どのくらい意識を失っていたのだろう。朝もやのような霧が立ち込めている山林からすると、きっと時刻は早朝なのか?目の前には先ほどの祠があるだけで何も変わってはいない。ただ、持っていたリュックサックが見当たらない。もしかしたら、意識を失っている間に盗まれてしまったのかもしれない。一先ず下山し、助けを求めなければ自宅に帰る事すらできない状況である事は分かっている。俺は来た道を戻り、駅前の交番を目指した。しかし、来た時と何やら景色が違うような違和感を感じた。道には看板や標識などが無くなっており、道も凸凹で整備されていない。不思議に思いつつもひたすら歩き続けた。そしてようやく建物が見え、街中に戻ってくる事ができた。だか、目の前に飛び込んできた広がる風景に自分の目を疑ったのだ。 


 聖也 「ここはいったい…どこなんだ?」


 そこは木造作りの家屋や、ちょんまげ姿の侍、商人、町娘など、どう見ても江戸時代かなにかの風景になっていたのだ。まさか道を間違えて「撮影所」に入り込んでしまったのかもしれない。そう思い、俺は申し訳ないのだが、近くにいた着物姿の女性に声を掛け、駅までの道を訪ねる事にした。


 聖也 「すみません、道に迷ってしまい駅まではどう行ったらよいのでしょうか?」 


 町の女性 「えき?それは何でございましょう?」


 聖也 「えっ?駅です!あの電車が停まる…」


 町の女性 「でんしゃ?おっしゃられてる事が分かりませんので、ごめんなさい」 


 いったいどういう事なのだろう。他の人に聞いても知らぬ存ぜぬ。むしろ、俺の事を怪しむように逃げて行く人までもいた。何が起きているのか分からないまま、俺はその町を確かめるように歩き始めた。撮影所にしてはやたらと人が多いし、何より俺を不思議そうに見ている。早くこの場から逃げたい気持ち一心で進むと、侍の格好をした二人組が近寄ってきた。


 おかっぴき 「お前、どこから来たのだ!名は何と申す!」


 聖也 「いや、俺は旅行で来たんですけど、道に迷ってここに…」


 おかっぴき 「家はどこなのだ?」


 聖也 「東京です」 


 おかっぴき 「とうきょう?そんな所はない!怪しい奴め!番屋まで同行願おう!」 


 俺は侍二人組に捕らえられ、「番屋?」という所まで連れていかれたのだ。そこにはその二人組の上司らしき侍がいて、何度も名前や住んでる場所を聞かれ、まるで警察の取り調べを受けているかのようだった。そしてその時に思い出した事がある。確か、俺が幼い頃に父親がよく見ていた時代劇ドラマのワンシーンで、番屋とは今で言う「交番(警察)」と言っていた事だ。そう、俺は不審者扱いでここに連れて来られたという訳だ。 


 聖也 「ちょっと待ってくれ!俺は怪しくもないし、ただ道に迷っただけの旅行者なんだ!」 


 いくら説明しても取り合ってくれない。むしろ、俺の服装や言動がこの場に相応しくない状態に「異国人」とまで言われる始末である。俺は本当にタイムスリップでもしてしまったのだろうか?今の状況がうまく飲み込めずパニックに陥りそうだった。そして最悪の事態に、牢に閉じ込められてしまったのである。
どのくらい時間が経ったのだろう。壁の高い所にある小さな格子からは、すっかり日が落ちた暗闇のみが広がっていた。色々と頭の中を整理して落ち着かせようと考えてみる。


 聖也 「俺は旅行に来た。そして目的のペンションは無くなっていた。暇潰しにペンションの裏にあった獣道を進んだ。祠の前で気を失い、目覚めたら江戸時代っぽい所にいた。そして、おかっぴき(警察)らしき奴等に捕まって、牢屋に入れられた!」 


 いくら考えても何が何だか分からない。夢を見ているのか、何かに騙されているのかと絶望の淵を彷徨っていると、先ほどの2人組の侍の1人が牢にやって来たのだった。


つづく