会社でいろいろ腹のたつ事あってさ、先週中盤かな、堪忍袋の緒が切れかけて、辞めて出ていこうかと思ったもんな、勤務中に。
まぁ翌日から状況がマシになったけど。
それでさ、腹たって引っ張り出して観てたのがこの映画。

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『ハード‐ボイルド』
ジョン・ウー監督作品。
とにかくアクションがスゴイ。
でもコレって腹のたってる時に観る映画としてはちょっと違うんだよな…
なんでかって人間ドラマがなかなかいいから。
勧善懲悪でない…というより、悪党の中にすら精神性があったりする。
霊位が高い低いとかってのがあるけど、霊位が高いってのは汚れのないことでもなければ、1万人中1万人に好かれる人間のことでもない。

オープニング。
食堂での武器密売取引に乱入し、熱いお茶の入ったヤカンを振り回すわオートマティック拳銃を2挺撃ちするわダイブしながら撃つわ階段の手すりを滑り降りながら撃つわで大暴れの刑事、“爆発しやすい男”テキーラ(チョウ・ユンファ)。

次いでホイさんトコのシンジケートの一員で、スタイリッシュというか、クールなんだけど幼さが残る、コレちょっとミスキャストじゃない?感が漂いまくるトニー(トニー・レオン)。
初っ端真っ赤なスポーツカーで登場する時はメチャクチャ軽薄感漂ってて、その後の図書館入ってくるカットではスタイリッシュ過ぎてカッコつけ過ぎだろみたいな、その次の敵対組織と通じていた男の処刑シーンでは冷徹さをカマすんだが、要はクールな男。テキーラと正反対。

組織のボス、ホイさん(すごくいい人そう)はトニーを信頼している。トニーもホイさんがボスだからってだけじゃなくて、人間的に好きなようで、2人の関係はとっても良好。
そこへ組織の1人、チンピラみたいなコウが登場。ホイさんはコウを信用してない。
コウはトニーに「ジョニーが会いたがってる」と耳打ち。
ジョニーはホイさんの敵対組織のボスである。
コウはホイさんの組織にいながら、ジョニーとも通じている。

トニーとジョニーの歓談。
「オマエが欲しい」とストレートにコクるジョニー。
この男、てめェの利権の為なら仁義もクソもなく手段を選ばない悪党なんだが、「敵でも英雄なら尊重する」発言もだし、その後のトニーに対する思い遣り?もだし、なんかこの男はこの男でこの男なりの基準があるような…。
ところで気になるのはジョニーの部下の1人、何やら凄みのある殺し屋のような男フィリップ・コクである。

テキーラの元へコウが現れ、ジョニーによるホイの武器庫襲撃の情報を売りに来る。
ここでコウは裏切り者というより、何処ともつながってるということがわかる。
じゃあコイツはロクデナシかというと、
テキーラ「お袋さんを入院させた」 コウ「すまない」や、その後のコウの笑顔なんか見てると、立場だけで人の良し悪しは計れないなー…とか思う。

ジョニーが部下及びトニーを伴ってホイさんの武器庫のある工場を襲撃。
ここスゴイ。やり過ぎ(苦笑)。銃撃!爆破!轢殺! 殺戮を展開。
とっても楽しそうなジョニー。やりきれない表情を浮かべながらも、ジョニーに対しては笑顔で応えるトニー。
部下と共に駆けつけるホイさんだが、ジョニーと並んで立つトニーを見て愕然とする。
「私だけ殺して部下は逃がしてくれ」 「汚れたあいつらに殺されるくらいならトニー、お前に殺されたい」
目を潤ませ、苦悩し、だが結局トニーはホイさんを射殺する。
降り返ると笑顔でジョニーに向かって歩いてきて、通り過ぎた瞬間に険しい表情に――
この切り替え。揺れる感情の機微。なんでこの役がトニー・レオンなのか、納得。トニーのドラマティックな演技力。
…やり過ぎなぐらいである(笑)。
現実だったら、これじゃ本音がバレバレだろ!(笑)
まぁそれはともかく。
ここはやりきれない場面なんだが、そんな湿った空気を一掃するかのように、「あの男」が乱入である!

