第2章 1925年
5歳、俺は伯父と暮らしていた。父母の記憶はない。
伯父はとあるホテルのオーナーで、他にも劇場の経営やら株やら、とにかく金には不自由していない人だった。本業が何だったのかは知らない。ただ、いつも俺のそばにいてくれた。
一つだけ、やけにはっきりと覚えている出来事がある。
クリスマスも迫ったある日、伯父は俺を劇場へ連れて行ってくれた。舞台裏のピアノで、天使の仮装をした少年たちが発声練習をしていた。当時の俺よりほんの少しだけ年上の彼らの、神々しい姿に俺はひたすら感動した。
興奮冷めやらぬ俺を伯父はそれから階下のレストランへ連れて行き、ディナーをご馳走してくれた。シェフたちもみな伯父をよく知っており、俺ははしゃいでボーイのまねをしては伯父を微笑ませた。
そのころはまだ、左目にこんな傷跡もなく、俺は天使のような子どもだった。
天使でいられなくなったのはいつの頃からだったか。
誰一人語ってくれたわけでもないまま、俺はすべてをおぼろげに理解していた。
伯父とはいっても、血のつながりはまったくないこと。父母の記憶もない俺を、いつ何故引き取って育ててくれたのか。何もかも謎で、伯父は決して語らなかったし、俺も聞かなかった。
物心ついた頃、伯父はまだ30代の若さだった。未婚だったが、結婚する気はなさそうだった。うぬぼれを承知で言えば、俺のためだけに。
俺は伯父が大好きだった。
(第3章 1936年に続く)
冷たい雨が雪に変わってゆく
こんなさよならじゃ
哀しすぎるね
君の影が
記憶の中で
今も手を振る
どれだけ泣いたら
忘れられるのだろう
もう二度と
誰も愛せはしない
心の底から君だけを
忘れられない厳冬