動物の生存に不可欠な縄張り争い。

 マウスが棲むのに最良で幸せな環境と言えるケージ内でも、勃発しました。

 

 闘いに勝った強いオスはより快適な居場所、多くの食べ物、お気に入りのメスをゲットできます。テリトリーを持てずに「格差社会」の底辺にいるオスは狭い場所に群れ、同じ時間にエサ場へ行ってはせせこましく食べるようになりました。

 マウスのメンタルにとって、これがストレスであることは想像に難くありません。さらにオスたちは不自然な行動を取るようになります。

 人間社会でも勝ち抜いて持ち得た者ほど空や海、あるいは首都に近く、広くて高い所に住む傾向があります。対して持たざる者は火事に弱い密集地で、川の氾濫や津波に危険な低い土地に住まざるを得ません。弱者ゆえに群れて住むしかないわけですけれども、空間にゆとりのない暮らしには心身に抑圧がついて回ります。それが他者に向けられたとき、弱い者同士の諍いが始まるわけです。

 この辺りは読む人の怒りを買いそうな表現になっていると思います。しかし歴史の長い目で見れば、これが人間界の基本であるとの認識はおありであるはずです。

 ちなみに僕も産まれてこの方横浜で最も高齢者の多い、ダウンタウンに住んでいます(笑)。

 

 倍々ゲームで増えていたマウスも、実験開始から10か月を過ぎると出生率に陰りが見え出しました。

 過密状態で巣作りが行えない妊婦のメスが、床に敷かれたおがくずの上に子を産み落としてしまいます。悪環境にさらされた子はまともに育たず、やがてメスの流産率が上がり、妊娠率も下がっていきます。家無し生活のマウスには子ができにくくなったのです。

 人は昔から貧しい国、狭い家で暮らす家族ほど子沢山のように思います。

 夫婦に愛がある、情報や娯楽が少ない時代にはセックスの快楽が大きい、避妊具や中絶手術が無い、1人でも多くの働き手が欲しいなど理由はさまざまにありました。感情の動物である人は狭い所で固まって暮らすほど心通う部分もあったでしょう。

 今は結婚を望まない、自分の子を欲しない成人が増え、欲しくても経済的・居住空間的に特に2人目以降を諦めざるを得ない夫婦も多く、出生率は最低を更新し続けています。

 かかった時間は違っても、人とマウスは同じ道を歩んでいます。

 

                 ――次回へ続く――

 

 ふんわり静かに・・・。