防弾ベスト、マシンガン、ショットガン、手榴弾、オートマティック、リボルバー…
完全武装のテキーラが、爆弾放り込んでマシンガン撃ちまくりながら天井からロープで降りてきて特殊部隊さながらに突入! しかも単身!
ムチャクチャだよこの男!(笑)
コイツ1人が顔出しただけで場が一気に戦場に変わる!
湿った空気だけじゃなくて人と人との繋がりのドラマまで吹っ飛ばして、ある意味ジョニーと同類じゃないのか!?っていう。(でもこの一掃感が鑑賞感としても劇中のトニー的にも救いでもある。)
ちょっと字数がハンパなくなるんで細かく語れないのが残念無念だが、とにかくこのシーンのバトルは凄い!
映画史上でも突出してる、きまくりやがってるアクション! 針振り切ったバトルが展開!
しかも。
暴力的でありながら芸術的。バイオレンスとアートの狭間を綱渡りしながら、男たちの戦いが展開する。
この宇宙にこんなアーティスティックに戦う種族は、人間以外にいないと思うね(笑)。
激戦の果てにふたりだけ残ったテキーラとトニーが銃を突きつけ合うが、テキーラの銃は弾切れ!
しかしトニーはテキーラを射殺せずに銃を下ろし、微笑んで走り去ってく…。

…実はトニーの正体は潜入捜査官だった!
マジかよ!?(笑)
もう誰が何やらわからない。

トニーの任務は巨大武器密売組織の摘発であり、それはすなわち、ホイさんやジョニーの摘発であった。
組織に潜入して5年…いつ警察に殺されるか、いつ組織に正体がバレるか、ギリギリの状況で生きてきたトニー。
そして、数々のドラマがあった。
組織の一員を演じているトニーは、かつて仲間であった裏切り者を処刑もしたし、ジョニーに信用される為に友愛を感じていたホイさんも射殺したし、復讐に来たホイさん時代の元仲間も返り討ちにした。
悪の世界でも、生きている人間がやっている以上、そこには人間関係があり、友達も出来る。
だがトニーの正体はあくまで警察であり、最終的な目的は組織の摘発にある。
裏社会の中で裏切ったとか裏切られたとか、仁義があるとかないとかあるわけだが、実はトニーは丸ごと全部裏切ってるわけで。だって正体は警察なんだから。
トニーは正義なのか?悪なのか?
武器密売組織の摘発は正義だよ。でも殺したうちの何人か、特にホイさんを殺さざるを得なかったのはとても正義とはいえない。
ホイさんはあの世でトニーをどう思っているだろう。
トニーは大義名分だけでどこまでいけるのだろう。
そして組織の殺し屋コクは冷酷非情な男のようでありながら、“一般人は巻き込まない” “自分の主には忠誠を尽くす”など、社会的には間違いなく悪でありながら 己の中に基準やルールや線引きがちゃんとあって、そこらの一般人よりよっぽど人間がしっかりしている。
本当は誰が敵で誰が味方なのか?
本当は何が善で何が悪なのか?

クライマックスはジョニーの武器庫を有する病院での、中盤の工場バトルを凌ぐ、戦争映画か?ってな激し過ぎるバトル!
共同戦線を張ったテキーラとトニーがいがみ合いながらも死線をくぐり抜ける(霊安室という場所の設定も印象深い)。
銃弾や手榴弾、グレネードランチャー、プラスティック爆弾が炸裂し、警察や特殊部隊も介入して、市街地の病院を戦場に変える。
クールを装って生きてきたトニーがテキーラと出会って、情熱的な面を見せる。常に冷静に己を抑えて生きてきた、警察であることをひた隠しにしてきたが、その人生で初めて、そして同時に人生の最期に、堂々と警官として戦う。激しく生きる!(最後に制服を着せて戦わせてあげる設定上の配慮もナイス!)。
テキーラも1人取り残された赤ちゃんを抱いて戦うあたりでは、それまでなかったであろう優しさをみせる。
信念と哲学を持った殺し屋コクとの激闘も素晴らしい(トニーvsコクは、もうどちらが正義かわからない。それほどコクの人間性はなかなかのものである)。
そんなことは知ったこっちゃない、ただの悪党ジョニー。
それらが生死の境目である病院という場所を舞台に展開する。

他にももっともっと言いたいことがあるいい映画だが、今回はここまで!