その夏のことを俺は今でも覚えている
俺が死んだ、その日のことを。
第1章 1941年
「ようディック、今日はどうだい?」
同じ部隊の奴が、鎌で草でも刈るような手つきをしてにやりと笑う。
「ああ、まったく申し分ないな。絶好の仕事日和だ」
俺は笑いながら腕を突き出して奴の胸倉を軽くつかんだ。
「手始めにお前の命をいただくとするか」
「おーおっかねえ。俺ぁまだ死にたくないんで遠慮しとくぜ、死神」
「やめた。どうせならきれいな女の方がいただき甲斐があるってもんだ」
笑いながら凄むと俺は手を離した。
「死神に見放されたか。はは、ありがてえ」
「長生きするぜ、お前みたいなのは」
たわいのない冗談。
俺のあだ名は死神(デス)という。一度死に損なってからこっち、俺が所属する部隊では不思議なことに死人が出ないという奇跡が続いていた。
それでついたあだ名だ。他人の命を取るが、自らは決して死ぬことのない存在。戦争の最中で誰がいつ死んでもおかしくはないご時世だが、誰も自分が死ぬのは真っ平なはずだ。
”死神”に見放された人間は当分死なない。
そんなジンクスのご利益を求めて、俺の周りにはいつも野郎どもが絶えなかった。士官学校時代は疎まれ恐れられた容貌も、今ではすっかりこの部隊のマスコットとしての俺を飾る勲章といったところか。それはそれなりに楽しかったし、俺は自分の力を過信することさえあった。
神の与え給うた運命を忘れて。
(第2章 1925年に続く)
大空は 梅のにほひに 霞つつ
くもりもはてぬ 春の夜の月
願はくば 汝(なれ)の腕にて 春死なむ
そのきさらぎの 望月のころ
梅ぞ 昔の香ににほひける