『毎日が夏休み』
夏なんで爽やか系で夏向けの作品を。今回はこの作品をダベることにするか。



イメージ 1クラスで正義を貫いた結果孤立した為 登校拒否してる娘と、訳あって家族に黙って会社を辞めていた一流エリートの義父が、まっ昼間の公園で遭遇!
“だったら一緒に仕事しよう”と義父が言い出し、それまで他人同然の付き合いだった2人が、自分たちの生き方を貫き、2人で会社を設立し、娘が正義感と純粋さを失わずに大人になるまでを、夏テイストで楽しく爽やかに 時に辛さやセンチメンタルさも交えながら描く。

イメージ 2この、青空と音楽とクレヨンで落書きしたようなオープニングタイトルが、この映画のテイストや内容にピッタリ。






いきなりヘタクソな(感じの)佐伯日菜子のナレーション。町並みやリビングの風景も妙に人工的。

義父役佐野史郎登場。条件反射的に冬彦がよぎって なにやらヤバい話になってくんじゃないかといらん心配をしてしまうが(笑)、大丈夫、今回はそういう役じゃないから。ってゆーか、冬彦だって単なる役だから(当たり前だっつーの)。

演出も演技も妙にわざとらしくて“なんじゃこりゃ”と思ったが、あー これは“マンガ”なんだなと、リアルなドラマとか演技力とか求める方向性じゃないんだと、冒頭でうっすらとわかる。
リアルにやると生々しい話だから、意図的にマンガっぽく描いているようだ(まぁ原作自体マンガらしいが)。
あるいは、始めからファンタジーと割り切っている。

イメージ 3「一緒に働く」と登校拒否の娘を連れてかつて関連のあった企業を巡る。
この義父、何も考えてないようでその実 内心渦巻いている感情はどんなものかはうかがい知れないが、明るく軽く振る舞い続ける。
自分の悩みとか本心とか絶対言わない。会社の連中のことも絶対悪く言わない。誰も敵に回さない=誰も傷つけない(俺には出来ない…笑)

娘に対しては同士とか味方とかいう傷を舐め合うような見方でなく、あくまで大人として、父親として接する。
自分自身も厳しい状況にあるのに、同じく厳しい状況にある娘の身の振り方も引き受ける。親として当然と口で言うのは容易い。厳しい状況を2人分、それも誰も理解してくれない中で引き受けるのは困難な道だ。
それでも義父は例によって例の調子のまま。

 イメージ 4イメージ 5
泣き出した娘を励まし、死を匂わせる言葉に対し相変わらず明るく軽い口調で
「今そのものを充実させることが大事なんだよ。死なんて考えちゃいけない。
人生は意外と何回もやり直しのきくゲームなんだ。学校が失敗しても他の世界がある」
その通り! 今いる学校や職場だけがすべてじゃない。すべてなわけがないだろう。
そんな事すら知らないですぐ人生諦める奴が多過ぎるよ。

ただぼんやり観てると、もうあからさまに脳足りんな男だが、
風吹ジュンが会社に掛け合って辞表を撤回してもらったと聞いた時、
相変わらずな反応で生身の人間っぽさ無くひょうひょうとセリフを言いながら最後に
「君には感謝でいっぱいだがあの会社に戻る気はない」とブレスなしで抑揚なく言う。
マンガっぽい演技なのかやる気ナシなのかとも取れるが、俺はその抑揚のなさに、何があったかはしらないが、怒りか、悲しみか、屈辱か、彼の冷め切った本心がみえて、喉にこみあげるものがある。

イメージ 6近所に挨拶。
「便利屋さんて…お勤めは!?」
「辞めました」
辞めましたって言う時の佐野史郎の言い方と背景が何気に実に爽やかでいい。
辞める事が終焉ではなく、新しい可能性と世界の始まり。
「学校行かなくてよろしいんですの?」 「学校で教えるような事は私が教えられますから」というセリフもいい。




