男なパート2への伏線じゃあるまい?・苦笑)

気分転換にエンタメを観るのは一見良さそうに思える。落ち込んでる時やささくれ立ってる時にはスカッとする映画を観るのが合いそうな気がするが、実はそうでもない。
例えば暗い気分の時に楽しい作品を観るとメンタルにそぐわなくて拒否反応を起こしたりする。
本作は暗い気分の時に合うドラマで、それでいてスリリングな展開やクライマックスのやり過ぎなアクションなんかもあってしっかりエンタメであり、「硬質な強さ」と「スカッとする」という両方を備えてる(特にクライマックスの最後、時速200何10キロで走る列車からヘリに飛び移り、ヘリを爆破して爆風で吹っ飛んで列車に帰還するという『ダイハード2』に匹敵する(笑)ミラクルヒャッハー! ナァ――イス! 馬鹿ウケ!)。
そして孤独なまま人間不信で終わるのではなく、ラストでは女でなく この戦いで知り合った男との信頼関係で締め括られ、ほんのり温かな感情を残して終わる。
(一見ゴツい悪党に見える男なのが逆にいいし、この一件でこの男の人生が再生するのもまたいい。)
異性でなく同性だからこそ、このラストはジンとくる。異性間の恋愛は信頼関係がなくても成立するが(お? ブーイングが聞こえてきたぞ?・苦笑)、同性の友情は信頼がなければ成立しない。
この孤立無援のドラマのラストを男の信頼関係で締めたのはナイスだった。
いい映画だと思うよ。生きてくうえで心の処方箋として常備しておきたい作品の1本。