相談窓口を設置し、実際相談者が来たとき、相談を受ける人は、相談する人から、様々は情報を聞きだすことになります。その手法として、傾聴がいいと言われています。では、傾聴とは、どういう手法なのでしょうか。

 

人から話を聞く手法をは、大きく分けて2種類あります。ひとつは、構造化面接、もうひとつは非構造化面接です。構造化面接は、あらかじめ聴く内容を決めておくやり方です。非構造化面接は、聴く内容を決めずに面接します。傾聴は、非構造化面接の部類に入ります。

 

傾聴では、相手に、とにかく自由に話をしてもらいます。こちらから、聴く内容を指定しません。相手の思うまま、考えるままに話をしてもらいます。そして聴く側は、相手を遮ることなく、おかしいなと思っても否定することなく、聴きたいことがあっても質問もしない、するとしたら相槌を打つか、聴き取れなかったことを聴き直す程度で、とにかく聴くのみに徹します。人は、自分の話すことを否定されたり、内容を追及されたりすると、安心して話ができません。相談は議論ではありませんから。傾聴では、話をする人は、自分の言うことを否定されないし追及もされないので、安心して自分の気持ちを素直に話すことができます。ですので、傾聴は、相手の気持ちを引き出すのに、とても有効な手法です

 

しかし、この傾聴、やるとなると、かなり難しいんです。研修などで実際やっていただくと、その難しさがわかります。

まず、人の話の中で、はっきりしないことや矛盾などがあると、質問したくなることが出てきます。それで、思わず質問してしまったりします。でも、傾聴では、質問することはできません。質問したら、相手の話を、こちらがコントロールしてしまうことになります。自由に話をしてもらうのが傾聴の根本思想ですので、それに反してしまいます。また、その質問が、相手を追い詰めることにもなりかねず、相手が安心できなくなり、自分の気持ちを話をしてくれなくなってしまいかねません。

また、傾聴では、自分の先入観をなくして、相手の考えや感じ方に忠実に従うことが求められます。自分の考えや感じ方にあわない、おかしいと思うことであっても、相手に忠実に従う。人は、先入観に支配される生き物です。先入観を捨てるというのは、思いのほか難しいんです。また、矛盾していることでも、たとえ法令違反であっても、そのまま受け入れなければなりません。思わず言い返したくなる気持ちをぐっと抑えて、ただ仏像のように聴くに徹する。

なので、傾聴の研修をすると、その難しさに、うなりを上げてしまう人も出てきます。

 

さらに、相手に自由に話をしてもらうと、こちらが聴きたい情報が得られないことがあります。相手が言いたくない、またはいうに値しないと思っていることは、言ってくれません。それを言ってもらうまで待っていなければならない。何度も何度も面接を繰り返さざるをえず、両方にとって負担です。時間が限られている面接です。効率よく情報を聞きだす必要があります。傾聴に徹すると、時間がかかるおそれがあります。

 

そもそも傾聴は、カウンセリングの手法として編み出されました。カウンセリングでは、クライアントの恢復が目的です。自分の気持ちや考えを自分の外に表現して、自分を客観視することで、恢復を図るのが、傾聴の目的です。情報を聞きだすことは、傾聴の本来の目的ではありません。

 

しかし、傾聴が、相手の気持ちを引き出すのに有効であることはたしかです。また、自分の気持ちや考えを語ることで、相談に来た人の気持ちが楽になる効果も期待できます。さらに、傾聴をすることで、相談を受ける側とする側との間に、信頼関係ができ、その後の流れがスムーズにいく可能性が高くなります。相談窓口としては、傾聴という手法を、うまく使いたいですね。

 

傾聴を活用するやり方として、傾聴を、面接の導入に使うというのがあります。つまり、相談に来られたら、まずは傾聴に徹する、そして、気持ちや考えが出だしたら、構造化面接に移行する、という流れです。もし2回以上面接ができるのであれば、最初の1回は傾聴に徹する、2回目以降に、構造化面接をする、でもけっこうです。そうやって、うまく使っていきたいですね。

 

傾聴は、難しい手法ですが、研修や訓練で、誰でもできるようになります。ぜひ、職場でご活用ください。

 

当事務所では、社労士でありカウンセラーでもある私が、相談窓口や傾聴などの相談や研修を承っております。お気軽にご相談ください。

 

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