初仕事の森崎さん宅で佐野史郎がふとんをフルパワーで叩くとこが爆笑モノ! そのうち泣き出す近所の犬の鳴き声もナイス。
日菜子が引き受けた仕事の相手で頭のおかしい奴(キモいオタクタイプ)が1人いるんだが、日菜子を救った佐野史郎が「どんな危険な目に遭ったのかわかってるのか!」と怒るが、日菜子は「あの人…どことなくお義父さんに似てるけど」 佐野史郎「ぶ、ぶ、ぶ…ブァカ(バカ)!!」も可笑しい。
あと後半風吹ジュンがゲロ吐くシーンで聞き逃しちゃならない、介抱してる佐野史郎の(おそらくアドリブの)セリフ「お、うどん食ったのか」 爆笑!

イメージ 7「いるとしたら時の神にも感謝したい…娘を抱くのに間に合った」というセリフとバックの音楽にジンとくる。









風吹ジュンの前夫から電話がくる。嫌な予感…が、カメラが寄ったところで後ろ姿がこちらを向くと、小野寺昭! いい人だこりゃ問題ない(笑)。

イメージ 8仕事第2弾、紅子の家へ向かう時の のどかな感じもいい。

紅子役 高橋ひとみ登場。例によってヤな感じ(笑)。
だがッ。今回はいい役なのだ♪
帰り道、
娘「紅子さんの気持ちはよくわかるの?」
義父「人の気持ちがわかるのが辛いから考えないようにしていたんだ」
娘「…辛いとか、悲しいとか、大切かもしれないよ」
義父「やっとそれがわかってきた」

イメージ 9中盤、嫌がらせの送別会で吊るし上げられ、耐え切れず抜け出した風吹ジュンと追ってきた日菜子の言い合いの中で日菜子が言う
「お義父さんは頭がいいから、あの人たちの本性を見抜いていたのよ」
「あんな人たちにはなりたくない!私!」
も、こみ上げるものがある。
会社も奥さんも義父を理解しなかったが、この娘はわかってくれた。



イメージ 10そして同時に義父も、ドロップアウトした娘を責めることなく、そのまま伸ばしてやろうとした。
ふたりは外圧に圧し潰されず、汚されず、(自分たち自身の努力で)真っ直ぐに生きてゆく。







それが爽やかすぎるラストに到達するから、観終わった後あまりに心が自由になれて、(そこで解放感を感じるか、駄目な大人になってしまった自分に哀しくなってしまうか、感じ方は人それぞれだが どっちにしても)泣けてしまう。
 イメージ 11イメージ 12

大人になった娘の声を、前に良いと言った村田博美が演っているのもポイント高い。
スコアも結構いいんだけど、エンディングテーマの鈴木トオル『時間のない街』(歌詞は合ってんだか合ってないんだか微妙だがメロディが良い。特に2コーラス目の後の間奏! 予告編でも流れる。)も映画を感動的に締め括る――。



イメージ 13誰かキネ旬かなんかでこの映画について“泣くような映画じゃないのに、観終わって泣きたくなった。「あそこに電話するの忘れてた!」とか「 ~ に行かなきゃ」といった日常のわずらわしい事が全部どうでもよくなって~”とかって言ってたんだが、まさにそういう映画なんだよ。

ただ笑えるだけならそれは“お笑い”。良く出来たコメディ映画はその裏に辛さがある。生きる事が辛い事だからこそ、笑いが要る。両方描いてこそコメディの傑作。
『毎日が夏休み』は爽やか系作品としても屈指の出来だが、ヒューマンコメディとしても傑作。

忘れていたもの、失くしてしまったもの、手に入れられなかったもの、今まで気づかなかったもの、懐かしいもの、そして明日への希望(笑)が、ここにはある。埋もれた傑作。

DVDのレーベルに描かれてる子供のラクガキみたいなヒマワリの絵もいい感じ^^