15.シュウちゃん、研究室の人になる

 

念願のコスタリカ移住の夢を叶え

大使館付となってしばらくしての事。

 

私はと云えば、

どんよりした空を眺めていた。

一言で云えば『退屈』ってやつ。

 

ソファーに座って

ボーっとしていたら

携帯が鳴った、のです。

 

『げんきぃ~?僕だよぉ~』って

電話の向こうで明るく元気な声

 

何をしてるの?と聞かれて

『なんか暇なので空眺めてた』

そういったら、大笑いされた。

 

『あのさ、忙しく働いていたころのほうが

緊張感あったでしょ?』

(言いにくいことを、

わかりきったことを云うやつだ・・

少々不機嫌になった)

 

『で、そっちは何してるの?』

と聞いたら

 

『いまねぇ壁を青く塗ってさ

白い雲描こうかな?って思ってさ

ちょっと疲れたので

休憩しようかと電話した』

 

休憩=私に電話?か

それにしても…

(壁を青く塗る?白い雲を描く?ねぇ)

 

『空にはカモメを描こうかなぁ』

 

で、どこの壁に?と尋ねたら

『僕の研究室の壁だよ』

 

研究室を一つ頂けた、のだそうな。

で、そこの壁が汚かった

おまけにかび臭い。

気が滅入って研究ができないから

壁塗りをすることにして

ペンキを買い込んで塗り始めた・・・

やるねぇ。

 

青い空ね~

海にいる気分か・・いいね。

 

泊まり込んでペンキ塗りを

していたのだそうな。

研究はその後だって・・・うらやましい。

好きなこと好きなだけやったら

仕事をする、か。

 

『疲れたらさ、

ウクレレなんて弾くわけよ』

 

はい?!ウクレレ、ですか?

電話の向こうか

らウクレレの音色が…

 

一気にソファが

浜辺のベンチになっていた。

 

『ウクレレってさ、

ギターより絃が2本少ないから簡単だよ』

 

研究室をペンキで塗り

白い雲とカモメを描く

そして、疲れたらウクレレを弾いて

寝起きしている。

 

『昨夜はね、研究用の犬と一緒に寝てた』

 

その部屋出る時どうするの?と尋ねたら

 

『さぁねぇ~』って笑っていた。

 

ギターよりウクレレのほうが

かっこいいよぉ~と

なんか、ずっと弾いてくれていた。

 

青い空と白い雲を眺めて

空を飛んでいる気分だろうか?

うらやましいマイペースに

しばし頭の中が真白になった。

 

「上手でしょ?自己流だよ」

なんか南の島にいる気分になった…

 

シュウちゃんは、

いつだって何気なく元気をくれる

そういう人だから、

絶対絶命の時に救われていたのだと

あれからずいぶんと時間が

流れてわかってきたような気がする。

 

さて、この研究室で彼はこの後

何をしていたのだろう?

 

その後、突然連絡が途絶えた。

 

…つづく