【小説】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 完読 | ぐれむりんの気ままなブログ

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これは面白いっ!

村上春樹さんの小説を読んで、いや、読み始めてから読み終わるまで、中だるみすることなく、最初から最後までワクワク・ドキドキしたまま物語が完結したのは珍しいかもしれません。

 

村上春樹さんの作品

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を完読したのです。

 

外出自粛が続く2022年のGW期間中に、何か小説でも読みたいなと思い、そのタイミングで「実質半額セール」と銘打ってセールが行われていたKindleストアで購入した電子書籍です。

 

ええと、先ず、最初に言っておきます。

 

この作品。

ネタバレ厳禁です。

とにかく、何の情報も無いマッサラの状態で読むのをお勧めします。ウィキペディアも見ない方が良いです。

「考察サイト」を検索するのも止めて下さい。考察サイトの見出しを読んだだけでネタバレする可能性があります。

あらすじも読まない方が良いし、アマゾンのレビューも見ない方が良いかもしれません。

 

読んでみようかな……と、悩んでいる方はもちろん、今後読むかもしれない、と、僅かにでも考えている方は、今すぐこのブログを閉じて下さい。

 

ここから先は

ガッツリネタバレ全開です。

 

ここから先は、既にこの作品を読んだ方、または、読む気が無い方のみお進み下さい。

 

ちなみに、面白そうな解説動画があったので貼っておきます。

 

 

ストーリー&読後の感想レビューです。

 

先ず、率直な感想から言うと……。

まるで、1本の映画を観終ったような、何とも言えない余韻が残る面白いお話でした。

 

これは、僕が今まで読んできた村上作品、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」「騎士団長殺し」のような、複数冊に渡る超・長編作品じゃなかったこと、そして、村上作品特有の現実と非現実の世界が混ざり合う摩訶不思議な世界観一切登場しなかったからだと思います。

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(以下、巡礼の年)は、現実世界で生きる主人公が現実世界で起きる身近な問題に向き合う現実的な物語でした。

 

実は、この作品を購入する前は、どうにもこのタイトルが好きになれず、購入を迷っていました。

 

なんて言うんだろう?

タイトルにワクワクしない……。

すごく暗そうなタイトルだし、宗教的・精神的(巡礼とか?)な雰囲気を感じるし、小難しい物語なんじゃない?

 

そんなふーに思っていました。

 

実際は、思春期に「心に傷」を負ったまま成長して青年になった主人公が、ガールフレンドに助言されたのを切っ掛けに、過去の「心の傷」に向き合い、解決し、成長する物語……なのかな?

 

……なのかな?

と、疑問符が付いているのは、それは、流石はノーベル文学賞に最も近い日本人作家と言われる村上春樹先生……です。

まあ、何て言うか……

え?

結論丸投げですか?

の連発です。

純文学って、そーゆーもんなんですか?

 

確かに、主人公の多崎つくる君は、この物語の中で過去の「心の傷」を清算・解決して苦しみから解放(?)されます。

 

……が、

 

その途中で語られる様々な出来事の多くは「未解決」のままで、しかも物語の結末も「結論は読者に丸投げ」状態となります。

 

いや、まあ、それでも、読み終わった時の感想は、

これは面白いっ!って感想でした。

 

先ず、物語の展開が面白いです。

 

小説の序盤は、主人公の多崎つくる(たざき・つくる)は、大学2年生の一時期、ほとんど死ぬ事だけを考えて生きていた……、何て不穏な書き出しで始まります。

 

いったい、彼の身に何が起きたのか?

 

彼には、高校生の時にボランティア活動を通じて出会った4人の親友がいて、その5人のグループは彼にとっては「とても大切でかけがえのない宝物」のような存在でした。

 

メンバーは、それぞれ(あだ名)アカアオクロシロ、そしてつくるの5人。

 

あだ名の由来は、名字に「色」の漢字が含まれていたことで、唯一「色」が名前に付いていないつくるは、どことなく疎外感にも似た寂しさを感じていたものの、高校を卒業し、つくるが名古屋を出て東京の大学に進学した後も、親密な交際がずっと続いていたのですが……

 

大学2年生になったある日、突然、メンバー全員から

「もうお前には会いたくもないし、顔も見たくない」と告げられ、理由も知らされないまま、一切の音信を断たれてしまいます。地元に帰郷した際も、全員が自分を避け、顔を合わせるのも拒まれてしまう状態……。

 

その出来事が原因で、つくるは一時期、死ぬ事だけを考える抜け殻のような状態になってしまいました……

 

……と、36歳になった多崎つくるが、ガールフレンドの沙羅(38歳)に打ち明けています。つくるは沙羅と結婚を考えるくらい、沙羅に魅かれていて、過去の「心の傷」を打ち明けるくらい、彼女に真剣になっています。

 

そして、そこから、多崎つくるの「回想」と言うか、「過去の出来事」と言うか、高校生~大学生の頃のお話が、時系列が入り乱れた感じで進んでいきます。※デートの際に沙羅に語る高校時代の内容&回想と、それを踏まえた大学時代の回想と、現在の物語が飛び飛びに語られる感じです。

