姑からの電話を、パンダ男はあっという間に切った。
「…わかったから…!」
と最後に姑に言った。
声量は控えめだったけど、「ら」にすごく力がこもってた。
パンダ男が苦しそうだった。
来たな、と思った。
来るべきものが、来たのだ。
私もパンダ男も、取り乱したりはしなかった。
パンダ男に事情を告げられ、私は何と言っていいかわからなくて、とりあえず「ああ、うん」とか、言ったように思う。
「最長で半年後には、もう同居しているって計算かな」
どちらからともなく、そんな会話を始めた。
お金はない。
でも今は、二人とも働いている。
狭いマンションくらいなら、もしかしたら買えるのかな。
それとも、中古の一軒家、なのかな。
中古のマンション?
いずれにしても、3人でアパート暮らしは、経済的に無駄だ。
姑は、どうしたらいいの、って言った。
助けて、と、すがるようだった。
お金がない、が口癖の姑にこれから新たにアパートを借りろ、とは言えない。
まして、今まで姑が住んでいた家と同じか、それより安い物件なんて、今彼女が住んでいる界隈にはないし、彼女自身が言うところの「年寄り」が、新たな場所で独りで住んで、環境の変化で病気でもしたら・・・。
それに、パンダ男は、ほんの少し、親戚のことも考えたようだった。
この状況で母を放り出したら、叔父たちになにを言われるのか、わからない、と。
同居しない、という解答が導き出されるためのルートは一つだけだったけど、それは、姑が壊したんだ。
「どうしたらいいの? かあさん、どうしたらいいの、パンダ男…!」ていう、声、一つで。
私とパンダ男は同じことを考えていた。
常日頃から、私たち夫婦には絶対に迷惑をかけないから、と嘯いていた姑だったのだから。
まず、自分で考えてくれ、と。
アパートを借りることはできるのか、そうしたくないのか、できないのか。
同居するのか、したくないのか、それとも、前々から言っていた、「年をとったら若い夫婦に頼らないでうちに来ればいいよ」って言ってくれるお友達のところにいくのか?
・・・今考えると、ね。それまで住んでいた家をあと半年で出ろ、とか言われたら、てんぱってろくに考えられないのは、わかるんだけどね。
泣きながら電話してくるのは、卑怯だ。
泣きながら、すべての決断を委ねるなんて、ずるすぎる。
取り乱さなかったって書いたけど、嘘かもな。
この後、私とパンダ男は、姑の家に向かった。
アパートを出る前、私はちょっとだけ泣いた。
「もっと、ずっと、二人だけでいたいよ。三人目は赤ちゃんがいいよ」
パンダ男も、ちょっと泣いた。
彼は、涙もろいんだ。
もうちょっと、続きます。