絶望の淵を彷徨っていると、先ほどの2人組の侍の1人が牢にやって来た。


 おかっぴき 「出ろ!身元を保証する者が来たから釈放だ!」


 よく分からないが、ここから出られるなら何でも有難い。言われるがまま牢から出て無事に釈放となった。表に出ると、そこには「伝馬町牢屋敷」と書かれた大きな看板が掲げてあった。


 聖也 「伝馬町…?確か東京にも似た地名があったような…」


 俺は今の自分がどこで何をしているのか確かめようにも手掛かりがなく呆然とするだけであった。その場にしゃがみ込み、目の前の石ころをボーッと眺めていると、ゆっくりと人影が近寄ってくるのに気付いた。


 女 「無事に出れたのですね?」


 そう、話し掛けてきたのは若い着物姿の女性であった。


 聖也 「あなたが俺の保証人になってくれたのですか?」


 女 「そうです。少々お金が掛かりましたけどね!」 


 聖也 「何故です?というより、ここはどこであなたは誰なんです?もう、何が何だか…」 


 俺は怯え、訴えるようにその女に詰めよった。その女は、ここではまた怪しまれると歩き始めた。


 女 「ここなら大丈夫でしょう…」 


 そう口を開くと、誰もいない神社の片隅でその女はこう話し始めた。 


 女 「私が近所の祠にお参りに行くと、突然、祠の中が光始めたのです。私は怖くなって祠から離れ木の影へと逃げ込みました。するとその光が消えたと同時にあなた様が倒れていたのです…私は怖いながらもあなた様がいったい何者なのか後を付けていました。お召し物もお言葉も、全てがここお江戸の方とは思えずに…」


 聖也 「江戸?ここは江戸なのですか?」


 女 「ここは江戸城下町の外れにございます」


 聖也 「俺はあの祠の前で気を失い、目覚めると江戸時代へとタイムスリップしていたというのか?確かに町並みも人も、全てが俺のいた現実と掛け離れ過ぎている…こんな事があるのか?」 


 半信半疑で受け入れつつある俺は、もう目の前の女性に頼るしか方法はなかった。


 聖也 「俺の名前は聖也。あなたのお名前は?」


 お菊 「お菊と申します」


 聖也 「お菊さん。信じてもらえるかどうか俺にも分からない状況ですが、俺はこの日本の未来から来たようです。今からおよそ四百年後の…四百年後の、とある祠で俺はお参りをしている所、突然気を失い気付いた時にはこの時代に来てしまったようです」 


 俺は今までの経緯を全てお菊さんに話した。こんな信じられない事を言った所で何も解決しない事は分かっていたが、お菊さんは疑う様子もなく受け入れてくれたのだ。お菊さんは澄んだ瞳で、真っ直ぐ俺を見つめこう話してくれた。 


 お菊 「今の私は怖い物はありません。そして聖也殿が私の前に現れたのは祠の神様の思し召しだと思っております…」


 鈍感な俺でも、お菊さんが今、何かに困っていて神頼みをしているという事だけは悟った。しかし、この時代に生きている訳でもない俺に、いったい何が出来るのであろう。ただ、お菊さんに助けてもらったのは事実。この恩は返さなくてはならない。もう少しだけお菊さんの話を聞いてみる事にしたのだ。


つづく