 

そして、タイトルにある「色彩を持たない」という意味。

 

ここで語られる過去の話に登場する人物たち。

 

高校時代の「赤(男)」「青(男)」「黒(女)」「白(女)」の親友4人。

大学時代の唯一の親友「灰田(男/グレー)」。

灰田の回想に登場する謎のピアニスト「緑川(男)」。

 

多崎つくる以外の登場人物は、ことごとく、名前に「色」が付いています。つくる一人が、「色彩」も持たないカラッポの人間なのだと、つくる本人は感じています。

 

そして「巡礼の年」

 

これは、大学時代の親友「灰田」が持って来たクラシックのレコードのタイトルで、この中に収録された曲「ル・マル・デュ・ペイ」という曲は、高校時代に「シロ」がピアノで弾いていた曲でした。

 

そして、現在の恋人「沙羅」がつくるに言います。

 

「あなたに抱かれている時、あなたはいつも別の何かを考えている気がする。これではアナタとの関係は続けられない」

 

それは多分、高校時代の「心の傷」が原因だと思う。

もし、これから先、本気でわたしと交際を続けたいと思ってくれるなら、先ずは、その「心の傷」の原因を解決してほしい。

 

沙羅は、かつてつくるを絶縁した4人の現住所を調べ、「彼らに会って話をしなさい」と助言してくれます。

 

そして、4人を訪ねることになったつくるは、なぜ自分が「突然、絶縁されたのか」を知り、かつての親友たちの近況を知っていくことになるのですが……。

 

文学には無駄な文章は一切無い

と、言うのは、以前、何かの記事で読んだ有識者の言葉なのですが、例えば、芥川龍之介の「羅生門」を読む際は、そこに書かれた1行の意味を「何時間も、何日もかけて」、作者はこの「1行」にどういう意味を込めて書いているのかを考えて読む……なんて読み方をするそうなのですが……

 

まあ、それは置いといて。

 

村上春樹さんの作品は、いわゆる「純文学」というカテゴリーなのだそうですが、これは、「文学」に「エンタメ性」が入った作品なのだとか、まあ、一般人の僕にはよく理解できない難しいお話なのですが、要するに、何が言いたいのかと言うと……

 

結論は丸投げ?

と思われる物語の中に、実は、その答えは、全てその途中の文章の中に書かれている……と言うことです。

 

またまたぁ~

と、半信半疑で「考察サイト」を読んだ僕は……そこに書かれている内容(あくまで読者の考察)にビックリしてしまいました。

 

例えば、「色」についての考察。

 

色彩を持たない多崎つくるは、高校時代から自分をカラッポで個性の無いつまらない人間だと感じていたのですが、36歳になって訪ねた親友たちからは、「お前はクールでスマートなイケメン担当で、お前がいたからグループが成立していた」と真逆の感想を聞かされました。クロに至っては、「高校時代、あなたが好きだった。ずっとサインも出していたけど、鈍感な君は気が付かなかった」と告白されてました。

 

光の3原色でしたっけ?

 

赤と青と緑の光が重なり白になる。

光が無ければ黒になる。

 

彼らにとって「つくる」は、色を生み出す「光」で、実は最も重要な人物だった……とか?

 

大学時代につくるが頻繁に見た「性夢」に登場したシロとクロ。

夢の中でクロとシロと交わったつくる……つくるの××を口に咥えていた「灰田」青年。※夢か現実かは不明。

白と黒を混ぜると灰色になる……とか。

 

謎のピアニスト「緑川」の正体?

 

そして、作中で最もショッキングな出来事……。

 

つくるにレイプされて妊娠したシロ。

※36歳のつくるは無実を主張。

そして絞殺されて死亡したシロ。

 

はたして、シロをレイプした犯人は?

そして、シロを殺した犯人は?

 

更に更に、つくるが偶然目撃した、年配の男性と楽しそうにデートする沙羅の姿……。

 

沙羅……沙羅双樹の花、曼珠沙華。

沙羅双樹は「茶色」を指すとか?

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年は、実は……

推理小説です。

なんて考察をしているサイトもありました。

 

そして、シロをレイプした犯人、殺害した犯人を考察すると浮かび上がる「沙羅の正体」

 

おいおい、マジか?

 

考察サイトを読むまで、まるで気が付かなかったよ。

 

でも、確かに言われてみれば……。

 

果たして、シロをレイプし、後に絞殺した犯人は多崎つくるだったのか?

それと、犯人は別の人物なのか?

 

真実はいつもひとつ!

 

……じゃなかった

 

結論は読者に丸投げっ!

 

それがこの、

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年という作品……なのかもしれないし、過去の「心の傷」を清算した36歳の青年の再生物語……なのかもしれません。

 

ちなみに、本文の結末は……

 

興味のある方は、是非、読んでみて……

 

って言うか、読んでみようかなって思ってる方はブログを閉じてって言ったのに……

 

まあ、それでもイイやって方は、是非、読んでみて下さいね。