しかァし!
クライマックスがいかん!
唐突で強引な気がする。いや、気がするじゃなくて実際そう。
ここまで積み上げてきたものをドブに捨てるようなことを…。
まず吊るし上げ状況の担任だが、ここまで狡猾に立ち回ってきた担任がなぜにここで唐突に辞職に追い込まれてるのか?
マリアが澪に“これで本当にいいの? あそこにいるのが自分だったら?”と言うけど、これ違うだろう(担任はまさに自業自得で、この人物に寛容を示す余地は1ミリもない。寛容というのはなんでもかんでも許すことじゃないだろう。心が広いということは道徳の基準が緩いということではない)。
担任が逆上して万引きしたと宣言するが、これムリヤリすぎ(これで澪の正当性が満天下に証明されるわけだよね、担任の逆上じゃなくて証明させる為の脚本上の段取りなんだよ。あと、これで澪の落ちた株も取り戻せるわけだし。そうそう、それを言うなら中盤の澪が幼なじみにぬいぐるみあげるところもね。あれで実は澪の身が保障される)。
…つまりこのクライマックス、物語の結末あるいはハッピーエンドへの段取りなんだよね。
その段取りがあまりに性急で安易で、ちょっと酷い(逆上のムリヤリぶりと同様、この担任の言動には一貫性がなく、この人物の歪んだ人間性というより脚本の穴じゃないのか?と思う)。
ムリヤリすべて丸く収める。強引にハッピーエンド。
いや現実はこうはいかねーだろって言ってんじゃなくて、全肯定するならそれをいかに自然に説得力持って展開させるかなんだよ。
その後も担任が澪の両親にも謝りたいと言うが澪はやめてくれみたいな、それに対して担任が「そぉ?」って、そぉ?じゃねーだろ。これは絶対謝罪しなければならないことであって。
もう決着の着け方がグダグダだろコレ。
その点がこの映画の唯一といっていい汚点なんで、惜しい!

と言いつつ、ラストシーン、後味がなかなかいい。
たった今 不満を募らせたクライマックスを一瞬で一掃する清々しさ。
そして流れる主題歌、junior sizeの『青いナイフ』もいい!グッとくる。泣きそうになる。
激しく切ないピアノ。感情のうねりが炸裂するようなボーカル。切実な歌詞。センチメンタルでドラマティックな曲である。
これ劇場で観たらボロボロ泣いたかもしれない。

…これさ、最初澪が死んで終わりの話だったんじゃないか、本当はそれで終わりだった、でもその先を書いた、生き続けた。
そして苦しみをさらに味わうことになり、しかし辛くても生き続けた・戦い続けたからこそ、このラストに到達した、生き続けたから・逃げなかったから解決した、清々しい日が訪れた――
ふとそんなふうに想いを馳せた。

寛容。
思い遣り。
そしてシルベスター・スタローンの言葉を借りれば「人間の選択には2つある。やめるか、続けるか。母親からいつも言われ続けていた。Never Give Up(あきらめない)、Never Give In(降参しない)、Never Give Out(尽きない)」
中・高校生が観るべき(これこそ文部科学省が推薦するべき)映画だが、大人のハートも打ち抜く、結構感動的な映画である。
それにイジメの話なんで観るのを避ける人が多いだろうが、辛いだろうから、暗い気分になりそうだから観たくないという人にこそ観てほしい!
実際の鑑賞後感としては逆なんだよね。
そういう話がまさかこんな爽やかなラストを迎えて、実に清々しく観終われて、晴れ晴れとした気分になって、予想外もいいとこよ。
いやぁいいもん観たなって感じ。

ところで『ブレードランナー』の話で散々“映画はストーリーじゃない”って言っといてオマエこの映画はどうなんだよ!?という話もあるが(笑)、
たしかにね、映画の特質からいったら この『問題のない私たち』という作品を映画化する必要があるのかっていうと、これは映画の映像でやる必要はない。テレビの2時間ドラマで十分だよ。
だけどテレビ番組って基本的に生き残らないだろ。原版がさ。
あるいは原版が残ってても、一般人が見る機会がもうない。
人気のあるのはソフト化されるけど、それはほんとうにごく一握りにすぎない。
放映された番組のほとんどは一度放映されたきりで消えてゆく。
でもこの作品は一度きりで消えるのは惜しい。これは生き残るべき作品だよ。
だから映画化という方法を取ったのは正解だと思うよ。
“映画として成立する条件”というのには、こういう特殊なケースもある。

DVDの特典映像は予告編とメイキング。
こういう内容の映画だからこそ、メイキングを見るとホッとするものがあったり(笑)。
楽しそうな撮影現場風景。
(冗談で)マリア役の美波が沢尻エリカの胸ぐらを掴んで、沢尻が目を丸くする(笑)。劇中と真逆で面白い。
ブリッ娘全開で「誰!? 画鋲置いたの?」とのたまう黒川芽以&沢尻エリカ。劇中ではシリアスで緊張感ある場面だからこそ可笑しい。
英会話を習ってるという担任役の野波麻帆に無理矢理英語でコメントを言わせようとしたり(小道具の教科書を見ながら「あたしこの教科書だったからすっごい懐かしいなと思って」と言うとこも微笑ましい)。
出演者居眠り三者三様。
クラスメート役のエキストラ?の女のコたちをかなりフィーチャーしてたりもする(中1も参加してるのにビックリしたりしなかったり)。
ナレーションを担当するクラスメート役の1人 小貫華子(穏やかでかわいい喋りが、リラックスムード満点で聴き心地良い)のちょっと切ない独白や、黒川芽以のマジ泣き演技も印象に残る。
お、それとバスケシーンのメイキングカメラ映像、黒川芽以のドリブルがいいね!(黒川芽以の素の運動神経の一端が垣間見れる。)
メイキングもエンディングは『青いナイフ』。やっぱいい曲!

ちなみに黒川芽以が気に入った人は、イメージDVDみたいなやつじゃなくて(それも出ている)、黒川芽以が電車でタラタラと旅して まるっきり素に近い彼女が見れる『黒川芽以 鉄道と私』がオススメ。
独り旅だが、ここでも黒川芽以のキャラで、女のコの1人旅という不安感はまるでない(笑)。